第92話 収拾が付きません
「あ、秋音さんを堕とすって、どういう意味ですか桜さん?」
「文字通りです、アロイス様。要するに秋音様を孕ませ「女の子がそんなこと言わないの、桜」
桜さんが、何か凄いことを言おうとしたようだが、左手の人差し指で彼女の口を押さえた。何故か恥ずかしそうに頬を染めた桜さんであったが、あなたが言いかけたことの方が恥ずかしいんですからね?
「しかし、あまり時間もありませんぞ、纏いし者よ」
師が、桜さんに代わり話を続けた。
「冬華さんは、何故こんな状態に…」
「ちょっと!いい加減に放しなさい!」
俺が師に問いかけようとしたとき、俺の右手の方から声がした。天断さんとは声が違うぞ、誰だ?何だか聞き覚えがあるような気もするが、はて。俺は自分の右手を見た。そこには、さっきから無意識の内に掴んでいた乳神様の『フィギュア』があった。でも、それは俺の手の中から逃げようとして藻掻いていた。
「な、な…」
「放してって言ってるでしょう!」
俺は目の前に乳神様を持ってくると、まじまじと見つめた。確かにやたらとリアルだと思ったが、さっきまでは素材通り、硬かった感触が、今は若干柔らかい。そう、まるで本当に小さな人間の胴を掴んでいるような感じだ。小さいながらも艶めかしいボディラインは、劣情を刺激するには充分で。思わず下から覗きたい衝動に駆られたのは、仕方のないことなのだ、うん。
「ど、どこ見てるのよ!この変態!」
必死になって足を閉じている、いじらしい乳神様を見て、俺は次なる衝動を抑えることが出来なかった。俺は左手を乳神様に向けた。
「な、何をするの!」
ぱいたっち
「ひゃっ!やめっ」
おお、柔らかい。これが、乳神様の乳神様なのか。夢中で指の腹でこね回していると、絶対零度の視線が俺を貫いた。あ、これは社会的に死ぬやつですな。
「…何をしているんだ貴様は」
あ、桜さんじゃなかった。何故か件のミニスカハンターが俺の目の前に現れた。
「ああ、これは、えーっと、紳士の嗜み?」
「ほう、貴様の中ではそれが紳士のやることなんだな?」
視線の温度が更に下がった。絶対零度以下に下がるんだな、すげぇ。ここまで逝ったら、もう開き直るしか。
「柔らかいものがあれば、取り敢えず揉んでみるのは紳士の嗜みだ」
キリッ
「紳士というのは、エロゲバ野郎のことなのか?情婦春香」
「きっとそうなんでしょ、あのゲス野郎の中では。っていうか情婦じゃないって言ってるでしょ!」
これまた、どこからともなく現れた夏織さんと春香さんであった。
「だ、誰か止めさせて!ひゃぅ!」
その間も、俺の右手からは艶めかしい声が響き続けていた。この声って、やっぱり、あれよねぇ、元ネタの中の人の声だよねぇ。
うわぁ、ヤベェ。エロボイスやべぇ、勃ってきたかも。
「貴様、この状況下でよくそこまで没入できるな。いい加減に止めんか!」
「この状況下、状況下?…はっ、冬華さんは」
秋音さんの突っ込みで、ようやく『穢れの衝動から解放された』俺は、冬華さんの状況を確認した。ちなみに左手は動き続けている。紳士たるもの、役目を疎かには出来ないのだ。
冬華さんは、いつの間にか起き上がっていた。というか、若干浮いていた。両腕を少し開き、俺の方を凝視していた彼女は、一言で言うと、神々しいまでに美しかった。燃えてしまったのか、一糸纏わぬ姿の彼女は、全身の火傷痕から青白い炎のようなものを吹き出し、濁っていた左目からは深き闇が溢れていた。そんな彼女は、重々しく口を開いた。
「わ、私も混ざりたい…」
「は?」
その場の全員が、思いを同じくした瞬間だった。思わず俺の左手も止まってしまい、緩んだ俺の右手から、乳神様が抜け出ていったが、それどころでは無かった。
「と、冬華さん、一体何を…」
「私も、他の巫女様と同じように、美しくありたい」
それは、彼女の魂の慟哭だった。
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私も、変われるのだろうか。
こんな風に表情豊かで、色んな格好で、肌を晒して、お洒落を楽しめるのだろうか。
諦めていた。自分でやったこととは言え、アロイス様と周囲の人たちを見ると、色んな感情が渦巻く。
里の巫女として一生を終えていれば、きっと分からなかった、感じなかった感情だろう。
恥ずかしげもなく愛を叫ぶ、その声に、私は気付けば涙を流していた。
私も、変わりたい。そして、あの人に綺麗と言ってもらいたい。あの人の隣に、居たい。
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「私も、自分の想いを好きなように告げたい」
あのアニメ見ながら、そんなこと考えてたのか、冬華さん。まあ、確かに強い女性の話っぽいもんな、あれ。
「私も、綺麗な服を着て、愛を歌いたい」
そして、恍惚とした中にも、悲しみを湛えた彼女は、涙を流しながら言った。
「私も、無垢な魂をあなたに穢されたかった、アロイス様」
いやいやいや、待て待て待て待てちょっと待て。
「俺はそんな悪逆非道な男じゃ…」
「私は穢されてないぞ!勝手に一緒にするな!」
秋音さんが猛然と否定している。そこまで必死にならんでも。
「こんな変態に穢されるなど、虫唾がはし、る、ううん!!」
虫けらを見るような目で俺を見ていた秋音さんが、いきなり蹲った。
「が、がはっ、な、何がっ」
まるで何かに圧迫されているように、秋音さんが苦しんでいる。い、一体何が起きているんだ。
俺の頭が混乱を極めそうになったその時、状況を静観し、背景のように動かなかった桜さんが、動いた。
「いけません冬華様、秋音様が死んでしまいます」
「私の、アロイス様を、貶めるな」
「お気持ちは分かりますが、秋音様もアロイス様の巫女となる方なのです。矛をお納めください、冬華様」
え、冬華さん、俺のこと気に入ってたの?そんな素振りあったか?
「むうう」
桜さんに諭された冬華さんは、頬を膨らませた。何この子、めっちゃ可愛いんだけど。
今回のあらすじ?
乳神様の乳神様は、やっぱり乳神様でした(何




