第89話 三つ目は黒歴史
さて、俺は今、エロフの森の中に来ている。熊さんには出会ってないぞ、イヤリングは落としてないからな。
「アロイス様、こちらですよ」
桜さんの案内でやってきたそこは、何とも表現に困るところだった。
見た感じ普通の森にしか見えない、聖域と呼ばれるそのエリアには、幻術か何かが掛かっていて、森を守る役を務める秋音さん達ウッドエルフの民でも入れないらしい。案内役は居ないので、俺と桜さん、そして高位の術師であることから幻術には強いだろうということで、冬華さんの3人で来たのだが。道中は普通に整った道であったし、結構奥に入っても特に幻術らしき妨害も無かった。
「特に何もないなぁ。幻術の解除とか何かしたの?桜」
「いいえ、私は何もしておりませんよ、アロイス様」
そう言うと桜さんは、右手の人差し指を顎に当てると、首を傾げて考える素振りをした。か、可愛いんだけど、その仕草。男がやってもイラつくだけなんだが、可愛い女子がすると、どうしてこう、破壊力が増すのかね。
あんたの場合は何やってても可愛けりゃ良いんでしょ、とか慈愛の大天使様の天の声が聞こえたような気がするけど、気のせいだよな?だよな!
「アロイス様だから、ではないですか?」
「え、俺のせい!?」
ふぁっ、なんか変な返しになってしまったが、桜さんは見事にスルーした。
「アロイス様が穢れを纏われているから、と考えるのが一番しっくり来ますね」
「そうですね、神霊の森の聖域結界は、私も聞き及んでおりますけど、誰も突破できなかったという話でしたから。法術でどうにかなるようなものでしたら、恐らく私も何か感じるかと思うのですが、先ほどから探っても何も無いようですし」
間に合わせの車椅子擬きで移動している冬華さんが、桜さんに続いた。
「そんなもんかねぇ」
まあ、その道の専門家と完璧超人がそう言うなら、きっとそうなのだろう。餅は餅屋、分からないことは考えない、考えない。それが俺の、生きる道。でもあの人最後死んだんじゃなかったっけ?
「そう言えばさ、冬華さん、全然話変わるんだけど」
「はい、何でしょうか」
俺は、冬華さんが会話に加わったタイミングで、前から気になっていたことを聞いてみた。
「その車椅子、どうやって動いてるの?」
「これは、法力で車輪を動かしているんですよ、アロイス様」
「法力で、車輪動かせるんだ、へー」
「あまり効率はよろしくありませんけれど、私の場合は押してくれる人も居ないものですから」
冬華さんが、ちょっと悲しそうな感じで言った。だから、俺は勿論。
「じゃあ、俺が押していい?」
「え?あ、いえ、そんなつもりで言ったわけではないので、お気になさらず」
「いいのいいの、俺が押したいから。嫌だったら言ってね」
「嫌ではないですけど…」
俺は、冬華さんの車椅子を押した。持ち手が付いてるわけでもないし、舗装路でもないから、とても押しにくいし、かなり揺れるし。でも、俺は押してあげたかった。
「なかなか揺れるね、これ結構辛いんじゃない?」
「座布団を厚めに敷いておりますから、見た目ほどは辛くないのですよ」
「でもちょっとは辛いんだろ?遠慮せずに言いなよ、俺の巫女さんなんだから」
「あ、ありがとうございます…」
そんなやり取りを横に、桜さんがぼそっと一言。
「う、羨ましいです…」
ど、どこに羨ましい要素があるの?え?
「アロイス様に、そんなに優しく気遣っていただけるなんて。あのアロイス様に」
おい待て、それではまるで俺が気遣いのできない鬼畜野郎ではないかね、ん?
「ですが、今朝の情報交換会では、久し振りだったからか、それはそれは激しかったと、まあ春香様は若干嬉しそうでしたけども、もう少し女の体を気遣って欲しいとおっしゃっておりましたよ」
…君たち、一体何の情報交換をしているんだ。
◇◇◇
程なく、ちょっとした広場のような場所に出た。木がまばらに生えているその中央に、それは建っていた。
………あれ、マジで?
森の中にある、場違い感甚だしい鉄筋コンクリート造の建物。その入口には、電飾の看板がかかっていた。
「…アニ〇〇トじゃねぇか、ふざけ過ぎだろ」
誰だよこんな森のど真ん中にこんなもん建てたのは。こんな誰も来ないところに建てれるなら、俺の地元の店潰すんじゃねぇよ。
ア〇〇イト擬きの店内に入ると、実際の店舗よろしく様々なグッズが所狭しと置いてあった。しかも、店内音楽含めて、年代まで合わしてきてやがる。ぐう、俺の黒歴史をこじ開けるような真似しやがって、み〇もたんはどこだ。俺はあれが無いと寝付けないんだよ。
あまりの異次元っぷりに、一緒に来た冬華さんは固まっていた。
「ふぉっふぉっふぉ、良く来なさった、纏いし者よ」
出てきたのは、白髪交じりの爺さんだった。ばっちり店名入りのエプロンを装備して、キャラクターTシャツを着ていたが、そのキャラクターには見覚えがあった。
「そ、それはかな〇たんじゃないか!」
そんなシャツあったのか!俺も欲しかった!
「ふぉっふぉっふぉ、これは正確にはか〇みたんじゃなくてな」
俺とその爺店員とは、その後優に30分は色んな話で盛り上がった。結婚した時に封印した過去が、色鮮やかに蘇った。ああ、涙出そう。
「あ、あの、アロイス様、そろそろ」
話し込んでいた俺の後ろから、桜さんが声を掛けてきた。
おお、『穢れのせいで』我を忘れてしまっていた。流石の桜さんも、ちょっと引いたかな、と思いきや。
「い、いかがですか?」
…ふぁっ!ふぁふぁふぁっ!おお、麗しの理〇たんが!〇〇たんがktkr!
俺は、見事にコスプレしている桜さんの肩をガシっと掴んだ。初めての反応に、流石の桜さんも戸惑いを隠せないようだ。
「あ、アロイス様?」
「…いい、とても良い仕事をしているよ、桜さん」
「あ、あの…」
「原作を忠実に再現するなら、きっとそれが最高になるんだろうけども」
けども!俺は、桜さんに力説した。
「ルーズソックスは無しだ。せめて、ハイソックスにしてくれないか」
「は、はい、分かりました」
俺に圧倒されている桜さん、初めて見たかも。
今回のあらすじ?
ああ、懐かしのセン〇〇街(いやいやいや
…ひとには、知らなくても良い世界もあるんだよ、坊や




