第9話 法具
仕事が始まると、なかなか厳しいですが、何とか更新。
※評価やらブクマやら、していただいている方がいらっしゃるようです。ありがたや。
「さて、隷属の証も渡されたことですし、次に移りましょう」
メニカムさんは、俺がサクラさんの左手薬指に指輪をはめたのを確認すると、また話し始めた。手続きはまだ続くようだ。次は何だろうか。
「次は、隷属の証に、奴隷が主人に真に隷属することを刻みます」
おお、証に刻むとか、なんかファンタジーっぽくないか。俺ファンタジー結構好きだから、こういうの聞くとワクワクしてくるよ。おじさんだけど。
「まあ、刻むとか言いますけど、法具で情報を登録するだけですから。ひょっとして、法具をご存じないですか?」
メニカムさんが、俺のワクワク感を察したのか、聞いてきた。なんか、知ったかするのも面倒になってきたので、素直に知らないと伝えた。案の定、メニカムさんの少しクドい法具説明が始まった。
まあ、要約すると、法具もマジックアイテムの一種、ということらしい。が、他のマジックアイテムと異なる点は、王宮の許可制になっているということだ。いつの間にかレアさんが持ってきた、この奴隷登録の『効果』を発揮するという水晶玉みたいな法具は、王宮の許可がなければ使用はおろか、所持すら認められないらしい。ちなみに王宮内には法具専門の工房があり、そこで作った物を流通させているそうだ。つまり、メニカムさんは、王宮に認められた正式な?奴隷商ということか。
他にも結構な種類の『効果』が許可や登録制になっているらしく、規制で専売特許にして既得権益の囲い込みに走るのは、どこでも一緒だなぁ、と若干感心してしまった。
人間が作れるもんなら、きっと偽物も出回るんだろうけど、その辺りは需要と供給、リスクとリターンの話になってくるよね、きっと。夢なのに、凄いな。まあ、細かい話は他にもあるんだろうけど、もういいよね。
「では、手を出して、この上にかざしてください。サクラさんは左手を」
満足に説明できたのか、若干嬉しそうなメニカムさんは、ノリノリで俺とサクラさんを促す。強面のおっさんがノリノリなのは、それはそれで怖い。
俺も、サクラさんと合わせて左手を出した。水晶玉に、ぼんやりと何かが浮かぶ。
「では、まずアロイス様、ご自分の名前をイメージしてください」
自分の名前、と言われて、一瞬本名を浮かべてしまった。ヤバい、俺は、アロイス、オレハあろいす。水晶玉に『Alois』の文字が浮かぶ。え?何これドイツ語?綴り合ってるの?まあ、いいや。
「はい、主人の登録が出来ました。次に、サクラさんの名前をイメージしてください」
サクラさんの名前、サクラか、漢字で書くと桜だなあ、そう言えば長い間花見行ってないなぁ、なんてちょっと違うことを考えてしまった。
「えっと、これは『サクラ』と読むのですか?」
ん?なんかメニカムさんが言ってるな、と水晶玉を見ると、そこには『桜』という漢字が浮かんでいた。えーっと。
「そうです。私の故郷では、そう読みます」
俺が答えようとした矢先に、サクラさんがメニカムさんに伝えていた。というか、メニカムさんは漢字が読めない、でもサクラさんは読める。でもどっちも日本語話してる。Why?
……まあ夢だし、気にしない方向で。
「そうですか、ではこれで」
俺に確認もせず、メニカムさんは次の行程に進む。うん、間違ってないし、気にしない。
「では、登録します」
とメニカムさんが言った瞬間、水晶玉から閃光が走り、俺は咄嗟に目を右腕で隠した。
「お、終わりましたか?」
俺が目を隠したまま、恐る恐る聞いてみると、何故かメニカムさんは若干上擦った声で答えた。
「は、はい。終わりました。……手は、戻していただいて大丈夫です」
俺とサクラさんは、共に手を水晶玉から離した。
「凄い光りましたね、びっくりしましたよ」
俺は、ドキドキしながらメニカムさんに言った。こんなに強烈に光るんなら、先に言っておいて欲しいものだ。
「そ、そうですね、私も驚きました」
メニカムさんも驚いた、ということは、通常であればここまで光ったりしないってことなんだろうか。
「光の強さとか、何か関係というか、影響があったりするものなんですか?」
興味本位で、俺はメニカムさんに聞いてみた。彼は左手を顎に当て、少し考える仕草をした。強面のおっさんが眉間に皺を寄せている。これは、何だかヤバい気がするのは気のせいだろうか。
「……いえ、私も分かりません。こんなことは初めてですので」
メニカムさんの話によれば、通常は法具、この場合は水晶玉が軽くポワッと光るだけで、閃光が走ったりはしないそうだ。彼は状況分析をしているうちに少し熱が入ってきたのか、あーでないこーでないと自分の推測を言い始めたが、またこれ話長くなるパターンじゃないのかよ。そうか、もういいや。気にしたら負けだ。夢なんだから、何か特別感があった方が面白いってことで良しとしよう。
俺は、今は商談中だし、その刻むというか、登録が出来てるのなら、検証は後日専門家にでもして貰えば良いのでは、とやんわり伝えて、ようやくメニカムさんの脱線は終わった。
「すみません、マジックアイテムのちょっと珍しい動作とか、どうしても気になる性分でして。お時間ばかり取って申し訳ないことです」
「いえいえ、お気になさらず。私は特に急ぐ用事もありませんし、知らないことを色々と教えてもらってますから、感謝しているくらいですよ」
……で、仕切り直し、である。
「さて、これで後はこちらが作成して保管する証書の内容を確認いただければ、奴隷取引については手続き完了です。ただ、最後にひとつだけお願いが」
メニカムさんは、一呼吸置いて、出来ればなのですが、と切り出した。
「これよりサクラさんはアロイス様の奴隷になるわけです。通常、奴隷は主人の所有物であり財産ですので、主人の身に万一のことがあった場合、財産として相続手続きの対象となります」
なるほど、主人が死んでも、奴隷は解放されないわけか。まあ、そうでもなければ不審死する主人が続出しそうだけどな。
「ですが、アロイス様は国外の方ですし、この国に身寄りの方もおられないと思いますから、もしその時は、サクラさんを奴隷身分から解放していただきたいのです」
そこまで聞いたところで、黙って話を聞いていたサクラさんから一瞬剣呑な雰囲気が立ちこめたような気がした。でも、きっと気のせいだろう。だって、剣呑になる理由が無いのだ。奴隷にしてみれば願ったりな条件ではないだろうか。
まあただ、寝首を掻かれたら、それはその時って感じだな。第一サクラさんは俺と色々エロエロな関係になる予定な訳だが、それを拒否したいと彼女が本気で思っていれば、どっちにしたって俺の身の安全など無いに等しいのだ。
「いいですよ、分かりました。まあ、その万一の時が、すぐに来たりしなければ良いんですがね?」
俺は、無意味だと分かってはいつつも、釘を刺さずにはいられなかった。
自分で言うのも何ですが、ちょっと練り切れて無いかな、という感じです(汗)
まったり続きます。




