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総務おじさん探訪記  作者: 中澤 悟司
総務おじさん、覇(歯)道を往く
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第87話 本音

「なあ、同志春香、ひとつ聞きたいんだが」


 ひとしきり自己紹介も済んだ後、夏織さんがそわそわしながら春香さんに話しかけた。


「何かしら、夏織ったら、改まって」

「…あ、あのな、その、あの」


 真っ赤になりながら、何かを聞こうとするかおりん。ああ、大体想像はつくが、それってここで聞かなくても良くない?


「何?どうしたの?夏織には珍しく、はっきりしないわね」

「あの、あ、あう」


 金魚か鯉みたいにパクパクして言葉にならないかおりんを前に、イラチな春香さんが迫る。


「何、何なのよ一体。どうしたのよ、夏織」


 パクパクかおりんが俺の方を向いた。え、ここで俺に振るの?いやいやいや、それ無理、なんつーことを。

 夏織さんの反応に怪訝な顔をしながらも、春香さんが俺の方を向いた。


「アロイス、夏織に何かしたの?」

「い、いや、あのな、春香さん、何かしたと言うか、ナニをしたと言うか」

「…は?」


 さっぱり分からない、という表情で春香さんは俺を見つめる。ああ、そんな曇りなき眼で見つめられたら、いじめたくなってきちゃうじゃないか、くふぅ。


 俺が意識を飛ばしかけていると、どこからともなく森のエロフ様が顕現された。ああ、相変わらず尊けしからんミニスカハンター様、最高です。


「…邪な気配を感じたと思ったら、貴様か、変態」


 すっかり変態呼びが板についてしまった秋音さん。ああ、そんな目で見られると目覚めそうなの。


「確かに邪だわ」


 そこ、意気投合しない、春香さん。


◇◇◇


「そうか、それで歯でも材料でもなく、本人を連れて帰ってきたと?」


 拠点にしていた宿屋に着くと、飯を食いながら、俺は久し振りに揃った一同に対し、冬華さんを連れてきた状況を説明した。例の如く、途中から桜さんが超解釈でゴリゴリ違う方向に進めていくのを、俺は諦めの境地で任せていたのだが。


「まあ、そうですね」


 俺は義歯の材料が足りなかったら困ると、作れる術師である冬華さんを拉致って帰ってきたと、そういうことになっていた。何その頭悪そうな理由。後すまん、途中から差し歯の話すっかり忘れてたわ。どうしよう、噛まれたら痛いからヤダって桜さんも春香さんも言ってたって話だったな。噛み方を工夫した方が良いんだろうか、例えば(以下検閲)


「阿呆か、お主は」


 ハル爺がため息をついた。ええ分かります、俺もそんな理由で女子攫ってきたら、何考えてるんだこいつは、と思いますよ、はい。


「…全く、そんな雑な言い訳で悪者になろうとせんで良い」


 突然、慈愛のこもった目でハル爺が俺を見た。


 は?どういうこと?超解釈がスキップしたの?ねえ?


「…流石に山脇様の目は誤魔化せませんか」


 桜さんまで、何その安い推理小説みたいな展開。俺が色々と考えている間にも、勝手に事態は進んでいく。ハル爺は、冬華さんに向かうと、徐に口を開いた。


「冬華殿の身は、東青家が庇護いたしましょうぞ」


 ハル爺の言葉に、冬華さんが驚いていた。


「い、いえ、青龍守様の庇護を受けるなど、我が身には過ぎたる待遇です」


 その言葉を聞き、ハル爺が春香さんを伺った。春香さんは何も言わず、ただ頷いた。


「お嬢の、いや、東青家御息女、春香様の御意向なれば、是非とも受けていただきたく」

「私からもお願いしますわ、このような処遇を捨て置くなど、武家の名折れですから」


 冬華さんは、頭を下げた。


「この身に余ることでございますが、有難く頂戴いたします」

「うむ、うむ、ごゆるりと、養生なさるが良い。この東青家家臣、山脇信春が、冬華殿の後見人となりましょうぞ」


 彼女の身の上話もさることながら、同じ巫女ということで、また増えた春香さんの女友達を助けたかったのだろう。ハル爺、ホントに春香さんに甘いからなぁ。


 話を終えた俺は、皆と別れ、冬華さんと桜さんを伴って部屋に戻っていた。春香さんは、夏織さんに拉致られていった。いや、逆か?まあ色々と話したいこともあるんだろう、きっと。


「さて、先ほどの話で、冬華さんの身元は保証されたと言っていいでしょう」

「あ、ありがとうございます、アロイス様」


 冬華さんは、しかし言葉とは裏腹に、油断ならないといった目で、俺を見据えた。


「ひとつだけ、お伺いしたいことがあります」

「…俺に答えられることであれば」


 桜さんに支えられつつ、冬華さんは、はっきりとした口調で言った。


「今の私は、本当にアロイス様に必要なのですか?」

「それは、どういう意味ですか?」


 またこの子は、同じ話を蒸し返す気だろうか。しかし、次の瞬間には、彼女の目には力は無かった。


「私とて女なのです。正直申し上げて、その、居た堪れないのです」


 分かっていただけますでしょうか、と冬華さんは俺を見つめた。火傷で引きつった冬華さんの顔と、女神の如き美貌である桜さんの顔が、並んで俺の方を向いていた。


 …ああ、なるほど、そういうことか。他の面子も、系統は違えども、勝るとも劣らない美人揃いだからなぁ。例え男が何と言おうと、女には辛い、そういう話か。


「それを言われると、俺も煩悩にまみれた普通の男ですからね、ええ。見た目の良いものを好まないわけではないですよ」

「であれば、余計に」


 降りたいのであろう、冬華さんには悪いが、事情があるのでこちらも変えられないのである。俺は彼女の言葉を遮った。


「何か勘違いをしているようですが、俺は誰でも良いわけじゃない。見た目が良ければ何でも良いわけでもないし、見た目が悪いからと何でも切り捨てるわけでもない」

「そう、なんですか」

「ええ、そうです。俺にとって必要だから、有用だから傍に置く。正直に言えば、見た目が良ければ尚良いのは本心ですが、多少悪いからと言って遠ざけるほど、俺は、それこそ見る目の無い男ではないつもりですが」

 俺の、耳障りの良いであろう言葉を、冬華さんは静かに聞いていた。これで納得してくれれば、苦労はないのだが。


「…なのですか」


 小さく呟くように発せられた彼女の声を聞き取れず、俺は聞き直した。


「ん?」

「多少、なのですか?」


 彼女は自嘲するように言った。


「この醜い顔も、半分髪の無い頭も、火傷で汚く、あなたを受け入れることもできない体も、多少なのですか?」


 冬華さんの、嘲る中にも真剣に俺を見るひとつの瞳は、嘘は許さない、という力に満ちていた。俺は、本心を包み隠さず伝えた。


「そうですね、多少ではないのかもしれない」

「やはり」

「だが!」


 俺は冬華さんに言葉を繋がせず、目の前の彼女を捕まえた。俺と桜さんに挟まれて、冬華さんは進退窮まったように固まった。


「そんなことで、俺がお前を必要としなくなるわけじゃない」

「え…」


 俺に迫られて、冬華さんの目に怯えの感情が見えた。が、俺は構わず続ける。


「冬華、俺にとってお前の価値は、そんなこと関係ないんだよ。それに」


 俺は冬華さんの耳元に口を寄せると、囁いた。


「お前の心はとても傷付きやすくて、愛らしいことを、俺は知っているよ」


 俺が掴んでいた冬華さんの肩が、震えた。

今回のあらすじ

女を口説くのは慣れないな、ふっ(えー

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