第81話 冬華
予想通りというか何というか、やっぱり気絶した俺は、気が付くとどこかの建物の中で寝かされていた。
「お目覚めになりましたか、アロイス様」
俺が起きたのに気が付いたのか、桜さんが話しかけてきた。
「ここは?」
「奥平の集落にある、巫女様の庵ですよ、アロイス様」
…え?展開早くない?
「目覚めましたか」
桜さんの後ろから、声がした。少ししゃがれているが、どうやら若い女性のようだ。
「ええ、たった今、お目覚めになりました」
「それはようございました」
桜さんの横に立ったその女の顔は、焼け爛れていた。
「え、っと、こちらの方は?」
この流れからして、一人しか該当人物は居ないと思うが、つい聞いてしまった。
「私の名は冬華と言います。この庵の主ですわ」
「冬華さん、ですか」
「ふふっ、名前などよりも『奥平の鬼女』と言った方が良いかもしれませんね」
そうですか、やはりそうですか。
奥平の鬼女こと、冬華さんは、隻眼の醜女だった。頭から頭巾のようなものをかぶっていて、髪型は分からないが、左目は瞳孔が白く濁っていて、きっと見えていないのだろう。顔全体が焼け爛れていて、唇は歪に歪んでおり、鼻も半分くらい潰れている。右目は何とか瞬きできるようで、黒い瞳が覗いている。体の前で組んだ手、右手は顔と同じように火傷の跡があり、黒く変色しているところもあった。足が悪いのか、車椅子のようなものに座っている。なかなかにインパクトのある見た目をしていらっしゃる。あと、あの車椅子、車輪はどうやって動いているんだ。手で動かしているようには見えなかったんだが。
しかし、今はそんな感想を考えている場合ではない。俺は桜さんに支えてもらい体を起こすと、冬華さんに頭を下げた。
「布団を貸していただき、ありがとうございます、冬華さん」
冬華さんは、少し驚いたような表情、は顔全体の火傷のせいかあまり変わらないので良く分からないが、そんな雰囲気になった。
「…いえいえ、お気になさらず。お体はいかがですか?」
「ええ、休ませていただいたお陰で、随分と楽になったようです」
ゆっくりしていただいて構いませんよ、と言い残し、冬華さんは部屋を出ていった。あの車椅子、やっぱり手で車輪を押してないな。他の人に押してもらっているわけでもなさそうだし、どうやって動いているのか分からん。あ、小人さんか、小人さんが押しているのか?それか椅子の裏側で必死になってペダル回してるとか?気になる、凄く気になる。
が、本題はそこではない。彼女が部屋から離れたのを確認して、俺は桜さんに話しかけた。
「なあ、桜」
「はい、何でしょうアロイス様」
「彼女は、冬華さんは、何に驚いたんだろう」
桜さんは、暫く答えなかった。珍しいこともあるものだ、と俺は彼女の方を見た。彼女もまた、目を丸くしていた。え?俺、何か驚くようなこと言った?
「え、あの、分かっていて言われたんではなかったのですか?」
「へ?」
俺、何か言いましたか?
結局、何がどうなのか、分からなかった。そう言えば、車椅子の話、桜さんに聞きそびれた。
◇◇◇
数日が過ぎた。俺は相変わらず、巫女様こと冬華さんの庵でお世話になっている。体は若干違和感が残っているが、まあ怠いとか、疲れが残っているわけではなさそうだ。サマンサさんは、またどこかに行ってしまったし、夏織さんは気持ちが悪いくらい大人しい。滞在初日、俺が寝ている間に何かあったのか、きっとあったんだろうなぁ。というか、いつまでここにいることになるんだろうか。宿くらいあるだろうから、そっちに移った方が良いんじゃないか、と桜さんに話したら、体調が戻られてからですね、とはぐらかされてしまった。俺って、体調が悪いのか?これ。
一方で、たった数日だが、冬華さんと過ごした俺は、違和感を感じていた。彼女は毎日、同じ行動をしている。決まった時間に起き、決まった時間に祈りを捧げ、決まった時間に食事をし、決まった時間に雑事を行い、決まった時間に寝る。集落の人たちも決まった時間にしかやってこず、会話もほぼしない。動く経路も基本的に全く同じ。俺が居なければ、きっと会話することも、行動が変化することも、ほぼ無いのだろうと、そう感じた。彼女の外見も相まって、まるで作り物の人形が規則的に動いているようにも感じた。
「その、火傷の治療は、終わっているのですか?」
幾度かの会話を経て、俺は冬華さんに、初見から気になっていたことを聞いた。彼女の火傷は、どう見ても、治療をしたとは思えないような痕であったから。
「医者にはかかっておりませんから、治療自体をしておりませんの。お見苦しくて申し訳ないことですが」
「いえ、そんなことは無いのですが」
「お心遣い、ありがとうございます」
そう言うと、冬華さんは濁っていない右目を細めた。俺は、一旦話題を変えることにした。
「冬華さん、私がここ、奥平に来たのには、理由がありまして」
「ええ、そうでしょうね」
「もしかして、桜さんからお聞きになっていますか」
「いえいえ、何も聞いておりません。ただ、こんな田舎の何も無い集落になど、何か理由が無ければ来ないでしょうから」
確かに、そうかもしれない。観光地でもないし、湯治場があるわけでもない。何か目的がなければ、まず外部の人間が訪れることはないであろう。それこそ、目の前の人物に、直接何か頼み事をするとか。
「そうかもしれませんね、でも、私はここに来る理由がありました」
「…どういったご事情で?」
若干勿体つけたような言い方になった俺に対して、冬華さんは穏やかに問うた。
「私は、あなたの身請けに参ったのです、冬華さん」
「………は?」
冬華さんの、変わらないと思っていた表情が、明らかに変わった。
今回のあらすじ
目覚めたら、いきなり目的地だった。
※端折り過ぎだな(ぉ)




