第78話 サマンサの暗躍?
何とか日の出ているうちに吹雪は弱まったが、天幕の数が足りなかった。天気の急変に設営が間に合わず、数が足りなかったのだ。このままではむさ苦しい男連中と乙女達(笑)が同衾する羽目になる。どこに乙女が居るんだって?さあ、迫力笑顔のなんちゃって奴隷さんと、大店の箱入り暴走娘ですが。
そう言えばサマンサ嬢はどこ行ったんだ?まあ、あの人に限って、遭難とかは絶対に無いと思いますがね。桜さんに聞いても笑顔が返ってくるだけなので、きっと大丈夫なのだろう。もう慣れた。しかし、一応自分の連れでもあるのに、こんな状況でもさほど心配もしてないなんて、こっちに来る前の俺なら考えられないな。これも何かの思考誘導なんだろうか。いや、きっと本当に心配してないんだな、割と何でもアリな人たちだからねぇ。
とか色々考えてたわけですが、そもそも『嘆き』を凌げなければこんな呑気な話も出来なかったのですよ。凄い嵐だったよ、音と振動しか分からんかったけど。だから、幾ら弱まったとはいえ、もうすぐ暗くなるのに、乙女達(通称)の貞操(笑)のために、今から別に天幕張れとは言えないです。ということで、その日は多数で雑魚寝することになった。桜さんと夏織さんに、皆が遠慮したが、俺が乙女達と野郎どもとの間に挟まって一夜を明かした。
良い香りがするから落ち着かない、ってのは、うん、確かに分かるよ荷運びの兄さん。刺激強いもんねぇ、色々と。そっちの『天幕』張るくらいなら良いけど、本人たちに手は出さないでね、と冗談めかして言うと、お兄さん達の顔が引きつっていたように見えたのは何故だろうか。
翌日以降も、降り積もったばかりの雪に足を取られながらの移動は、想像以上に時間と体力を使うものであった。更に、また吹雪に見舞われたりで、予定より大分遅れて麓の集落に辿り着いた。集落に辿り着いた途端、同行していた若い衆が競うように宿の女たちの元に集まっていた理由は、聞かないであげようと思う。
「あー、やっと一服、といったところか」
「そうですね、アロイス様、お疲れさまでした」
一行と一旦別れて宿の部屋に入り、俺は行儀悪く床に転がっていた。連日の雪山歩きで、かなり足にキていた。はー、風呂無いのかな、風呂。足のマッサージしたい。
「食事の前にお風呂に行かれますか?」
「あー、そうだなぁ。野宿続きで汚れてるし、風呂入ってさっぱりするか」
俺と桜さんは連れ立って、すぐ近くにあるという温泉に向かった。やっぱりあるのね、温泉。猿も浸かってたりするのかね。
ちなみに、夏織さんはどうした?というと、部屋は別で、しかも着いたらすぐに『暴れられる』賭場を探しに出てしまった。可愛い小物が大好きだったり、意外と乙女趣味な面もある女子なんだけど、本当に吉正さんの前以外では取り繕うことをしない、安定のかおりんである。というか、揉め事は勘弁してください。
で、温泉に向かうと、何故かサマンサ嬢が既に待機していた。
「おや、サマンサさん、今までどちらへ?」
どうせまともに返事は返ってこないんだろうけど、と思いつつ話を振ってみると。
「実は先行して、ここ数日、こちらの集落で色んな方にお話を伺っておりました」
「お話?何の?」
「奥平の鬼女についてです」
ほー、何か?チミは案内が居ないと遭難しそうな雪山をあっさり単独踏破した上で、温泉に浸かりながら情報収集だと?凄い、そして羨ましいぞ。こっちの若いのは雪焼けしながら必死こいてやってきたってのに、優雅だな、おい。だが、何でも把握してそうな桜さんが頼んだのか?しかも何してたか聞いたら、こんなにあっさり教えてくれるなんて、今までに無い展開だな。
「そうなんですか、で、何か気になる話でもあったんですか?」
「まあ噂程度でしたけどね。また後程お伝えいたしますよ」
教えてくれる気があるらしい、やはり何かあるのか。
「さ、参りましょう、アロイス様」
思索の底に沈みかけた俺を、桜さんの柔肌が急激に引き上げた。ああっ、またそうやってはぐらかそうとするんだから。
「さ、桜、俺は先に少しサマンサさんに話を聞きたいんだが」
少し嗜めるように声をかけると、桜さんはちょっと拗ねたような声を出した。
「後で、とサマンサも言っているではないですか、それとも」
そして必殺の上目遣い!
「サマンサをお召しになるのですか?」
はい、陥落しました。サイゴン燃ゆ(ぁ)
◇◇◇
疲れが取れたのかどうかイマイチ良く分からない感じで温泉から帰ってきた。温泉て、そういうことする施設だったのかー、そうだったのかー。まあ、トル(自主規制)ってのもあるくらいだしなー(激違)
さて、相変わらずそんなに美味くないがもう慣れたこの世界の飯を食い、俺と桜さん、サマンサさんの3名が宿の部屋に揃った。ちなみに夏織さんはまだ賭場にいるらしい、元気だなかおりん。俺なんて八甲田山ばりの行軍で疲れているところに、温泉イン〇ール作戦で、もうね、足腰その他色々と勃たないですよ、はい。
うん、そう言えば、相変わらず桜さんは綺麗だったなぁ、ほっこり。手や顔も、雪山から降りてきた直後とは思えないくらい綺麗だったのだ。お兄さん達とか、結構焼けてたんだけどなぁ。鏡で見たわけではないが、俺自身もあんまり焼けてないのだろう、きっと。鼻の頭とか、頬とか、違和感が無いのだ。ここ、『無い』というのが不自然なのだが、サマンサ嬢も山越えしてきただろうに、綺麗なものだったな。なんか、巫女さんを手に入れてからか、穢れを纏ってからか、人間を辞めつつあるのかもしれないな、俺。
ちなみに、サマンサ嬢や桜さんはって?矢傷が跡形もなく消えるんだから、もう気にしても仕方ないだろう。
そんなこんなで、サマンサさんの話を聞こうとしていた俺だったが、桜さんの食後の膝枕があまりにも気持ち良くて、結局そのまま夢の世界へ旅立ったのだった。
◇◇◇
「…寝ましたね、アロイス様」
アロイスが完全に眠りに落ちたことを確認して、サマンサは桜に声を掛けた。
「そうね、疲れていたんでしょう、色々と」
桜は、膝枕をしているアロイスの髪を撫でながら、うっそりと微笑んだ。世の男たちなら誰でも見惚れるであろう、この世のものとは思えない程の、その蠱惑的な美しさに、サマンサは震撼していた。この顔をする時の桜は、もう既に何も見ていない。暫くの付き合いの中で、サマンサはそう学んだ。
「巫女様は如何お過ごしなのかしら?」
視線も向けることなく問うその声に、サマンサは若干萎縮しながらも、はっきりと答えた。
「巫女様はご健勝でございました」
「容姿はどう?」
「あれくらいでしたら、特に問題は無いかと」
「そう」
桜は、アロイスの髪を撫でていた手を止めた。
「佐久夜様から様子を聞いた時には、どうしたものかと思ったのだけれど、そうなのね」
「はい」
桜は、サマンサに目を向けた。
「私はあなたでも良かったのだけれど」
「…お、お戯れを」
そう答えながら、サマンサは、表情が引きつるのを感じた。実のところ、別にそうなったらそうなったでも良い、と彼女は思っていた。矮小ではあるが、意外に面白いのだ、この男。しかし、それは『違う』と、主は判断したのだ。そうであれば、その命に否やなし。
「そうね」
桜は、彼女に笑顔を向けた。それでもって、サマンサは、ようやく人心地ついたのだった。
今回のあらすじ
タイトルまんまでした
思わせぶりなようですが、思わせぶりです(ぉぃ)




