第74話 義歯を求めて三千歩
内容が無いよう回なので、あらすじ知りたい方は後書きへ(え)
お姉さま方による日勤教育と、その憂さ晴らしにブーストしてしまった春香さんとの夜間活動を経て、結局何も変わらない翌日が始まった。
拠点にした小さな宿を出た俺たちは、まず一つめの目的である俺の義歯を作ってくれる窯元だか工房だかを探すことにした。佐久夜さんが、まあ、正確にはドクターの方だが、ここなら作ってくれんじゃね?とわざわざ言うくらいだから、少なくとも手がかりくらいはあるだろう。
「聞くのも野暮だとは思うが、腰は大丈夫なのか?アロイス殿」
夏織さんがニヤニヤ笑いながら聞いてきた。からかうつもりだろう割に顔が赤いのは、うっかりかおりんの本領発揮であろう。さて、どう料理してやろうか。
「途中からは春香さんが動いてくれたからね、俺はそうでもないよ」
「そ、そうなのか?」
「そうそう、こーんな感じで」
「違いますよ、こんな感じでしたアロイス様」
俺と桜さんで腰をフリフリ。やめて桜さん、あなたがやると動きが艶めかしくて辛い。
「あ、いや、実演はいい、から」
ほら、かおりんが入力過多で熱暴走しかかってるよ。
「全く、返り討ちに会うんだから止めればいいのに」
「き、貴様こんな朝から恥ずかし気も無く不埒な真似を!」
今朝も元気に秋音さんが吼える。えー、俺だけじゃなくて桜さんも一緒にやってたんだけどな、しかもかなりダメなやつ。え?桜さんは良いって?知ってましたけどね、そのオチ。
なんだかんだと朝から騒ぎつつ歩くこと暫し、俺たちはとある窯元にやってきていた。
「ここは何という窯元なのだ、秋音嬢」
主が諸事情により宿でダウンしているにも関わらず、珍しく付いてきたハル爺が、秋音さんに尋ねた。
「ここは置水といいます、山脇様」
「ほう、ここがかの有名な置水というか」
「そうですね、この里でも名の通った窯元です」
ハル爺は嬉しそうに、サマンサさんに話を振った。
「サマンサ嬢は置水を知っておるか?」
「ええ、存じております。こちらの湯呑などは、手に持った時に、重心がしっとりと馴染むのが良いですね」
「おお、流石はサマンサ嬢、目の付け所が違うのぅ」
ああ、ハル爺はこれがやりたかったのね。盆栽トークが始まったので、この2人は放置しておこう。
軒先で話し込んでいるハル爺とサマンサさんをそのままに、俺と桜さん、夏織さんは秋音さんの先導で作業場の中に入っていった。
◇◇◇
「歯を作れって?」
出てきた職人さん、焼き窯の主だから窯主と言うらしいが、窯主さんが不可解だと言わんばかりに問い直してきた。
「はい、そうなんです。正確には歯の土台の表面部分ですけど」
俺は、ぱっかり割れた差し歯の表面コート材とでも言うのか、表側の白い部分を見せた。
「こういうのを作ってほしいんですが」
窯主さんは、コート材を手に取ると、指で強くつまんだり、目の前に近付けたりして確かめていた。
「磁器か?貝の張り合わせ?それとも石か?」
窯主さんは、爪で押してみたり、光で透かしてみたりと、なおも触り続けていたが、不意に俺の方を向いた。
「おいあんた、これは何でできているか分かるか?」
はて、聞かれたが、素材は何だろうか。強化プラスチックなのか、セラミックなのか、意表を突いてコーリャンなのか、何にしてもどうやって説明するんだ。そんな素材があるようにも思えない。あったにしても、金属土台に貼り付けるための接着方法はどうするんだ。歯医者さんがよく使ってる、白いセメントみたいなやつで付けるのか。凝固促進?するための、あの青だか紫だかの光はどうするんだろうか。ドラゴンが俺の口に向かって火でも吹くのか?体の中から焼け死ぬわ!
と、うだうだ考えること暫し、痺れを切らした窯主さんが口を開いた。
「なんだ、分からんのか」
「うーん、恐らく、…樹脂を固めたか、焼き固めた骨を削ったか、そんなところじゃないかと思うんですが」
「…ほう」
窯主さん、何やら感心してますけど、さっきからそれ、口に持っていこうとしてないか?あー、どっかの市長みたいに、嚙んでみたいんだろうか。でもそれ、きれいに洗ったとはいえ、俺の口の中に十数年入ってたものなんだけどな。
あ、不穏な雰囲気を発してる方が約一名いらっしゃるな、若干寒気がしてきた。それ口に入れるのは、色んな意味でやばいよ窯主さん。
「あの、それ口に入れるのはちょっと」
「ん?歯にするんだから、口に入れてみんと固さとか舌触りとか分からんだろ」
ひー!なんか妙に説得力があって困るんだが!困るんだが!!
結局、素材が何で出来ているのか分からんので、同じものは作れないと思うが、と念押ししたうえで、窯主さんは言った。
「歯だから、同じく獣の歯とか、骨を加工して作った方が良いと思うが」
確かに、それは一理ある。焼く、つっても、こんな小さいものだし材料から火加減から全部手探りになると、仕上がりまでどんだけ時間が掛かるか分からんしな。手間賃考えれば、値段も安くないだろうし。
「割れた焼き物の欠片を研磨して使うってのも有りかもしれんが、こいつは何か違う気がするしなぁ」
ああそうか、別にこれだけのために焼く必要も無いか。でもまあ、少なくとも失敗した焼き物では無いと思うが。
「それに、どうやって付けるんだ?」
うん、それは俺も聞きたい。
というわけで、焼き物屋の仕事では無い、ということで、次は細工師のところへ行くことになった。
ちなみに、ハル爺とサマンサ嬢は、作業場から出てきた俺たちに気が付くこともなく延々と盆栽トークを繰り広げていたので、放置することにした。
まあ、二人ともいい大人だし、行き先が分からなけりゃ宿にでも戻るだろう。
今回のあらすじ:歯は焼き物では無かったようだ(何)




