第71話 今度は西へ
前回のあらすじ
ドクターから情報を得たアロイスは、義歯を作ってくれるかも、ということで焼き窯があるという西の森を目指すことになった。
さて、あれから、ってどのあれからか分からんが、まあとにかく嫁様もとい、慈愛の大天使長様との邂逅から数日後、俺は、また旅の人になっていた。今までどこに居たのか分からんが、ハル爺も合流し、また『隠居爺にお嬢様達と下僕』といった風情で、西にあるというエロフの森を目指してひたすら歩いた。
今までと違い、俺の足取りはとても軽やかだった。穢れを纏った?ことによる効果なのかもしれないが、きっと違うだろう。お兄さん、エロフの森ですよ、エロフ。あの佐久夜さんがわざわざ耳の悪い、ああ、今はそうでもないけど、ともかく俺にも分かるように言い間違えたのであるからして、何かあるのは確実。多分巫女さんも居ることだろう。ということは!
今度の巫女さんはエロフ一択な訳ですよ、お兄さん。
いや、あれですよね、大抵オークに種付けされてるタカビーなセクシー美人さんなんですよね?え、多分に偏見と妄想が混じってるって?いいじゃないか、考えるくらい自由にさせてくれよ。結婚してから薄い本なんて買ってないからね。
「お顔が崩れてますよ、アロイス様」
「だらしねー顔してるな、アロイス殿は。どうせ卑猥なことでも考えてるんだろ」
人の顔を何だと思っているのかね、キミたちは。
「あ、あなたあれだけ人のことを弄んでおいて、まだ足りないの?」
そうなんですよ春香さん。もうあなたをイジめるだけでは収まらないのです。溢れる性欲、やっぱりおかしいな、俺。
「そしてその後に必ず起こる同志春香と白衣の天使との修羅場!」
「修羅場じゃないから!」
ああ、今日も今日とて姦しいな、女性陣は。あとサマンサ嬢、お前は嗤うのをヤメロ。
「ああ、お嬢が今日も元気で何よりですな」
ハル爺のお嬢フィルターは、今日も相変わらず分厚い。
「ところで、本気でお主の歯のためだけに、わざわざ西の辺鄙な森まで行くわけではなかろうな」
「え、まあ、そうですね」
ハル爺ってば、冗談通じないからなぁ。何か適当に考えないと。
「そこに巫女様がおられるのですよ、山脇様」
「ほう、巫女とやらが」
そう言うと、ハル爺は腕を組み、少し考える素振りを見せた。ややあって、ハル爺が口を開いた。
「のう、桜よ、以前より気になっておったのだが、その巫女とやらは、一体どういうものなのだ。お嬢にしても夏織嬢にしても、特に不思議な力があるわけでもなかろうに」
「そうですね、私からお伝えしても良いのですが」
ハル爺の問いに、桜さんが俺の方を向いた。
「ここはやはり、アロイス様からお話しいただいた方がよろしいですね」
えー、ここで俺に振ってくるの?まあ、いいんだけど、どこまで話しても良いのか、そもそも話して信じてくれるのか。俺が桜さんに困惑気味の視線を返しても、彼女は美しく微笑むだけだった。
「…とまあ、大体ですが、こんな感じです」
「俄かには信じられんな」
俺の端折りまくった説明を聞いて、ハル爺が感想を漏らした。まあ、そりゃそうだろう。徳や穢れや、巫女や何やと言われても、坊主が経を読み過ぎて、何か血迷ってんのか、くらいにしか思わないかもしれないな。
「だがまあ、お主の持つ、その刀が異様だということは分かる」
「ああ、天断さんですか?」
「銘は天断というのだったか」
ハル爺が、俺の腰に差さっている天断さんを見て目を細めた。
「その刀、本当に常世のものなのか?」
「さあ、正直私にも分かりません」
「それは私も思ってたんだ」
横から、夏織さんが話に割って入ってきた。
「その刀、ヤバ過ぎんだろ。何ていうか、もう武具って言うよりは、妖怪の類と言われた方が納得するな」
『誰が妖怪か!』
俺は、ギョッとした。まただ、俺の腰の辺りから声が聞こえた。どう考えても、流れからして、天断さんが喋っているとしか思えない。だが、周りを見回しても、他のメンバーに聞こえている様子はない。
約一名を除いて。
「どうかしたの?アロイス」
「いや、何でも無いよ、春香さん」
「そう?」
首を傾げる春香さんの横で笑顔を絶やさない桜さん、その陰で、いつもならすまし顔のサマンサ嬢が、何やら思案顔で俺の腰辺りを見ていた。彼女には、声が聞こえたのだろうか。
サマンサ嬢に聞こえたということは、恐らく桜さんにも聞こえているはず。だが、桜さんは鉄壁のポーカーフェイスなので、何を考えているのか全く読めない。
俺に害を為すものだったら、きっと桜さんが止めているだろう。何故かは未だに良く分からないが、佐久夜さんや桜さんにとって、俺は存在価値があるようだから。佐久夜さんは、面白がって放置している、というパターンもあり得るが。
とまあ、色々と考えてはみるが、全ては憶測に過ぎないし、また分かったところで、彼女たちの助けがないと生きていけないという現状が変わるわけでもない。そして、現状を変えようとするには、あまりにも居心地が良過ぎるのだ。
俺は、思案しつつも、表には出すことなく、旅の日々を過ごした。
徐々に文章が崩れている気がするのは、きっと気のせいに違いない。




