閑話2 春香のココロ
タイトルまんまです
※ちょっと短め
あの男が、目を覚ました。
もう起きない方が、私にとっては都合が良かったはずで、何故自分が安堵しているのかも、よく分からない。
心配。そう、私は彼を心配していた。心配する要素なんて欠片も無いはずの相手なのに、何故。
自分で言うのもおかしいが、一応は私も乙女なのである。それこそ、自分がどう思おうと『自由』じゃないか、私は花も恥じらう乙女なのだ。筆が転んでも笑うお年頃なのである。自分より強い男が良いと思っていたのだ。いつか私を組み伏せて、私を女として扱ってくれる粋な男が現れると、そう夢見ていた時期もあった。
あの男、アロイスは、とにかく男らしくない男だった。体つきは貧弱で、木刀もまともに振れない。私に勝ったのは、本当に偶然だったのでは、と思わざるを得ないほど酷い。旅の道中など、彼は足が悪いこともあり、歩くのが遅いうえに、一番に体力が尽きるので、女所帯とかいう以前に歩みが遅くなる。格好にも構わないし、冗談も品が無い。歌が詠めるわけでもなければ、何か芸ができるわけでもない。
そんな情けない男のくせに、二日明けずに繰り返し私の体を弄ぶのが、嫌で仕方なかった。それで不覚にも愉悦を感じてしまった自分が、更に嫌だった。しかし、武家の娘として、義務は果たさねばならない。そう言い聞かせ、その夜が訪れるごとに、彼を受け入れた。
そんな私の気持ちが、大きく揺らぐきっかけになったのが、夏織との出会いだった。夏織は、身分違いの恋をしていた。きっと実らない、鍛冶見習いと大店の箱入り、かどうかは微妙だが、まあ良家の娘には違いない、その2人の、しかもまだ片想いの恋。例え結ばれても、茨の道だろう。それでも、夏織は構わない、と言う。別に相手と結ばれなくても、自分の気持ちは本物だから、例え他の男と契りを結んだとしても、この気持ちまでに嘘は付きたくない、と。
ただ好きなだけ、と夏織は笑っていた。
それが、本心なのかは分からない。ただの強がりなのかもしれない。だから、夏織が巫女だと桜から聞いた時、私の心は複雑だった。
「まだアロイス様には、誰かはお伝えしていませんが、アロイス様の巫女となる方は、春香様と夏織様以外にもあと二人おられるのです」
「そ、そうなのね」
「春香様と夏織様がご友人になられて、良かったです。アロイス様はともかく、春香様のことを心配しておりましたので」
桜は、私のことを心配していたという。一体、何に対して心配をしていたのだろうか。
「アロイス様の一番の巫女は、今後誰が来ようとも春香様ですから。大丈夫ですよ」
「な…」
私の体を労わってくれる、優しい男だった。不具の体に負けない、強い男だった。女だからと馬鹿にせず、私の努力を認めてくれる器の男だった。東青家の花鬼とも呼ばれた私のことを、可愛いと言ってくれた男だった。
私は、アロイスのことを、既に慕っていたのだ。
昔思っていた殿方との生活とはかけ離れてはいるが、存外私は幸せなのかもしれない。だから、夏織が巫女になったとしても、きっと大丈夫。
そもそも…。
「私も陰ながら助力いたしますよ、春香様」
にっこり笑った彼女、桜には、きっと誰も勝てない。彼の傍には、常に桜が付き従う。彼女は彼の奴隷であり、妻ではないという。しかし、誰も信じないだろう。例え本当に奴隷だったとしても、だ。
私は彼の妻でも奴隷でもなく、巫女だ。聞いた話からすれば、妻は替えが効いても、巫女は効かないだろう。つまり、私は必要とされる限りは『あの人』と、ずっと一緒にいることになる、ということ。ならば、嫌いなままよりも、そうでない方が、有意義、というものだろう。
そう考えて、私は己の気持ちの蓋を外した。
ただし。
桜やサマンサ嬢、夏織の胸を見た後に、私の胸を見て励ますのだけは止めていただきたい。
うーん、うーん。
コレジャナイ感が…。
※2022/1/19
閑話にしました
※2022/2/19
もう既に夏織が巫女って知ってるじゃん、ということでちょっと修正しました。
ブランク空きすぎると、自分で書いてるのに細かいところ忘れちゃうんだよ…。




