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総務おじさん探訪記  作者: 中澤 悟司
総務おじさん、伝承を求める
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第68話 そして、大魔神来る

久々ですが、短めで申し訳ない。

 俺は驚愕した。


 いや、驚愕なんて生温い表現では伝わらないだろう、この感情は。しかし、俺はこれ以外に伝える言葉を知らなかった、思い付かなかった。

 それまで悠長に寝ていた俺は、即座に上半身を起こしていた。俺ってこんなに腹筋強かったっけ?とも思わなくも無かったが、それはそれは素早い動きであったろう。


「あ、あ、ああ」


 急に起き上がったかと思えば、まさしく泡を吹いた金魚のように、パクパクと開いた口が塞がらない状態の俺を見て、他の面子よりも先に、慈愛の大天使、看護師様が反応した。


「どうされましたか?大丈夫ですか?」


 即座に首を縦に振る俺。それはもう、首がもげそうなくらい何度も縦に振ったもんだから、三半規管がイカれたのか、気分が悪くなってベッドに倒れ込んだ。うげぇ、気持ちが悪い。


「顔色が優れないですね、脈を見せてくださいね」


 そう言って看護師様は、俺の手首をそっと取ると、脈を取りだした。一方の俺は、震えと汗が止まらない状態だった。


「ふーむ、脈が早いですね、発汗も有り、と。寒気を感じたりしますか?」


 寒気、寒気、寒気、ある意味寒気、それだ、寒気だ。俺はまた首を縦に振った。


「あ、分かりました。大丈夫ですよ、分かりましたから。寒気があるんですね」


 彼女は手早くメモ帳に記入していく。ああ、やっぱりピンク系の可愛らしいメモ帳だ。

 その後、血圧と体温を計測した。古めかしい水銀血圧計を準備する看護師様の胸元を、俺は必死で見ていた。他から冷ややかな視線を感じたが、今はそれどころではない。俺は、その胸元にある名札を確認したかったのだ。そして、そこにあった名前は、俺を更なる混乱へと叩き落した。


 看護師様は首を傾げながら、至高の微笑みを浮かべた。


「血圧は高めですが、体温は平熱ですねぇ。ひょっとして、何か緊張されてますか?」


 既に見開きっぱなしだった俺の目、看護師様の胸にロックオンしていた俺の視線は、そこで彼女から若干外れた。というか、目が泳いだ。本当に泳ぐんだな、目って。

 俺の目が彷徨いだしたのを感じたのか、看護師様は少し思案顔になったが、何をどう捉えたのか。口元を緩めると、優しく告げた。


「ふふっ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?」


 何故だろう、全然笑っていない彼女の目の奥に、奈落の底が見えた。


◇◇◇


 念のため医師を呼んでくると言い残し、看護師様は部屋を出て行った。


「な、何というか、凄かったな」


 凍り付いた空気を、夏織さんが破った。特に何があったわけではない。変わったやり取りがあったわけでもない。が、一触即発な空気感がそこにあった。


「初めて見た看護師さんでしたけど、綺麗な方でしたね、アロイス様」


 桜さんが、心なし黒い笑顔で俺を見ている。


「そ、そうだな、ハハハ」


 約一名、胸が、胸がとぶつぶつ呟いている女子もいたが、俺は放心状態であった。




 何故。




 まず来たのはその疑問であった。ここは俺の夢の世界ではなかったのか。いや、夢の世界だ。だからこそ、看護師様の胸元の名札はあの名前になっていたに違いない。そう、これは夢。夢に違いない。人間、究極に都合が悪くなると現世から旅立つものだが、今の俺はまさにそれであった。




 どうして。




 次に来た疑問はこれであった。名札の名前からすると、看護師様と俺とは見ず知らずの他人のはずである。しかし、あの雰囲気は、俺のよく知っているそれであった。理屈が合わない、やはりこれは夢だ。夢なんだから、夢みたいなことが起きたって構わないじゃないか、うん、構わない。俺は悪くない、悪くない。


 お、落ち着け、落ち着け俺。急いては事をし損じる。急がば回れ、果報は寝て待て。そうか、寝れば良いんだ、夢なんだから、寝れば良い。寝たら夢から覚めるはず。でも覚めないんだった。そうだ、これ夢だけど夢じゃないのか、お、俺はどうしたら良いんだ。




 どうしよう。




 よ、




 嫁様が、俺の夢の世界に御顕現あそばされた。

今回のお話:看護師さんは嫁様だった(すわ修羅場)

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