第66話 メタモルフォーゼ!(やめろ)
勢いに任せて書いてたら、無駄に長くなりました(おい)
作者的には葛藤が胸熱なんですが、内容は薄いので、さくっと行きたい方は、後書きへどうぞ。
仕方がないので、俺は大黒天さんに聞いた。
「何ですか、これは」
「こ、これは変身する道具でな」
それっきり彼は固まってしまった。俺も固まりたい、しかし隣の人が許してくれそうにないんです。
「え、えっと」
「じ、実はな、我もあまり知らんでな。使い方は分かるか?お主」
いや、分かるかと聞かれれば、分かるんだよ、確かに。使い方も良く分からんものを渡すとか、どうなのよそれ、と思うだけのことで。
ただ、これを使っている大黒天さんは、ちょっと想像したくない。
「お分かりになるんですか?アロイス様」
ヤラセだ、これはヤラセだ。俺は疑惑の視線で桜さんを見遣ると、桜さんは無垢な瞳で見返してきた。あー、無理、これ無理。いや、これは桜さんじゃないな、あれだ、あの人だ。どこまでも悪ノリする人っぽいからな、危険人物だよホント。
「まあ、分かるというか、見たことはあるというか」
大黒天さんから渡された箱に入っていたのは、見た目まんま、子供のおもちゃであった。特撮ヒーローとかが使う、所謂変身グッズだ。何故知っているか、ウチの子供も持ってたからな、全く同じものを。しかも2個。兄弟で取り合いの殴り合いを始めるので2個買いましたですよ、奥さん。
結構いい値段した記憶があるなぁ、とか思いつつ、箱を覗き込む。何この質感。元々おもちゃにしては凝った作りだったとは思うが、記憶よりもやたらとリアルというか、高級路線な気がする。確か外観はプラスチッキーな質感、というかプラスチックそのものだったはずだ。こんなんだったかなぁ、と思いつつ手に取ると、重さは逆に驚くほど軽い。そして薄い。電池が入る関係で、そこそこ重量と厚みがあったはずなんだが、全然である。電池はどうなってるんだ、と裏を見てみると、そもそも電池蓋が無かった。何気なく、箱に目を移すと、これまた見慣れたブツが目に入って、俺は若干うんざりした。
改めて、マジマジと手に取ったブツを眺める。こいつは、子供の夢を叶えるとか綺麗事をほざく拝金主義者どもの作った錬金術のアイテムで、一度手を出したら最後、子供の小遣いはおろか、親のケツの毛まで毟ろうという気満々の代物であった。こいつは、変身ユニット単体では変身できないのだ。近年のシリーズ物では、カードやらメダルやら別売部品で性能も外見もパワーアップする仕様になっていて、抽選や食玩タイアップの限定版や、旧作品の主人公まで動員してしまえるというチートアイテムもあり、これまた別売のゲームとも連動するという、子供のコレクター魂に火を付け収集沼に沈めてしまうという、泣く子も黙る素晴らしい集金システムを毎年構築していた。箱の中にあるカードというかカートリッジというか、とにかく変身ユニット本体の空きスロットにぶっ挿せば、挿したブツに応じて様々にパワーアップしたんだっけ、確か。
ということで、我が家では家庭内平和維持のため漏れなく2個ずつ買う羽目になり、追加で何種類買わせるつもりだよ、とうんざりした日々が既に懐かしくなっていることに涙が出そうになった。
確かこのカートリッジにも電池が必要だったんだよな、とカートリッジの裏を見ると、こちらは電池蓋がない代わりに、如何にもな溝が3つあった。その内ひとつには、メダルっぽいのが入っていた。100円玉くらいのサイズだろうか、メダルを溝から押し出してみると、これもまた高級感溢れる精巧な細工が施されている。え、これってカートリッジだけじゃなかったっけ、過去作にはメダル集めるやつもあって、職場の同僚が子供のために必死になって探しまくってたような記憶もあるが、もしかして、これって、ひょっとしてそういうことですか。俺は、メダルをそっとスロットに戻した。再度カートリッジを見れば、カードスロットみたいなものも見えたが、こっちは何となく記憶にあった。
こちらもまたユニット同様、作りが良くなっている気がする薄いカートリッジを手にしながら、俺は状況を改めて確認していた。子供と何回となく遊んだので、変身の手順は覚えてしまっていた。まさか、アラフォーのおっさんに、何の脈絡も無く素面でアレをやれと、そういうことですか。
片手に変身ユニット、片手にカートリッジを持ったアラフォーおっさんは、隣に佇む絶世の美女の方を見た。ああ、何この期待に満ち満ちた視線は。次に、目の前の世紀末な七福神の1柱を見た。ああ、こちらはこちらで哀願するような、居た堪れない目つきで俺を見つめているではないか。やめろ、そんな目で俺を見るんじゃない。
何とも言えない沈黙が場を支配した。正直、俺はこのまま立ち去っても良いと思うのだ。しかし、例え僅かな時間とはいえ、互いに想いを共有した戦友を見捨てて敵前?逃亡など、紳士の風上にも置けないではないか。風下だっけか、どっちだっけか、いや今はそんなことはどうでも良い。俺は徐々に追い込まれていった。そして、ヤケクソになった。そもそも何だこれは。高級感溢れるとは言え、所詮は子供のおもちゃじゃねぇか。カートリッジやメダルを集めろってか?俺はそんな暇じゃねぇんだよ。馬鹿にしてるだろ、これ。あー、考えてたらイライラしてきた。
よし、やってやる。少佐だって初めは一兵卒だったんだ。やってやる、やってやるぜ、幼稚園児も真っ青の本気モードで、お父さんはガチで変身したるわ!バッタ野郎の如くユニットを腰に当てると、ベルトが出てきてガッチリ固定された。もう既に後には引けない。今まで様々な尊厳を失ってきた俺なのだ、今更これくらいの羞恥プレイでどうにかなると思うなよ。
何だかよく分からないポーズを決めたアラフォーおっさんの魂の叫びが、鬱蒼とした森に木霊する。こうなりゃ全部やったるわ!
「カートリッジ起動!」
カートリッジを腰のユニットに押し付けると、カートリッジのカードスロットが開き待機モードに、ユニットは待機モードから認証モードに切り替わる。俺は、ポケットから白銀のカードを取り出し、言葉を続ける。
「挿入!プラチナカード!」
出したカードは、密かに自慢のプラチナカードであった。個人認証カードなんか持ってない。カードと言えばクレジットカード、異世界だろうが関係無い!
カートリッジにプラチナカードを突っ込む。直後、1次認証成功のモード切替音が響く。こいつ、動くぞ。そのまま、カートリッジの生体情報読み取り部分を握りつつ、決め台詞。
「インポート!」
イントネーションから、オンエア時にはイケメン若手俳優が不能だと絶叫カミングアウトしていると話題になった掛け声であった。カードの掛け声と言い、狙ってやってるとしか思えない掛け声と同時に、2次認証に成功したカートリッジをユニットのスロットに勢い良く突っ込んだ。ちなみに、勢い良くやる必要はどこにも無い、ノリだノリ。
おもちゃであれば、この後メロディが流れて、変身成功となる。個人認証カードによる物理デバイス認証、掛け声というか決め台詞でのパスワード認証、カートリッジを握り込んだ状態で行われる生体認証、そして声を判別する声紋認証という、SEが聞いたら卒倒しそうな4要素認証である。実際にここまでやったら、データセンターでセキュア最高ランク取れるんじゃね?
とか最後の決めポーズまでやって現実逃避していたわけだが、どうやら変身機能は本物だったらしい。直後、体の内側から爆発するようなエネルギーの奔流を感じたと思ったら、俺は意識を夢幻の彼方へ飛ばしていた。
そう、有り体に言えば、また気絶した。
今回の要約。
「貰った子供のおもちゃ擬きで変身したら、気絶しました」
以上でございます。




