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総務おじさん探訪記  作者: 中澤 悟司
総務おじさん、伝承を求める
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第65話 男はつらいよ

お久し振りでございます。

紛うことなきコロナ疲れでございます、ハイ。

 半刻も経っただろうか、俺は相変わらず自称大黒天さんと話していた。


「それでですねぇ、扱いが酷いのなんのって」

「まあ、その面子だとそうなるかな。お主も苦労性よな」


 俺は、どう見てもハー〇様なトゲトゲしい革ジャンのデブいおっさんに、今までの話を聞いてもらっていた。そうなのだ、こちらの世界に来てからこの方、俺には話し相手というか、愚痴り相手が居なかった。カオりん含めた女子勢は、愚痴り相手としてはちょっと違うし、メニカムさんやハル爺、橘さんも何かこう、違うのだ。俺が求めているのは、もっと、こう。


「我もまあ、欲の権化とか言う割にこんな人もいないところに放り出されて、たまに誰か来たと思えば命乞いしかしないような連中ばかりでな、うんざりじゃよ」

「それならもっとこう、格好とか、場所とか、あるんじゃないですか?」

「まあ、その辺は色々と事情があってなぁ、勝手に変えられない決まりなんじゃよ」


 自称大黒天さんは、大きく溜息をついた。


「そうなんですか、色々と大変ですね」

「そうなんじゃ、大変なんじゃ。ああ、我もこんな仕事早く終わらせて、南国の浜辺で冷酒片手に清楚で可愛い若女神を侍らせたいものじゃ」


 そう、こういう感じなんですよ。おっさんのドロドロな、沈殿したヘドロのような鬱積したモノを吐き出すには、同じようなモノを持った者同士でないと共感できないというか、愚痴り甲斐が無いというか。


「清楚で可愛い若女神って、何ですか?女神に若いとかあるんですか?」

「そりゃお主、まだスレてない、年若い女神達のことよ。経験を積んだ老練なのは、いくら見た目が若くてもいかん。奴らは男を見る目が厳し過ぎて、こっちの気が休まらん。癒しにならんよ」


 何が癒しの女神じゃ、冗談も休み休み言え、とか言う自称大黒天さんの目は、まさしく仕事と家庭に疲れた中年サラリーマンのそれであった。この人、って人間かどうかも分からんが、奥さんがいたとしたら、家に帰ったら気苦労してそうな感じだ。


 何かこう、凄く、親近感が湧いた。


 更に時間が過ぎた。俺と自称、はもういいか、大黒天さんは、彼がどこからともなく出した酒を呑みながら、うだうだと愚痴話に興じていた。


「し、しかし、お主、先を急いでおるんじゃなかったのか?」


 唐突に、大黒天さんが言い放った。ん?何か会話の流れをぶち切ったぞこの人。せっかく興が乗ってきたのに。


「まあ、いいんじゃないですか。先を急ぐなら、きっと迎えに来ると思いますし」


 何故だか分からないが、大黒天さんと話しているうちに、まあいいや、という気持ちになってしまっていた。元々適当な性格なのもあるが、気にしてもなぁ、という感じになったのだ。どうせ目的も目先は急がないだろうし、本当に急ぐなら、きっと桜さん辺りが勝手に迎えに来るんだと思うんだよ。ほら、今もお酌してくれてるし。


 って、え?


「あれ?桜さん?」


 当然のように俺の隣に座り、俺にお酌をしていた桜さんは、ちょっと不機嫌そうな笑みを浮かべていた。何か、でも不機嫌の対象は俺じゃないっぽいんだけど。


「お酌なら私が喜んでいたしましたのに、手酌なんて寂しいですわ」

「う、うん。ありがとうね、桜さ」

「桜、です」

「あ、はい。ありがとう、桜」

「はい」


 それまで、ドス黒いオーラすら感じそうな勢いだった桜さんであったが、俺が名前を呼び捨てると、一気に明るくなった。そして、いつもの理性崩壊まっしぐらなはにかみ笑顔を見せる。ぐああ、あざとい、この娘あざとい。


 しかし、これで楽しい愚痴り時間も終わりかぁ、と思いつつ大黒天さんを見ると、彼は泡を吹いて倒れそうなくらい、真っ青になっていた。どうしたんだ、急に酒が回ったのか?そんなに呑んでるようには見えなかったけど。


「だ、大丈夫ですか?顔色が何だか優れませんが」

「だ、だだ、大丈夫じゃよ?ダイジョウブ」


 いや、全く大丈夫には見えないんだけど。ただ、ここは彼のことは気にせず、そのまま行かなくてはヤバいと、嫁様に鍛えられた俺の第6感センサーがそりゃあもう盛大にビコンビコンと反応していた。


「そ、そうですか。では、迎えも来たことですし、この辺りでお開きとしますか」

「迎え?そ、そうじゃな、そうじゃそうじゃ、お迎えじゃな」


 あからさまに怪しい大黒天さんだが、俺のセンサーは相変わらず警鐘を鳴らしまくっていた。


「では、とても楽しい一時をありがとうございました」


 俺は、そう言って立ち上がった。この、俺の言葉に偽りは無かった。本当に、誰かにぶちまけたかったのだ。俺が立ち上がるのを支えてくれた可愛い天使には、体の熱はぶちまけられても、この気持ちは流石にぶつけられなかった。そこまでやったら、人間のクズだと思うからな。


「そ、そうじゃ!お主、いや、アロイス殿に授ける、いや、是非お渡ししたいものがあってな」


 お礼を言って、背を向けようとした俺に、慌てたような感じで大黒天さんが声を発した。


「何でしょうか?」


 俺は改めて大黒天さんの方を見た。何やら顔色が本当に悪い。何が起きているのだろうか、とは言え、この状況なら考えるまでもない訳だが、現実逃避気味に俺の脳みそは理解することを拒否していた。

 大黒天さんは、徐ろに何か箱を取り出した。その箱はどこから出したんだ、と思っていたら、彼はその箱を開けた。


「こ、これをお主に渡す」


 その中身を確認した時の俺の感想ったら無い。時が止まるというのは、こういうことを言うんだろうな、きっと。


「こ、ここれですか?」


 大黒天さんは、ぶんぶんと首を縦に振る。もう若干涙目だ、頼むから何も言わずに受け取ってくれ、という気持ちが突き刺さるように伝わってくる。しかし、これは、いったいどういうことなのか、俺の脳みそは理解を諦め、現実逃避から回り回って、ヤケクソになりつつあった。

 俺が意を決して、受け取りの意思表示をしようとした瞬間、ブリザードが吹き荒れた。


「どのような物かも分からないものを、お受け取りになってはいけませんわ、アロイス様」


 あ、大黒天さんが白目を剥いた。

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