第57話 意気投合
明けましておめでとうございます。
相変わらず進まない作品でございますが、細々と続けていきたいと思っておりますので、本年もよろしくお付き合いくださいませ。
「私は、あんたと寝るつもりはない」
桜さんの膝枕という強力な誘惑から何とか脱し、ようやく起き上がった俺に対して、夏織さんが唐突に言い放った。まあ、そうだろう、いきなり理由も無しに『抱いて!』とか言われても困るし、そんな訳の分からんビッチはこっちから願い下げだが。
「でも、春香に興味がある」
「え?」
春香さん、そこで頬を染めるのはどうかと思うぞ。妙な方向に話が進みそうで非常に怖いんだが。
「私は、これでも喧嘩は結構強い方だと思っていたんだがな、まさかこんな華奢な女に負けるとは思わなかった」
春香さんが、更に反応を見せた。なんだ、華奢と言われたのが余程気に食わなかったのか。
「華奢って、春香さんはこう見えてゴリゴリに鍛えてえっ…」
しかし、俺が最後まで台詞を言い切ることは無かった。
◇◇◇
「全く、この男はどこまで行っても女心を解する気が無いというか、何というか」
春香は溜息をついた。自分でも分かっているのだ、華奢とは程遠いことくらい。握れば折れそうな腕、とか聞くと、『お嬢の握力ではまだ折れませんな』とかいう見当違いな助け船を出してくるハル爺とかも大概なのだが、アロイスに言われると何故だか腹が立つ。
「だからって、手刀で意識を刈らなくても良いと思うが」
「これくらいやらないと、この男は分からないのよ」
夏織の呆れた言葉に、強く返す春香。しかし、彼女は知らない。この男は、そんな程度で学習するほど賢くないことを。そして、間違いを正している訳ではないので、きっと次も同じことをやりそうである。
「ともかく、女の身でそこまで至るとは、生半可な努力ではなかっただろう」
夏織の労るような言葉に、春香は衝撃を受けた。周囲から、才能に恵まれていることを称えられることはあっても、努力を認めて貰えたことは、しかも、そこに至るまでの過程を労って貰えたのは、初めてのことだった。春香は、目頭が熱くなるのを感じた。
「あ、あなたもなかなかのものよ、夏織さん。師もいないのに、独力でそこまでいくなんて、相当なものよ」
「ははっ、春香に言われても何だかなあ」
「どういう意味よ!」
そして、昔からの友人のように話し合うふたりを見て、目頭が熱くなるどころか、男泣きに泣いているものがいた。
「や、山脇様、どうされたのですか?」
「いや、良い娘ではないか、橘殿。夏織嬢は良い娘ではないか」
「は、はあ」
良かった良かったと言い続けるハル爺に対し、反応に困る橘であった。
◇◇◇
「んあ、何だ、何が起こったんだ」
「お目覚めですか、アロイス様」
気が付くと、俺は桜さんに膝枕されていた。なんか、今日は記憶が飛んでからの膝枕が続いてるなぁ。ひょっとして発作か何かだろうか。
「ああ。なんかこう、やたらと記憶が飛ぶな、今日は」
「ふふっ、春香様が、アロイス様を意識している証拠ですよ」
良いことですよ、そう言うと、桜さんは微笑んだ。何故春香さんの話になるのか良く分からんが、まあ桜さんがそう言うなら、きっとそうだのだろう。
「そうだ、夏織さんは。春香さんが気に入ったとか何とか」
ちなみに気に入ったのではなく、気になっているだけである。微妙な言葉の違いは、時にとんでもない誤解を生むことがあるので、注意したいものである。
「ああ、夏織様でしたら、あちらに」
そう言って桜さんが示した方向を向くと、そこには見目麗しい女子2名がキャッキャウフフしている、何その桃源郷俺には眩し過ぎて無理、な光景が繰り広げられていた。
「何か良く分からんが、疲れたから今日はもう寝て良いだろうか」
「お休みになりますか?アロイス様」
「うん、何か頭もクラクラするし、横になりたいな」
「では、サマンサ」
桜さんが呼ぶと、サマンサさんが音も無くやってきた。そして一瞬視線を下げ、こちらをチラ見した。何?何さっきのチラ見は。
「はい、何でしょう桜様」
「山脇様に、今夜の宿を聞いてきていただけるかしら」
「はっ、只今」
サマンサさんは速攻でハル爺のところにすっ飛んでいった。ああやってキビキビ動いているところを見ていると、デキる女!って感じなんだけどな。でも俺は見逃さなかったぜ、頭下げる振りして俺の方見て、ニヤッと笑っただろ。
さて、宿の部屋、というか流れで夏織さんの家、つまり朱家の本宅で一晩お世話になることになったので、宿というわけではないのだが、とにかく泊まりの部屋に入り、俺は思索に耽っていた。
桜さんによれば、夏織さんが2人目の巫女、ということらしいが、春香さんのようになし崩しにはなっていない。つまり、2人目の段階で早速躓いているわけだ。しかし、ここに来た本来の目的は巫女さんではない。そう、俺が斬り飛ばした春香さんの刀に代わる物を打てる鍛冶屋を紹介してもらうために来たのだ。話の途中から成り行きで夏織さんとの果たし合いになってしまったが、そっちの話は結局どうなったんだ。
「桜」
「はい、ここに」
俺はさっきまで部屋に独りだったはずなのだが、振り向くとそこには桜さんが居た。どこかに行っていても、大抵は名前を呼ぶだけでこの方、俺の斜め後ろ、死角になっている部分にちょこんと座っていたりする。ということに最近俺は気が付いた。知らないうちに召喚術か何かでも覚えたんだろうか、俺。そんな訳無いか、桜さんが凄いのだろう、きっと。試してはいないが、サマンサさんも同じことが出来そうな気がする。
うん、春香さんやハル爺と出会い、それなりに付き合いも深めていく中で、やはりと思ったことだが、桜さんとサマンサさんは、何かこう、格が違う気がする。まあ、その筆頭は佐久夜さんだが、彼女は桜さんの主?のようだし、まあ同列?同類?なのかな。不快な感じは全くしないが、一方でやはり異質なのだ。どう表現したら良いか分からんが、何か、普通の人間ではない気がする。
そんなことを取り留めもなく考えていると、呼ばれたのに何を言うでもなくじっと自分を見詰めている俺を不穏に思ったのか、桜さんが口を開けた。
「あ、アロイス様、何か御用では」
「ああ、ごめん、桜は可愛いなと思って見とれていたよ」
「…もう、アロイス様は相変わらずお上手ですね」
両手を頬に添えてもじもじする桜さんを前に、いやいやお世辞じゃないよ、とか言いつつ、速攻で『理性って何それおいしいの?』状態に突入しそうになる自分の愚息に無駄だと分かりつつも自制を求めた。桜さん、相変わらずのあざとさ、しかし凶悪なまでに可愛いので許す!全てを赦す!
「あ、あのさ、春香さんの刀の話は結局どうなったの?」
「話、と言いますと?」
桜さんは、何だか不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。あれ?俺何か変なこと言った?おー、どういうことだ?えーっと。
「えーと、あ、そうか。橘さんが鍛冶屋さんを紹介してくれるとかいう話でまとまったんだっけ」
「そうですね、何か、気になるところでもございましたか?」
そう桜さんに問われ、俺は暫し考えた。決して、単に話をすっかり忘れていたことを言うのが恥ずかしかったわけではない。そう、これは深い思慮の結果なのだ。
「うーん、どうしたものか」
「アロイス様、ひょっとして、記憶が混濁されているのではないですか?」
「え?」
どういうこと?何故分かるの?読心術でも使えるのか、桜さん。
「いえ、今日は何度も頭に衝撃を受けたり気を失ったりしておいでですから、ひょっとしてと思いまして」
そうか、そう言えばそうか。妙に記憶が断片的なのも、そのせいか。じゃあ仕方ないな。俺がひとり納得した様子を見て、桜さんは言った。
「暫く横になられてはいかがですか」
俺は、その勧めに従い、桜さんの膝枕でしばらく休むことにした。
本編はあんまり進んでないのに、外伝ばっかり色々とネタが進んでるので、そっちを上げようと思います。
ネタバレを含んじゃうかも知れませんが、まあ大した仕込みでも無いので、皆さん気にならないかも(苦笑)




