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総務おじさん探訪記  作者: 中澤 悟司
総務おじさん、伝承を求める
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第54話 夏織

「国信に匹敵する業物が打てるとなると、日出国、いや、和漢広しと言えども、自ずと限られましょう。腕に覚えのあるものでしたら、幾人かは知っておりますが」


 橘さんはハル爺に向かって言った。ちなみに、和漢というのは、日出国を含む、この近隣一帯を指す言葉らしい。例えて言うなら日中って感じかね?


「それこそ、山脇様、兼松様が最適ではございませぬか?」


 兼松さんか、誰だか知らんが、ハル爺知り合いに優秀な鍛冶屋いるなら、紹介してくれよ。


「兼松は、先の戦で怪我をしてな」

「そうでございましたか」

「全く、鍛冶屋が前に出ずとも良いものを」


 橘さんは、ハル爺の話を聞いて、少し考える素振りを見せた後、口を開いた。  


「……ということは、繋ぎということでございますか?」

「うむ、そう思ってもらっても結構。しかし、半端は困るぞ。良いものならば、お嬢がそのまま持つことになるであろうしな」

「心得ておりますとも」


 そう言うと、橘さんはにっこりと笑った。強面だから、悪人が良からぬことを考えて笑っているようにしか見えん。ハル爺、ノリで『お主も悪よのぅ』とか言わんかな。


 で、ひとしきり話が終わったところで、今まで静かにしていた桜さんが口を開いた。


「ところで橘様。こちらに参りましたのには、もうひとつ目的がございまして」

「な、何でしょうか」


 桜さんは普段と変わらない笑顔に見えたが、纏う雰囲気が一変していた。彼女の紹介の時には、どう言ったら良いのか分からず、取り敢えず身の回りの面倒を見てくれている側仕え的な女性だと伝えたのだが、今の桜さんからは、一介の侍女、なんて雰囲気は微塵も感じなかった。まるで絶対的な女王、いや審判の女神の風格だ。名指しされた橘さんは、まだ何も言われてないのに、既に顔色がなかった。

 うん、分かる分かる、蛇に睨まれた蛙というか、伝説のドラゴンとかの前に丸裸で立たされてるような感覚。あれを喰らって気絶していないあたり、肝が据わっているんだろう。俺?何度か気絶しましたよ、特に佐久夜さんのはヤバい。マジで魂まで抜かれそうになる。いや冗談でやるのはやめて。洒落にならない悪戯だった。

 俺が遠い目をしてトリップしていた間ずっと、たっぷり溜めを作るような間を開けて、


「巫女として、夏織様の身柄を我が主人、アロイス様に捧げていただきたく、参ったところでございます」


 何の説明もなく、そんな話しますか、桜さんや。見ろ、親子が同じ顔してるぞ。っていうか、夏織さんが巫女?この暴走気味の男前な人が?


「……は?」


 先にフリーズから復帰したのは、娘だった。夏織さんは、何言ってんの、頭イッてんのコイツ?みたいな感じで桜さんを見た。


「巫女って、あの巫女?」


 でも一応話を確認する辺り、律儀だな、夏織さん。


「ええ、あの巫女です」


 いや、桜さんや、それでは何が何だかさっぱり分からんと思うんだけど。しかし、夏織さんは納得したように頷いた。


「そうか、あの巫女か」

「ええ、あの巫女です」


 桜さんが神妙な顔で、同じ返事をした。夏織さんも神妙な顔になった。こ、これは、もしや。


「そうか……で、巫女って何だ?」

「知らんのかい!」


 絶対に来ると分かってても、本当にやられると、ここまでの衝撃とは。俺はまるでマンガのように、突っ込んでいた。


 その後、フリーズから復帰した橘さんを交え、桜さんは事情をかなり適当に説明した。微笑みと言う名の威圧は、常に発動しているようで、俺も胃が痛かった。この後、絶対に無茶振りされるからな、この展開は。

 橘さんは、一通り聞き終わった後、非常に困った顔をした。しかし、ハル爺すら押さえつけて威圧を絶やさない桜さんに恐怖したのか、根負けしたのか、ようやく声をあげた。


「そ、その、申し訳ないのですが、実は、夏織には、こんなお転婆な娘ですが、許嫁がおりまして」

「だそうですが、どうなさいますか、アロイス様」


 何故そこで俺に振る!あと悪いオーラ出てるから。分かってんだろうなオラ的な雰囲気を、そんな清純な外見でやらないで欲しいんだけど。しかし、これはあれだ、絶対あれだ。アレをやれということですね、私に拒否権はありませんね、はい。

 俺は、ひとつ息をつくと、ちょいワル的な感じを意識して話した。あくまで意識しただけで、出来てるかどうかは分からんが。


「では、その許嫁とやらをここに呼んで欲しい」

「は?」


 橘さん、固まったよ。うん、心境はお察しいたします。しかし、こちらも退けないのだ。俺は構わず続けた。


「若しくは、何処の何某かを教えていただければ、こちらから出向きましょう」

「そ、それで、一体何を?」


 俺は、出来るだけ傲岸不遜な態度に見えるように頑張った。頑張ったんだよ、俺。いきなり無茶振りされて、俺の中では、傍若無人の代名詞的な、とあるゲームの台詞が浮かんだ。何故かは分からない、突然閃いたそれを、俺はあまり考えることもなく、口にしていた。


「何、そいつを殺して、夏織さんを奪い取る……いや、連れて行くだけだ」


 はい、お父さん目が点になってますよ。完全にキャパを振り切ってフリーズした感じかな。って言うか、俺何言ってんだ、頭悪過ぎるだろ、これ。

 一拍置いて、突如、大きな笑い声が響いた。


「あーっはっはっはっは!面白い!あんた面白いね!」


 必死になって桜さんの期待と言う名の命令に従っていた俺は、突然の笑い声に、思いっ切りびっくりした。今絶対に、ビクッてなったな。


「初対面の親相手に、許嫁殺してでも連れて行くって、普通じゃないね!あんた歌舞伎者かい?いやー、こんなイカレた奴に会ったのは初めてだ!」


 ご機嫌な夏織さんはいきなり立ち上がると、俺の横にやってきたと思ったら、どっかと座り込み、俺の背中をバンバン叩いて高笑いしていた。うん、この展開は予想外です。おじさんが逆にちょっとフリーズしました。何この展開。


「え、あ」

「アロイス殿!先程からの暴言の数々、流石に聞くに堪えませんぞ!」


 あ、ナイスセーブだハル爺。自分でやっといてなんだが、収拾できねえわ、こんなの。

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