第52話 色々あったけど到着
俺と道着お姉さんは、周りを取り囲んでいた野次馬というかギャラリーというか、その囲いの中で向き合っていた。こんだけ人がいるのに、気付かずに突っ込んでいった俺もどうかしてるな。連日の夜戦が激しいせいで疲れているのかもしれん。いやしかしまあ、どうしてこうなったし。
「なあ、俺は特に殴り合う趣味は……」
「まあ待てって、もうすぐ終わるから」
お姉さんは俺の言葉を遮った。彼女は、何かを待っているようであった。それが終わると始まるってことだよね、だったらその間にバックれちまえば良い?こんだけ囲まれてたら、そもそも逃げられん気もするけど。いや、そこは天断さんの出番か。
「夏織さんに3,000だ!」
俺が逃げる算段をしていたら、唐突にそんな声が聞こえた。
「3,000?カオリさん?」
これは、ひょっとして。
「そっちの兄ちゃんは、……1,000だ?」
ギャラリーがどよめいた。まさか、と思って桜さんを見ると、会心のドヤ顔であった。いやあなた、何か単位とか良く分からんけど、これってどう見ても喧嘩博打よね?さっき俺の上に男が吹っ飛んできたこととか、このお姉さんの口調や雰囲気からするに、明らかに場慣れしてるよね。そんな奴と天断さん補正無しで殴り合えと。
いや、無理だろ。
まあ、キャットファイト的な展開なら良いんだけどなグフフ、組んず解れつ、あっ、そんなところ触らないで!とか。
思考が現実逃避を始めると、俺はある意味強い。そうなると、そういう目で見てしまうので、泣く子も黙るセクハラ大魔王と化した俺は、存分にお姉さんを値踏みしていた。
「ははっ、おまえ、余裕だなぁ」
失礼な俺の目線を気にすることもなく、お姉さんは言った。きっとこんな格好で殴り合いしてるんだから、不躾な視線など普段から慣れっこなのだろう。
「いやいや、余裕なんて無いですよ」
「まあ、向こうも終わったようだし、行くぞ!」
俺の反応を待つことなく、お姉さんは突っ込んできた。まずは軽く様子見、とばかりに軽くジャブを放ってくる。おお、意外に慎重な人だな。
対する俺は、ちょっと戸惑っていた。なんせ、見えるのだ、色んなものが、色んな意味で。相手の動きもそうだし、向かってくる拳も軌道からして見える。そして、きっと軽くサラシで巻いてるくらいのパイパイが、動きに合わせてリズミカルにバインバインと動くのも、何度か喧嘩した後なのか、軽く汗ばんでて余計にエロさを放っている谷間とかも。
あれか、春香さんと頑張った成果が、こんなところで出ていると言うのかっ。ありがとう春香さん、君のお陰で見えるぞっ。
「おお!見える!見えるぞ!!」
俺が調子に乗ってジャブを躱していると、驚いた顔をしていたお姉さんが、ニヤッと笑った。これは、何か来る!
「見え、っ!!!!!」
次に来たのは、ハイキックだった。そう、ミニ道着から伸びていた、あの健康的な太股であった。が、考えて欲しい、そんな格好でハイキックなんか繰り出したら、どういう結果になるかを。幼女向けの健全アニメじゃあるまいし、どんなに動いても見えない、なんてことは当然無いわけで。
逆光気味で後光が差してるようにも見えたが、限りなく影で暗く閉ざされた扉をかいくぐり、強化された俺の視界は確かに秘密の花園を捉えた。こ、これは、何てことだ。まさか履いてないとか、レベル高過ぎておじさんはついていけないっ!
分かってかどうか、ギャラリーには恐らく秘密が認識できないくらいの、限りなく一瞬に近い速度で繰り出された美しいハイキックを、避けもせず側頭部に喰らった俺は、その場にぶっ倒れた。
「アロイス!?」
直後、けしかけた責任を感じていたのか、春香さんが飛び込んできた。
「お、おい、大丈夫か」
お姉さんも、まさか俺がもろに直撃を喰らうとは思っていなかったようで、心配そうにこっちに寄ってきた。
「み、見えた」
俺は、はっきりしない頭のまま、思ったままに口に出した。
「は?」
「綺麗だな、うん」
春香さんもお姉さんも、意味が分からずに怪訝な顔をしていたが、俺の視線がお姉さんの太股の根本に固定されているのに気付くと、ようやく分かったようで。
「私の心配を返せ!」
見事にハモった声と共に、俺は盛大に足蹴にされるのであった。口は災いの元である。
その後、俺は春香さんに引きずられて、その場を後にした。いや、軽く脳震盪でも起こしてるっぽいんだけど、もうちょっと丁寧に扱ってくれないかなぁ。そう言えば、と思って姿を探すと、褐色ねえさんが、もう面白くて仕方ないとばかりに、震えながら口を押さえてうずくまっていた。桜さんは、いないなぁ、どこに行ったんだろう。ハル爺は、まるで汚物を見るような目で俺を見ていた。いや、まあ、うん、春香さんの保護者としてはそうだよね。何か、すまん。
しばらくして、俺のフラフラも落ち着いたところで、また移動を再開し、ようやく目的の家にたどり着いた。その家は、大きいことは大きいが、土壁に囲まれているわけでもなく、通りに面して建っている、時代劇に出てきそうなアレであった。アレだよ、あの番頭さんだっけ?が詰めてて帳面付けてそうな、例のアレである。多分店なんだろうな、これ。
「頼もう!」
ハル爺が暖簾を上げて店内に大声で呼びかけると、番頭さんっぽいのが出てきた。
「はい、どんな御用で、旦那様」
「我は青龍守たる東青家が家臣、山脇信春と申す。此度は我が主、東青青龍守信昭公の書状を持って参った。ご主人にお目通り願いたい」
番頭さんは目を見開いた。どうやら驚いたようだ。
「せ、青龍守様の家中の方が直々に、ですか?」
番頭さんは若干困ったような顔をしている。番頭さんは、どうやらハル爺と面識は無いようだ。まあ、そういうことだろう、いきなり中央省庁の誰々です、って脈絡も事前連絡も無しに来られても、本物かどうかをまず疑うわな。電話やメールですぐに確認も出来ないこの世界じゃ、余計にそうだろう。
「そうだ、信じられぬと申すか?」
ハル爺が眉を上げる。いや、そこ脅してどうするのさ。ホント脳筋だな、オイ。
「山脇様、まずはこちらの方に書状を検めていただいて、その上で取り次ぎをお願いしてはいかがですか」
すかさず桜さんがフォローを入れた。ハル爺は一瞬ムッとしたような、不機嫌な雰囲気を醸し出したが、一理あると納得したのか、番頭さんに書状を渡した。
書状を受け取った番頭さんは、すぐに戻りますと言って、奥に引っ込んでいった。
「武家の場合は、商家との取引や書状のやり取りは大抵は出入り商人経由ですからね、直接家臣が出向くことなど、まず無いのです」
桜さんが俺にそっと教えてくれた。まず無い、つまりそれは原則無い、という解釈か。というならば、原則論には必ず抜け道、例外があるわけで、但し例外にはそれなりの理由や理屈があるわけで。
実に役人的思考に耽り始めた俺であった。そんなことを考えること暫し、番頭さんを前にして、この店の主人らしき人が奥から出てきたのであった。
色々考えた結果、好きに書くことにしました(笑)
え?前と変わってないって?




