第49話 ハル爺と愉快な仲間達
南に向かうこと半月程、俺たちは目指していた街を目前にしていた。ここまでの道中は、特にトラブルも無く、程々にハル爺と愉快な仲間達になりつつやってきた。いや、だってね、行く先行く先で可哀相な従僕や役立たずの下男扱いされたら、もうそれでいいやー、って思えてくるわけですよ。確かにね、ビジュアル的にはどう考えたってハル爺が主人だしね、間違えた人を責める気にはなりません。だって、俺だってそう思うもん。元々卑屈な方なので、そっちの方が気が楽というか、慣れてるというか。相手は俺のこと見下してくるけど、逆に言うと見くびってる俺に注意も向かないんだよね。そういう奴って、俺のこと侮ってるから、大抵の場合俺に対しては警戒せずに隙だらけ。動きやすいよね。
そう言えば、前の世界でやってた仕事でも、初対面の商談相手とか、大抵俺のことなんてスルーして他の同僚に聞いてたな。実のところは俺が調達関係全部仕切ってて、仕様書から契約書から全部作ってんだけどなぁ、とは思ってたんだが、面倒な営業対応は全部勝手に捌けていいや、的な感じになってた。何聞かれてもにっこり笑って馬鹿な振りしてたら、勝手に低脳扱いしてくれるから楽なんだよ。まあ、勿論分かってる営業は、そんなことしたらどうなるか良く分かってるから、俺とも普通に、というかむしろ俺に向かって話してたけどね。
で、俺が軽く違う方向に意識を飛ばしている前では、この道中最早お馴染みの光景が。
「おうおう、ねーちゃん達、こんな不具なんか置いといて、俺たちに付き合えや」
今は宿の手続きでもしているのか、ハル爺が別行動なので、俺と桜さん、春香さん、そしてサマンサ嬢の組み合わせ。まあ、お分かりいただけると思うが、不具者たる俺が、極上の女を3人も連れている、という発想には絶対にならないわけで、何か訳ありで不具者の下男を連れ歩いている女達、という図式になるわけだ。
「嫌です、お断りいたします」
こういう時、決まって声を掛けられる春香さんが、視線もやらずに言い捨てた。サマンサ嬢は褐色の肌で顔の彫りも深めの南蛮美人だから、声を掛けにくいようだ。ぱっと見は言葉も通じるかどうか怪しいと思われているかも知れない。次に、桜さんだが、こちらは出ているオーラが違い過ぎるようで、余程の馬鹿で無い限りは触れようとしない。春香さんも凄い美人なのだが、この中では一番取っつきやすい、というかチョロいオーラが出ている。チョロいオーラっていうのもどうなんだろう。まあ、剣術しか知らない箱入り娘だったのだから、チョロくても仕方ないのかもしれないが。刀も持ってるし、所作を見てれば、相応の腕もあると分かるはずなんだが、恋は盲目ってやつだろうか。いや、恋じゃなくて単なる性欲か。
声を掛けてきた、如何にも柄の悪そうな、頭も悪そうな男達は、断られるのは心外だと言わんばかりに驚いた感じで声を荒げた。
「んあ?今何つった~?」
「聞こえませんでしたか、い・や・で・す、と申し上げましたよ」
まだ目線を合わそうともしない春香さんが、大きな声ではっきりと拒否した。
「それとも、言葉が理解できませんでしたか」
しかも追い打ちで煽った。なんやかんやで、直情的なところがある春香さんは、オブラートに包むということをあまりしない人であった。いや、オブラートがこの世界にあるのかどうかは知らんが。
今回のはどういう展開になるんだろう、とワクテカしながら傍観していると、春香さんにめっちゃ睨まれた。ひいっ、すみません怖いです。今夜ご奉仕するから勘弁して、機嫌直して~。
すると、何を思ったのか、男達は何やら得心が行ったようで、こう言い放った。
「おう、そういうことか。それなら俺たちの得意分野だぜ、安心して任せろや」
「は?」
珍しい展開に、春香さんが思わず気の抜けた言葉を発した。その直後だった。俺の顔面に向けて、男のひとりが拳を放った。
「ぅおい!」
危なかった。ぎりぎり拳の軌道が見えた俺は、咄嗟に避けて難を逃れた。何故俺が殴られるのか、良く分からないが、理由も分からないのにいきなり野郎に殴られるのは御免である。理由があれば、殴られんこともない。いや、機嫌を損ねた嫁様に張り手を喰らってたのが懐かしいとか、そんなことは思っていない。春香さんを巫女に迎えて、少しばかり体の調子というか、性能というか、スペックが上がったような気がしていたが、まさかこんなことで実感するとは、なんというハードモード。
しかし、俺が声を発する前に、恐ろしいことが起きた。いきなり俺に殴りかかってきた男は、拳を空振りさせると、その勢いに任せてその場でくるっと回転し、なんと、倒れた。刹那、絶対零度の殺気が場を支配したが、俺は恐ろしくて殺気の発生源を確かめることは出来なかった。っていうか、まだ漏れてる、漏れてる。
俺の隣で一部始終を見ていた桜さんは、事ここに至って、この道中初めて出動した。大魔神、降臨である。




