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総務おじさん探訪記  作者: 中澤 悟司
総務おじさん、伝承を求める
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第48話 道中は平和でございます

 試合から3日後、東青家を辞した俺は、新たに春香さんとハル爺を連れて、南にあるという商人の街を目指して歩いていた。


「なんかこう、移動手段としては馬車みたいなものとか想像してたんだけどなぁ」

「荷物を運ぶわけではないですから、アロイス様」


 左やや後ろを歩く桜さんが、俺の独り言に解説を入れてくれた。


「いや、荷車ってわけじゃないんだけど」


 桜さんと出会った奴隷商メニカムさんところの、何て名前だったか、初めにいた国では、通りを馬車が走っていたのだ。それなりの距離を移動するとなると、馬とかあった方がいいんじゃね?と単純なおじさんは考えたわけだが。まあ、でもこの日出国だっけか、和風テイスト万歳な雰囲気の中に馬車ってのも、似合わないっちゃあそうなんだけどね。


「駕籠を使うなど、高貴な出の方か、豪族の御曹司くらいのものですわよ、アロイスさん」

「お嬢の言うとおり、南蛮の者を乗せる駕籠なぞ無いわ」


 春香さんとハル爺が追加で解説してくれた。ハル爺のはどこまで行っても言葉に刺があるが、そもそも俺はそんなことを気にしていない。というかどちらかと言うと立場的にはハル爺の方に共感を感じる俺としては、これでも春香さんの手前、相当我慢しているのだろうな、というのがひしひしと感じられて、思わず慈しんでしまいたい衝動に駆られるのであった。

 そりゃそうだろう、自分の子供同様、いやそれ以上に愛情込めて世話して育てた娘が、どこの馬の骨とも分からないポッと出の異人の不具者に取られていくのだ、俺なら憤懣やる方無いどころか、隙を見て叩き斬るくらいのことを考えるだろう。しかし、今や彼女は俺の巫女として、夜まで共にしたのだ。俺のことを余りにも貶めれば、その巫女たる春香さんはどうなる、ということだろうな。苦虫を噛み潰すとは、まさにハル爺の心境であろう。

 ハル爺のやる方無い心境を察し、俺は彼に労りの眼差しを送った。当たり前だが、ハル爺は胡散臭そうな顔で俺を見ていた。


 歩き始めたのは良いものの、はっきり言って、このメンバーで賑やかに話が続くわけもなく、小一時間もすれば、先導するハル爺、それに続く俺、そして春香さんと桜さんが並び、どこからともなく合流したサマンサさんが最後尾に続くという隊列になった。春香さんは、初めのうちこそ桜さんに離れていた間に行った場所のことなどを聞いていたようであったが、男連中がある程度離れたところで、小声で何やら話を始めた。

 ちなみに、俺は春香さんという巫女さんとの繋がりを得たせいなのか、天断さんを抜いていなくても聴覚始め身体能力が少しばかり強化されているようだった。つまり、幹線道路みたいにトラックがひっきりなしに走っているわけでもなく、大して騒音も無いこの状況だと、後ろの内緒話も聞こえてしまうわけである。


「桜、ちょっと聞きたいのだけれど」

「はい、何でしょう春香様」


 ひとしきり沈黙を挟んだ後、春香さんが爆弾を投下した。


「あ、アロイスさんは、と、伽は、その、上手い、のかしら?」

「はい?」


 何言い出すかと思ったら、真っ昼間からその話題はどうかと思うわけですよ、おじさんとしては。そういうのは夜にしてくれ、って夜はそうか話出来ないもんなうへへ。いかん、変な効果音が混じった。

 流石の桜さんも、ちょっと何言ってるか分からないんですけど、とでも言いたげな沈黙であった。いや、俺は後ろなんて向きませんよ、勿論。というかむしろ向けません。


「え、あ、その、初夜と次の夜とでは、全く違ってて」


 あー、その話題はちょっとやめていただきたいんですけど。全身から変な汗が出て、背筋が冷たくなるのを感じてしまった。お願いやめて春香さん。


「ち、違うとは?」


 桜さんが、興味津々な雰囲気で春香さんを促す。声だけで雰囲気が分かるって、凄いなぁ。って、今はそんな場合じゃな……。


「しょ、初夜の時は凄く情熱的で、腰が砕けるとはこのことを言うのね、と思ったのだけど」

「ええ、ええ。アロイス様は情熱的な方ですよ」

「あ、あなたもそうなのね、桜」

「は、はい、私のような一介の奴隷如きを優しく、時には激しく慰めてくださいます」


 あ、これ桜さんは絶対に頬に手を当てて悶えてるパターンだ。そして、春香さんは半目になってる。つーか、激しく慰めるって、意味不明なんですけど!


「そ、そうなの。……まあ、それはいいわ、出会ったのはあなたの方が先な訳だし」


 いいんかい!それでいいんかい!いや、今はそうじゃない!


「その、そのね、次の夜なんだけど、その、何というか、……早い?」


 ぎゃあああああああああああああああああ!!


 その後、聞こえていないと思っている春香さんに、後ろで散々に色々と言われて、俺は燃え尽きた。魂が抜けかけていた俺の隣に、後ろからやってきたサマンサさんが並んだ。何故か火も付いていない煙管を咥えていた彼女は、口の端を少し上げニヤッと笑うと、煙管を口から離しふーっと大きく煙を吐く振りをして、目を伏せ冷たくこう言った。


「ふっ、下手ね」


 止めを刺された俺は、その夜、宿で桜さんに介抱されるまで放心状態であったという。俺は桜さんの励ましを受けつつ、雪辱を果たすことを密かに誓うのであった。許すまじサマンサ、今に見ておれ。

どこまで行っても夢の中から完全に抜け切れないアロイスさんです。

彼の精神の平穏をグチャグチャに乱す春香さんの天然トークですが、こんなものでは無い衝撃が彼を待ち受けているのであった。

……というのは大分先です(ぉぃ)

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