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総務おじさん探訪記  作者: 中澤 悟司
総務おじさん、伝承を求める
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第37話 山見の里

 桜さんの道案内で、一人目の巫女さんの元に行くことになった。


 桜さんによると、佐久夜さんの屋敷から、そんなに遠くない場所に一人目の巫女は居るらしい。そんな都合良く居るもんかねぇ?


「その巫女さんはどんな人か、桜は知っているのかい?」


 俺は、何気なくそう聞いた。佐久夜さんの屋敷の近く、ということは、そこに出入りしている桜さんの知っている人だったとしても何ら不思議はない。というか、恐らく知っているのだろう。


「ええ、良く存じております」


 ほれ、程良い返事が返ってきた。やはり、元から知っていると見て間違いは無いだろう。しかし、桜さんの次の言葉を聞いて、俺は驚くことになった。


「私が仕えていた方ですから」


 ふむふむ、仕えて、って、えー。


「えーっと、すると何か、桜さんに旅団に付いていくように言った人ってことかい?」


 桜さんは、俺の顔を見た。何か腑に落ちないような、きょとんとした顔だったが、俺は何となく察した。


「もしかして、俺にそう教えてくれたの覚えてない?」

「い、いえ、もちろん覚えてはおりますが。すみません、一介の奴隷の身の上話など、アロイス様のご記憶に残っているとは思っていなかったものですから、少し驚いてしまいました」


 桜さんは、少し慌てたように言った。なんか、こういう桜さん見るの新鮮だな。いつも平然というか、超然と微笑を湛えているか、時々頬を染めて恍惚としているか、そんな感じだからなぁ。


「で、どうなんだ。本当にその人に言われて王都に来ていたのか?」

「……いえ、私が同行していた旅団の目的地は、王都では無かったですね。王都に行ったのは偶然なんですよ。まあ、そのお陰でアロイス様に出会えたのですけれど」

「そうか、じゃあ、俺もその偶然に感謝しないといけないな」

「ふふっ、ありがとうございます」


 桜さんは笑っていた。流石に、この程度では引っ掛からないか。まあ、今は桜さんの言葉の真偽を試している場合でも無いだろう。


「それで、前のご主人に、俺はどう挨拶すれば良いんだ?」

「どう、とは?」


 桜さんは首を傾げた。いや、それは分かっているはずだが。


「まさか、あなたの部下を奴隷として買った者です、とか言う訳にもいかないだろうに」

「ああ、そういうことですね。それならば、きっと大丈夫ですよ」

「あのね桜さんや、何がどう大丈夫なのか全然分からんのだけど」

「アロイス様の思いのままになされませ。そこに導きがあるはずですから。流れには、逆らわぬことです」


 桜さんは、佐久夜さんの台詞をなぞった。うう、露骨にはぐらかされてるな、これ。こうなってくると、俺の対若いおねーちゃん能力ではもう対処のしようが無い。

 俺は仕方なく、大人しく桜さんの後ろをついていくことにした。俺の横に居るサマンサさんの目が、明らかに笑っていた。くそう、いつかヒィヒィ言わせてやるぞこの女め、なんちゃって。


 森の中にあった佐久夜さんの屋敷からは、そこそこ整備された一本道がまっすぐ伸びていた。しかし、程なくして違和感を感じ、後ろを振り向いたときには、既に屋敷はどこともなく消え失せ、眼前には獣道が続くのみであった。


「女狐、か」


 戻って確認しても無駄であろう、ということで、俺はそのまま桜さんの先導に任せた。


◇◇◇


 半日ほど歩いたであろうか、突然、森が切れ、視界が開けた。眼前には野原が広がっていた。遠くには煙らしきものも数条見える。集落が近いのだろうか。


「もうすぐ、山見の里に着きます」


 きょろきょろしている俺を見て、サマンサさんが言った。


「やまみ?」

「私が仕えていた、この地を治める豪族、東青家が居を構えている里ですよ」


 桜さんが言った。


 さて、さっぱり分からんので、遅ればせながら一応の基礎知識を聞いておくことにした。よくよく考えれば、この地の地名も何も知らない奴がいきなり巫女を差し出せとか言っても、はいそうですかとなるわけもない。交渉事は、まずは相手の情報を仕入れることから始まるのである。

 というか、なんでこんな基本的なことも思い付かなかったのだろう。恐らく、どうせ夢だし、という意識がどこかでまだ残っているから、対応が適当になるのだろうな。今まで出会ってきた人たちは、どちらかと言えば友好的と言うか、話の分かる人ばかりだった。今から向かう先、出会う人々は、恐らく友好的に、とは行かないはずだ。なんせ奪いに行くわけだからな、友好的に渡してくれたら、それはそれで怖い。


 東青家とは、今居るこの地、日出国の東の守護たる青龍守に任じられている豪族であった。青龍守とは帝の居る都の守護五傑のひとつであり、天領の管理も任される程の信頼を得ている者が任じられる役職のことであるらしい。

 何か、色々と混じってるけど気にしない方が良さそうだな。


「私は、その東青家の当主信昭公の御息女側仕えとして、東青家に仕えておりました」


 巫女はその当主の娘さんということだろうか。で、どんな人なのか聞いてみた。


「芯のしっかりしている方でしたね。容姿も美しい方でしたから、アロイス様もきっと、お気に召されると思いますよ」


 俺はお気に召しても、向こうがどうなのか、非常に厳しいと思うのだけれど。


「私の居た頃は、あの方は大体鍛錬しているか、草花の研究に出ているか、どちらかでしたが。もしかすると野草採取でこの辺りにおられるかも、と、あちらに見えるのがそうでしょうかね」


 そう言うと、周囲を見渡していた桜さんは、俺を手招いた。俺も一緒になって見ると、視界に入った、不思議な二人組があった。

 ひとりは壮年の男性。素人の俺が遠目からでも分かるほど、強烈な剣気を時折放ち、森から突然出てきたと思われたのか、俺たちの動きを探っているように感じた。恐らくは武人、しかも相当な手練れであろう。しかし、纏う雰囲気は、まるで愛おしいものを慈しむような、そんな柔らかなものでもあった。そして、その男性の視線の先に、その愛でる対象があった。

 その人は、かがみ込んで、地面に生えている野草か何かを熱心に観察しているようであった。男性が、かがみ込んでいた人に話しかけると、立ち上がり、こちらを向いた。そして、2人揃ってこちらに向かって歩いてきた。


「こちらに向かってくるようだけど、大丈夫なのか?」


 いきなり刀傷沙汰とか、幸先が悪過ぎるから勘弁して欲しい。男の方はどう見ても剣呑な雰囲気なのだ。


「大丈夫ですよ」


 桜さんがそう言って微笑んだ。ああ、この微笑、破壊力が増してないか?おじさんもう溶けそう。

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