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総務おじさん探訪記  作者: 中澤 悟司
総務おじさん、伝承を求める
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第34話 試練とは

「まず、徳と穢れの話は、お聞きになっていますか?」


 佐久夜さんに問われた俺は、桜さんに聞いた話を思い出していた。


「はい、なんでも、この世界には8つの徳と7つの穢れがあり、どちらかを全て纏った者は願いをひとつ叶えて貰えると、桜さんから聞きました」

「そうですね、大方はそれで合っているのですが、もう少し細かいお話をいたしましょうか」


 その後の佐久夜さんの説明をまとめると、大体次のような感じであった。まず、徳は仁から始まり、何というか八犬伝そのままじゃないのか、馬琴さんもこっちに来たのか、という感じであった。そして、穢れは、これまた怠惰から始まり、キリスト教の七つの大罪に近い。まさか、ぎゃ、ギャリおっと(以下検閲)

 徳か穢れ、どちらかを全て纏えば、願いが叶えて貰えるというのは少し誤解があるらしく、願いが叶えられる程の力を得ることが出来る、というのが正解に近いらしい。徳も穢れも、それぞれを信仰対象として祀る宝玉に宿る力に認めて貰うことで身に纏うことができるとのことであった。もちろん、徳か穢れ、どちらかしか纏えないし、一旦ひとつでも纏えば、鞍替えすることはまず出来ない。それぞれメリットもあればデメリットもある。恐るべしは纏った者、求道者と言うらしいが、その行動までも束縛するということで、纏ったものに反する行為は基本的に出来なくなるということだろう。つまり、徳を積めば聖人に、穢れを積めば極悪人にふさわしいよう、行動すら束縛されていく、ということだ。


「正直なところ、徳と穢れ、どちらにせよ、常人には纏うことは難しいのです」


 いや、それ常人の俺には無理じゃん。


「まあ、条件がすぐに達成できるようでは、聖人君主や極悪人が粗製濫造で世が乱れているでしょうからね」


 佐久夜さんは、肩をすくめた。まあ、確かに、そんなに特殊な人間だらけになったら、秩序もクソもなくなってしまいそうだしな、そう簡単には、といったところか。


「そして、もう薄々気付いておいでとは思いますが、徳を積めば積むほど、利己的な目的の為に力を振うことは疎か、行動することすら難しくなっていきます。穢れならば逆、ということですね」


 ということは、つまり。


「アロイス様の場合ですと、力を得る目的が自分の為ですから、必然的に穢れを積まなくてはいけない、ということになるわけです」

「あー、ということは、何ですか」


 俺は若干目眩を感じながら佐久夜さんに聞いた。


「私の場合ですと、穢れを纏うために悪逆の限りを尽くさなくてはいけないと」

「そうですね」


 満面の笑みで、佐久夜さんは言い放った。いや、色んな意味で無理だわ。


「まあ、そんなこと本当に出来るわけ無いんですけどね」


 俺が若干魂が抜けかけていると、それに気付いたのか、佐久夜さんがフォローを入れてくれた。


「ま、まあそうでしょうね。七つ全て極めると、人間辞めなくてはいけなくなりそうですから」

「ふふっ、実際そうなんですけども、まあ良いでしょう」


 いや、それ全然良くない、良くない気がするけど、気がするけど!


「ですから、ちゃんと救済措置もあるのですよ」


 なんか、徐々に話が怪しくなってきたな。


 その後、続けて救済措置とやらの話に入った。そこで聞いたのも大概な内容であった。まず、この徳や穢れの増幅装置としての神職というか、選ばれた人間が存在するらしく、その神職を手に入れるところから始めよというのであった。手に入れるというのは、文字通りで、協力を依頼するとかいうことではなく、自分の手中に納めなければいけないという。そして、穢れの場合は、その神職、求道者が男であれば異性である女ということで、巫女になるらしいが、それを肉体的精神的に隷属させることで、増幅機能を使うことが出来るという。


「巫女達は、求道者の徳や穢れを強くします。結果、宝玉に認めて貰いやすくなるのです」


 認定のハードルが低くなる、ということだろうか。下駄ってことか?


「ちなみに、触媒としての巫女は四方を囲い徳や穢れをせき止めるとされているので、4人居ないとあまり意味がありません。天地も含めて6人居れば完全と言われますが、何故かいつも4人しか顕在しないので、まずはその4人、といったところでしょうか」


 ということは、ひょっとして。


「そうです、神職を得られるのは、ひとりに限られるのです。男女合わせて8人が、とお思いかも知れませんが、同時には4人、同じ性しか居ないのですよ、不思議なことに」


 今は実質男しか享受できない、ということか。たまたま、かねぇ。


「彼女たちの助けを借りれば、人間を辞めなくても済むかもしれませんね」


 そこまで言うと、佐久夜さんはお茶を啜った。どうやら話は終わったようだ。


 はっきり言おう、無茶であると。

 いや、意味不明だろ、これ。あ、意味は分かるんだけど。ちょっとこれどういうことよ?色々と無理が過ぎるな。


「あ、あの、いいですか?」


 俺は疲労困憊で、何とか佐久夜さんに聞いた。


「はい、どうぞ」

「失礼ながら、その話が全て事実だったとして、どこに居るのかも分からない巫女を捜し出して隷属させ、従えて悪行を繰り返し、宝玉に認めさせて七つの穢れを纏えば、元居た世界に戻れるやも知れぬと、そういうことですか?」

「そうですよ」

「それを、この私なら達成できる見込みがあると、佐久夜さんはお思いですか」

「ええ、充分にあると思いますよ」

「それは何故……」

「まず、巫女の居場所は4人とも分かっています。そして、その『愚者の刀』は、常人に扱えるような代物ではないのです。言ってしまえば、本来であれば纏いし者くらいにしか扱えないものなのですよ」

「な、なんと」


 俺は、とんでもないものを抜いてしまったようだ。


「さて、お話は今日のところはもうこのくらいにいたしましょうか。起きられたばかりで、まだお疲れの様子ですし」


 佐久夜さんがそう言うと、まるでその言葉を待っていたかのように襖が開き、使用人達が部屋に入ってきた。


「食事の用意をいたしましょうか、それとも湯浴みを先に?」

「あ、佐久夜さん」


 立ち上がり、そそくさと動き始めた女性陣に、俺は遠慮がちに声を掛けた。


「はい、何でしょうか?」

「その、何と言ったらいいのか。まずは世話になったお礼を言わせて欲しい」


佐久夜さんは、俺の言葉を聞くと、座ったままの俺の前に改めて座った。


「お気になさらず。桜の大事な方ですからね」

「佐久夜様、お戯れを」


 声の方を見ると、桜さんが顔を真っ赤にさせて佐久夜さんの方を見ていた。ああ、いちいち可愛いなこの娘は。


「最後にひとつだけ」


 桜さんを見て和んでいた俺に、そう言って佐久夜さんは顔を俺の耳に近づけると、囁いた。


「愚者の刀は、纏うまではあまり抜かない方がよろしいですよ」


 何故、と聞き返そうとした俺を制し、佐久夜さんは微笑んだ。

何とか更新できました

※時間欲しいよ……

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