第29話 急襲
永かった夏の戦いがやっと終わりました。
時間が出来ると良いなぁ。
2018/09/09
状況説明を幾つか追記
時間の表現を変更
それから数日後、少し大きめの町に着いた。旅団はここで、少しばかり商いをしてから次の目的地に向かうという。短期雇いの傭兵達は、そこで一旦解散となった。
「あまり遠方に行きたがらない傭兵も多いですから、それなりの町毎で傭兵を交代させていくことも多いのですよ」
不思議そうな顔をしていたのか、桜さんが教えてくれた。まあ、飯も女も、慣れ親しんでいる方が良いんだろう。一攫千金も良いだろうが、命あっての物種なのだ、日和見な生活をしている人間なら、無謀なリスクは取らないだろう。旅団としても、例え数日分でも余分な出費を減らせる。
もちろん、俺たちのような身辺護衛組はそのまま残るわけだが。俺は荷物の警護担当として、旅団の宿近くの塀で囲まれた広場に、他の護衛達と一緒に詰めていた。当然だが、傭兵は交代勤務である。そりゃ、盗人は休まないからなぁ。
商人達がそれぞれの商いに動く中、人が来なければ暇そのものであるし、かと言って人前で鞄の中身を広げるわけにもいかず、何となく手持ち無沙汰になった俺は、気になっていたことを桜さんに聞いた。
「そう言えば桜、桜の故郷には、どれくらいで着くんだ?」
21世紀初頭の地球の感覚であれば、例えばヨーロッパから日本までは、飛行機で12時間そこそこしかかからないのだ。良くは知らんが、船なら1ヶ月といったところだろうか。鉄道なら、シベリア鉄道とかで1週間くらいなのかな。
翻ってこの世界では、移動手段は今のところ馬と歩きである。砂漠地帯に入ったくらいから、ラクダも加わっているが、動力機関を備えた乗り物は無さそうな雰囲気だ。これでは、下手すると年単位で時間がかかるんじゃないのかと思っていた。
「そうですねぇ、正確には分かりませんが、普通に行けば恐らくは1年くらいは掛かると思いますよ」
そうですよねー。まだ出発してから20日も経ってないから、旅程の10分の1も終わっていないということだな。まあ、気の長い話だが、仕方ないだろう。しかし、ここで俺の役人としての勘が引っ掛かった。
「桜、今『普通に行けば』と言ったな」
「はい」
「『順調にいっても』ではなく?」
桜さんは、少しとぼけた振りをして見せたが、俺がじっと瞳を見据えていると、観念したように話した。
「……そうです、その通りですよ、アロイス様。素晴らしい洞察力、感服いたしました」
そう、役人の世界では『普通は』だとか『原則は』だとかいうキーワードは、それ以外の手段があると言っているようなものなのだ。桜さんは、何気なく使っただけなのかも知れないとも思ったが、彼女との今までのやりとりから、恐らくは何か含ませている可能性が高いと感じたのだ。
今回は、俺の読みがたまたま当たった、というところか。所詮は言葉遊びの博打だからなぁ。
そもそもこの旅団の最終目的地は、桜さんの話からすると彼女の故郷ではない。そこから更に別の旅団に参加するのかもしれなかったが、それは今の旅団に入った経緯から考えるに、かなり無理がある。
となれば、この旅団の最終目的地か、あるいは道中立ち寄る場所に何かある、と考えるのが自然だ。その何かは、恐らく普通ではない何か、なのだろう。それが何か、は想像も付かないが、ゲームとかだったら、何らかの転送ゲートがあるとか、そんなところなんだろうな。まあ、ここは現実でありゲームではないのだから、そんなものがある可能性は考慮するだけ無駄、というものだろう。いや、そういや魔法があるとか、何とか言ってたな。ということは……。
「桜、何か転送ゲートとかあったりふぐっ!」
俺は、桜さんに話しかけた途端に、彼女に覆い被られた。彼女の形の良い柔らかな胸の谷間に顔が埋まり、俺は窒息しそうになったが、がっちりホールドされていて動けない。あー、このまま逝きたいような気もしてきた。
「失礼しました、アロイス様。賊のようです」
賊?いきなりだな、おい。
「……ぷはっ、賊って、どこにいるんだ?」
俺は、桜さんの胸に埋まっていた顔をどうにか起こした。しばらくすると、喧噪が遠くで響いているのが分かった。
「アロイス様、サマンサさんが様子を確認していますので、しばらくはこのままでお願いできますか?」
の、望むところだが、ちょっとこんなに密着されると自制心が持たんな。しかし良い香りだ。旅の間、風呂にも満足に入れていないはずなんだが、どうして桜さんはこんなに良い香りがするんだろう。なんだか気持ちが良くなってきた。
「あ、アロイス様?」
トリップしかけた俺の意識を、戸惑い気味の桜さんの声が現実に引き戻した。
「えあ?あ、ああ、すまんすまん。こんなことやってる場合じゃないよな、勿論分かって」
「旅のお疲れが溜まっていらっしゃるんですね。その、今日は宿が取れるはずですから、もう少しだけ我慢していただけますか?」
そう言うと、桜さんは頬を染めながら目を逸らした。おふぅ、恥じらいながらそんなこと言われたら、おじさんリミットブレイクしちゃうぞ。
何気なく俺も桜さんから目を逸らすと、そこには褐色の肌をした銀髪の美女、メイドのサマンサさんが無表情で立っていた。
「お気になさらず」
サマンサさんは一言だけ発すると、気配を消して下がった。いや、なんか怖いよ、ごめんなさい。
ぼちぼちとですが、続けていきます。




