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総務おじさん探訪記  作者: 中澤 悟司
総務おじさん、伝承を求める
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第28話 どうにもならない話

新章突入です~(ぱちぱち)


果たして展開があるのかー?

 王都を発ってから、かれこれ2週間は経っただろうか。俺は、メニカムさんの紹介してくれた旅団に、護衛の傭兵として参加していた。

 俺の奴隷ということで桜さんが、そして身辺の世話役としてメイドのサマンサさんが同行していた。ムルスキーさんとエリーさんは、王都でハウスキーパーをしてくれているそうだ。


 ある程度日も過ぎて、もう慣れてしまったと言えばそうなのだが、出発当初は違和感がありまくりであった。

 俺は確か護衛のはずなのだが、荷車に乗せられて荷物番であった。他の傭兵は隊列を組んで歩いていたり、馬に乗って周囲を警戒していたりであったから、まあ楽をさせてもらっているようであった。クルマは運転できても乗馬なんぞやったことのない俺は、てっきり足が悪いから遅くなるのを嫌ったか、と思っていたのだが、そうでもなかったらしい。なんでも、荷物番は商人の護衛と同じく、腕が立ち、なおかつ信用できる人間にしか任せないらしい。え、俺腕立つの?と自分で突っ込んでしまったが、そこはメニカムさんの紹介だから、とか言ってはぐらかされた。まあ、何となく想像は付くのだが。

 その原因であろう、俺の美しい奴隷さんは、俺の横に座って、メイドさんの淹れたお茶を飲んでいた。もう何だろう、疑問符が何個付くか分からない光景だが、旅団のメンバーもそれなりに馴染んでしまっていた。


「今日も暑いですね、アロイス様」


 どこからともなくサマンサさんが出してきた日傘の影から、桜さんが話しかけてきた。今は砂漠が続いていて、点在するオアシスからオアシスへと移動する、ゆったりとした旅路であった。ひたすら暑いことを除けば、珍しい光景が続くので、面白いと言えば面白いものであった。


「そうだなぁ、暑いなぁ。ただ、割とカラッとしてるから、俺の故郷に比べると、過ごしやすいかも」


 俺はこの2週間で、桜さんと幾らか話をしていた。俺の故郷、日本の地方都市の話も、幾つかはしていた。彼女は、俺の故郷の話になると、いつも興味深げに聞いていた。


「ご主人様の故郷の暑い季節は、湿気が多いとか言われていましたね」

「そうだなぁ、夏になると、ジメジメしてうんざりしてさ。エアコン無しじゃ過ごせないよ、子どもなんて熱中症で死にそうだったしな」

「その涼しい風が出てくるというエアコンなる機械にも興味がありますけれど、やっぱりアロイス様のお子様が気になります。どのようなお子様なのですか」

「どのような、か。そりゃあ、俺の言うことなんて全然聞かない悪ガキだよ。ホント、悪いことばっかりしてね」


 こんな感じで、取り留めもない話を毎日しながら、特に盗賊山賊の類や猛獣に襲われる訳でもなく、淡々とした旅が続いていたのだ。しかし、その日は、少し気分転換も兼ねて、それまで敢えて見なかった子ども達の写真を見ることにした。俺は、誰もこちらに注目していないか周囲を確認して、注意深く鞄からタブレットを取り出した。


「アロイス様、それは何ですか?」


 桜さんが不思議そうに俺の手元にあるタブレットを見ていた。彼女にも、タブレットはまだはっきりとは見せていなかった。


「ああ、これはタブレット、と言ってね。言ってみれば、メニカムさんのところにあるものの大きいヤツだな」

「まあ、あの他にも、まだマジックアイテムをお持ちだったんですか」


 桜さんが目を輝かせた。今のこの世界の文明レベルからすれば、スマホやタブレットは恐らくオーバーテクノロジーも良いところのアイテムだろうから、魔法の道具と勘違いされても仕方ないのだろう。どこかで聞いたな、進み過ぎたテクノロジーは、魔法と区別が付かない、だったか。そんなものを幾つも持ち歩いているとなると、一体何者だ、となるわな。


「実はね、他にも幾つかあるんだよ。他の人には内緒だよ」

「はい、ご主人様の秘密を共有ですね、ありがとうございます」


 桜さんはそう言うと、照れたようにはにかんだ。ぐうう、呪縛が解けても可愛いものは可愛いな、オイ。


「アロイス様は良くご理解されていると思いますが、他の方、特に傭兵には情報を与えない方が良いです」


 打って変わって真剣な表情になると、桜さんは俺に忠告をくれた。


「ほう、商人は良いのかい?桜」

「商人は、まあ相手にもよりますけれど、信用を重く見るものです。特に今回アロイス様は、メニカム様のご紹介でこの旅団に参加されていますから、まあ団長くらいは信用できると思いますよ」

「そうか、メニカムさんは実は結構な実力者だったんだな。実は、とか言うと失礼だけど」

「ふふっ、そうですね」


 桜さんは、恐らくこの旅団の抱えている財産全てよりも、俺の鞄の中身の方が何倍も価値があるだろう、と教えてくれた。実は鞄自体も作りが良いものだから、狙われてもおかしくないくらいのものらしい。そ、そうなのか、それは気を付けなければいかんな。

 で、改めてタブレットを起動した。やはり何か電波を拾っているようだが、それが何なのかは分からない。だが、ネットワークの検証よりも、今は子どもの写真を見たかった。

 ローカルに保存していたお気に入りの写真を開く。そこには、懐かしい、もう既に懐かしくなっている子ども達の姿があった。


「可愛いですね、アロイス様に良く似ていらっしゃいます」

「そうかな。しかし、久し振りに見ると、懐かしい気がするな」


 買ったばかりのタブレットだったが、何枚か写真を入れていて本当に良かった。


「本当に、良かった……」

「アロイス様?」


 ふと、涙が溢れた。色んな感情や思念が渦巻き、心をかき乱していった。俺は、一体何をやっているのだろうか、そんな当たり前の疑問を、今更ながらに反すうした。


「あ、アロイス様、申し訳ありません。私が……」

「いや、桜のせいじゃないよ。気にしないで欲しい、というか気にされると余計に辛いから、本当に気にしないでくれ」

「そうですか……」


 暫く、気まずい沈黙があった。本当に、何をやっているのだろうか。こんな若い女の子に気を遣わせて、情けないな。俺は、意を決して口を開いた。


「桜」

「はい」


 俺はタブレットを一旦鞄にしまうと、桜さんと向き合った。彼女は真剣な面持ちで、まっすぐに俺の目を見ていた。


「正直に言うよ。俺が、もし元の場所に帰るとき、君を連れて帰ることは出来ないと思う」


 桜さんの表情が、見るからに曇った。俺としては、本音としてはあまり言いたくは無い気持ちもあった。しかし、家族の写真を見せた以上は、はっきりさせておかないと俺の気が済まなかった。


「桜とは、まだ短い付き合いだけど、俺のことを良くしてくれて、本当に感謝している。桜との出会いがなければ、俺はきっと野垂れ死んでいただろう。だけど、俺には家族がある」

「私は奴隷です。アロイス様の所有物なのですから、ご家族にご迷惑にはならないかと思うのですが」

「違うんだ、桜」


 食い下がる桜さんに、俺は説明を続けた。


「俺の元居た世界には、少なくとも俺の居た国には、奴隷制度は存在しないんだ。だから、桜を奴隷として扱うことは、元居た世界では不可能だ」

「それでは、私は捨て置かれるということでしょうか?」


 桜さんが、悲壮な表情を浮かべた。これは、予想以上にきついな。


「俺としてはそういう表現のことをするつもりではないんだけど、桜がそう感じてしまうなら、実質そうなってしまうのだろう」


 桜さんは俯いてしまった。今にも泣き出しそうな雰囲気である。あ、あかん、これは豆腐メンタルな俺には厳しいな。如何に嫁様に鍛えられたとはいえ、こういう展開の耐性は持ち合わせていないのだ。しかし、漢として、ここで退くわけにはいかぬのだ。


「ただ、俺は桜、君の善意、いや、好意に報いたいとも思っている。俺に出来ることがあれば、この世界に居る間は、何でもやろう。そして、この世界から去る時には、君に感謝の品を置いていくことにするよ」


 桜さんは、しばらく黙って俯いていたが、徐に顔を上げた。目が若干赤くなっていた。


「分かりました。……ただ、何でもいただける、というお言葉、その通り受け取ってもよろしいですか?」


 何故だろう、桜さんのその言葉を聞いた途端、背筋を寒いものが走ったような気がした。俺は若干身震いすると、姿勢を正し、言葉を一言一句確かめるように噛み締めながら、その問いに答えた。


「俺の、出来ることであれば、理不尽なことでない限りは、何でもやろう。うん、この世界に居る間は、可愛い奴隷の願いを、可能な限り叶えよう」


 桜さんは、その言葉を聞くと、にっこりと笑った。いつもは眩しいばかりに輝くその笑顔が、心なしか、寂しげに見えた。

 しかしもう、何だ、よく考えたら現地妻宣言してるに等しいな、これ。最低な人間じゃないかよ、オイ。

いきなりのゲス展開でゲスが。

予防線は張っておきたい(何

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