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総務おじさん探訪記  作者: 中澤 悟司
総務おじさん、降り立つ
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閑話1 ある商人の憂鬱

 フェルケス=メニカムは、奴隷商である。王都で幾つかある正規の奴隷商の中では、真ん中辺りの規模の商会だ。しかし、王都だからこそ真ん中程度ではあったが、地方に行けば彼の商会よりも大きなものは無いに等しかった。


 そんな、王国有数の奴隷商であるメニカムの元には、いろんな話が山ほど入ってくる。


 たった今も、紹介状も無い者が店に来て、面会を申し入れていると報告があった。


「そんな名前の知り合いはいません。面会なら紹介状を確認して、予約を入れなさいと、いつも言っていますよ」


 メニカムは、その強面な顔を極力優しく見せながら、報告を上げてきた部下に話していた。彼の顔では、こういう諭すような話が非常にしずらく、彼の悩みの種であった。


「そ、それは重々承知しておりますが、何分事態が事態ですので」

「ですから、一体どういう事態なのか、先ほどから聞いているでしょう?」


 メニカムは考えていた。今話しているこの男も、自分の指示を忘れている訳ではないだろう。ということは、何か事情があるのであろうことは容易に想像がつくが、一体それがどういう事情なのか、説明を求めても的を得ないのだ。


「分かりました。何やら特別な方、というわけですね」


 メニカムは仕方なく、応接室に向かった。あまり特例は作りたくなかったが、ここまで部下が食い下がるのは珍しいことであったので、少しばかり興味も出た。


「失礼いたします」


 扉をノックして、声をかけてからメニカムは応接室に入った。部下の話では相手の身分は分からなかったが、もし高貴な身分の方が来ていた場合、礼を欠くと非常に難しい話になりかねない。もしかして王族の遣いとか、そんなところかもしれない、と彼は考えていた。王族も人間ということで、御用商人以外からでも愛玩用の奴隷などを求めることも希にある、ということであったからだ。


 しかし、彼の予想は大きく外れることになる。


 部屋に入った彼の目に飛び込んできたのは、この辺りでは見たことのない、変わった服装の女性であった。以前どこかで出会った、遥か東方から来たという異国の商人に、似たような服装の人間がいたように思うが、とにかくこの辺りの人間では無さそうであった。

 王城で幾人もの貴婦人と面会もし、また見目麗しい愛妾も扱う奴隷商たる彼をして、目を釘付けにしたのは、その女性の美しさであった。王国の成人女性と比較すれば、やや幼いような印象もあるが、しかし彼女の場合は、それもまたまるで天使のような浮世離れした儚さを表しているような、とにかく絶妙なさじ加減の危うい美しさであった。そして、その黒い瞳は、一度捉えられたら抗うことは能わないのではないのかと思ってしまうほどの、不思議な魅力を放っていた。


「面会いただきありがとうございます。本来でしたら紹介状なりお持ちすべきなのでしょうけれども、生憎そういう知り合いがおりませんで」


 彼女は流暢に、王国の言葉で面会の謝意を伝えてきた。こんなにも王国の言葉を流暢に話す異邦人も珍しい。そして、その声の心地よいこと。まるで心の臓を鷲掴みにされたような、そんな錯覚を受けた。


「あ、いえいえ。こちらこそお待たせしました。部下が失礼をしていなければ良いのですが」


 メニカムの、商人としての勘が、彼女は最大級の敬意を持って遇すべき対象であると告げていた。加えて、かなり危険であろうことも、伝えていた。彼は即座に対応した。扱いを誤れば、こちらの破滅も覚悟しなくてはならない、そういう存在であると認識したのだ。そして、しばらくの会話の後、彼はこの勘の警告が的を得ていたことを思い知ることになった。


「い、今何とおっしゃいました?」


 思わず聞き直してしまった。な、なんということだ。女性は、自身を商品として、とある男に売れなどと言うのである。


「私はあなたに手数料をお支払いします。商品としての私の販売対価としては、そうですねぇ、彼は、あなたのお好きなマジックアイテム、しかも特級品を持っていると思いますよ」

「いや、いやちょっとお待ちください、それは違法な人身売買になってしまいます」


 彼女の提示条件はともかく、無辜の民を奴隷として売りさばくなどと、少なくとも王都の奴隷商がやって良いことではない。奴隷商の扱える奴隷というのは、犯罪者、貸付担保の流れ者、戦争捕虜など、ある意味身分がはっきりしているものに限られているのだ。特に今回、話し方や所作からして、相手はどう考えてもそれなりの教養を持っている。ということは、恐らく身分もそれなりに高い人間のはずだ。絶対にややこしい話になるに決まっている。下手をすれば、彼女の属する国と争いになりかねない。


「それについてはご心配に及びません。この国における許可も受けていますから、取引においてメニカム様にご迷惑が及ぶことはありません」


 そう言うと、彼女は付き人に促した。今の今まで気が付かなかったが、彼女には付き人がいたのだ。女性の美貌に目が眩んでいたとはいえ、尋常な相手では無いことは伺えた。

 その付き人は、女性、しかもこちらも相当な美貌の持ち主であったが、メニカムに一通の書状を提示した。その書状を見て、彼は固まった。書状には、彼も商人人生のなかで数度しか見たことのない、王位の印章、しかも偽造防止用の法具で刻まれたときに発する独特の光沢を持つものが押してあった。つまり、この書状は、彼の知る限りにおいて、王国における最高の意思表示である。法具をもって刻まれた王位の印章、その重みは計り知れない。


「え、あ、も、申し訳ありません。ですが、にわかには信じがたく」

「それもそうでしょう、突然のお話ですもの、簡単に信じる方がおかしいというものですね」

「いえ、決して、決して疑っているとか、そういうことでは無いのです。あまりに畏れ多いのです」


 メニカムは、しどろもどろであった。これはまずい、非常にまずい。この話、断ることはもう既にあり得ない。しかし、受けるのも非常に危険な予感しかしなかった。彼は思わず呪詛の言葉を吐きそうになって、慌てて息を止めた。


(どうして私のところなんだ!他にも奴隷商はいるだろうに!)


 メニカムは、腹の臓がキリキリと痛むのを感じた。それもかつてないレベルで。


 その後、幾つかの取り決めを行い、メニカムはその仕事を受けることになった。商売としては、彼が丸儲けになる勢いであり、正規の許可も受けているわけであるから、彼にはメリットばかりでデメリットが見えない。しかし、どうにも悪い予感というか、引っ掛かるというか、すっきりしないというか、彼のモヤモヤとした感覚が消えることは無かった。彼は、女性の商館滞在中は妻レアに世話をさせた。当然、完全に貴賓扱いであった。また彼は、彼の家から使用人を2名、彼女に付けた。彼が絶対の信頼を置く護衛兼執事のムルスキーと、優秀な家事女中であるエリーがそうであった。初対面時、ムルスキーは震えていた。女性とその付き人は、ある程度腕に覚えのあったムルスキーをして、畏怖させた。エリーは何も感じなかったどころか、その流れるような日常の動きが美しいとまで言ったが、それがまた恐ろしさを増幅させた。彼女たちの身のこなしは、まるで凄腕の剣客か暗殺者のそれであったが、それを日常の流麗な所作に完全に組み込んでしまっていて、違和感を感じさせないというところがまた凄かったのである。


 そして暫く、10日程を過ごしたであろうか、そろそろメニカムの精神が緊張で限界を迎えそうになっていた頃、彼の商館の目の前に、これまた見たこともないような服を着た、不具者の男が現れたのであった。

メニカムさんは苦労人、ということでした。


ベタ過ぎるので、この話は、後で削除するかもしれません(笑)

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