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総務おじさん探訪記  作者: 中澤 悟司
総務おじさん、降り立つ
16/106

第16話 どうしよう

久し振りに更新です。

長かった…。

 メニカムさんは、すぐに出てきた。本当にすぐだった。


「おお、アロイス様、いらっしゃいませ。ひょっとして、時計の手入れですか?」


 時計と聞いて、俺は一瞬考えたが、そうだスマホのことだ、と思い出した。


「え、ええ、そうなのですが、よろしいですか?」


 メニカムさんは少し様子を伺うような顔をした。俺がはっきりしなかったのを訝しく思ったのだろうか。


「いや、何だ。はは、私の地元ではそれは時計とは言わないもので。」

「ほう、では何と?」


 メニカムさんの目が輝いた。なんか、鋭い眼光、って表現がとっても合いそうだ。


「スマホ、スマートホンと言うのですが、聞いたことはありませんか?」

「いえ、聞いたことはありませんね」


 若しくは、とブランド名を言ってみるが、やはり知らないと言う。どうも、文化圏が全く異なることは確かだ。


「では、持ってきていただいても?」

「ええ、勿論ですとも、勿論ですとも」


 えらい勢いだな、おい。なんかもう、嬉しくて堪らないといった感じだ。あんまり笑顔を振りまかれると、逆に怖いよ。

 メニカムさんは、一緒に出てきていたレアさんに、スマホを取りに行かせると、一緒に来ていた桜さんに気付いた。


「あ、桜さ…んも、いらっしゃいませ?」


 何故語尾を上げる、語尾を。そんなメニカムさんに、桜さんは普通に挨拶をした。


「こんにちは、メニカム様」

「うおっと、これは失礼を。こんにちは、桜さん」


 っていうか、本当に気付いていなかったのか。しかし、この二人のやりとりは、若干を通り越してかなり不自然なのだが、まあ気にしても仕方ないか。とか考えている俺に、メニカムさんが小声で話を振ってきた。


「ところでアロイス様」

「はい、何でしょう」

「桜さんは、その、お気に召しましたか?」

「は?」


 俺は当初、何を聞かれているのか、全然分からなかった。が、ニマニマという表現が合いそうなメニカムさんの表情を見て、程なく意図を察した俺は、どう答えたものか迷った。男はこの手の話題好きだけどさ、まあ。


「え、あっと、まあまあ」


 と、適当に答えようとしたその瞬間であった。ある意味凄まじい殺気の様な気配と共に、不穏な空気を桜さんの方から感じた俺は『え?それ地雷なの?』と一瞬戸惑ったが、すぐに嫁さんにより鍛えられたスキルを発揮した。


「あ、いえ、とっても良かったです。最高にお気に召しましたです、ハイ」

「お、おお、それはそれは、ようございました」


 完全に気配に飲まれた男二人であった。しかし、あんたもそういうタイプなのね、桜さん。以降気をつけよう。


 さて、そうこうしているうちにレアさんがスマホを持ってきた。


「いやー、来られるまでに何度も見ましたが、これは凄いですな。こんなものがこの世に存在するなんて、現物を前にしても、なかなか信じられませんよ」


 メニカムさんの話もそこそこに、俺はスマホを受け取ると、画面を確認した。まずは電波状況の確認だが、どうやら通信会社の電波は入っていないようだ。が、WiFiの電波は入っているように見えた。ん?どこかに無線APでもあるのか?電池残量も見たところ、不思議なことに減っているようには見えなかった。まあ、使ってなかったから、これはそんなものなのかもしれない。

 ロックを解除して、機能の確認をした。電話は、家や嫁さんの携帯に発信してみるも、電波がきていないせいだろうが、全く繋がらなかった。ネットも、WiFiが入っている表示のわりには繋がらなかった。良く分からんな。メールもSNS系の通信アプリも新しいメッセージは入っていなかった。職場のシステムから毎朝きていたメールも無いようだから、少なくとも昨日、土曜日の朝の段階では接続が切れている、というところか。

 これは期待できないかな、と思いつつ、地図アプリを起動した。お、なんか通信しているっぽいな。これはGPSで現在地が分かるかも、と期待しながら俺は画面を見ていた。


「……、何コレ?」


 俺の見ていた地図アプリの画面は、グレーアウトしていた。おい待てコラ。


「はあー!?マジで?」


 思わず悪態をついてしまった。

 これは他のツールを見ても意味無いな、と思った俺はスマホをテーブルに置いた。ひとつ、大きく息をついた。


「ア、アロイス様」


 声の方を向くと、恐る恐るという感じで、メニカムさんが声を掛けてきていた。ああ、さっきまで険しい顔で画面見てたからかな。ついつい確認作業に集中してしまった。


「ああ、申し訳ない、少し状況を確認してましてね」

「状況、ですか?」

「ええ、実はこの機械は、まあスマホと言うのですが、このスマホは時計以外にも幾つか機能がありましてね」


 そこまで言って、ふと俺は思い至った。この感じでは電話もともかく、他のアプリやらのことも、どうやっても伝わりそうにない。どうしたものかと考えていると、桜さんが助け船を出してくれた。


「アロイス様、メニカム様はそのスマホの模様が、アロイス様の操作で次々と変わっていくのを、とても興味深そうにご覧になってましたよ」

「そ、そうなのです。その時計、スマホというのですか、その上に文字のようなものが幾つも現れては消えていく、そしてアロイス様、あなたは目にも止まらぬ速さでそれを読んでいかれる」


 メニカムさんは感極まったような感じで、俺に向かって言った。


「アロイス様、あなたは、あなた様は一体どういった方なのですか?」


 その後、興奮のあまり暴走したメニカムさんを何とか鎮めた俺は、スマホという名の時計を置いて、彼の店を出た。家や使用人を手配してくれたことのお礼も伝えたことは伝えたが、心ここにあらず、という感じだった。ここでは、人前でスマホの画面操作をしただけでこうなるのか。他にもうっかりやらかさなければ良いのだが、まあ難しいだろうか。


 しかし、騒動を抜けて一息ついたところで、俺の意識は一気に現実に引き戻された。改めて周囲の風景を見る。このヨーロッパの中世然とした場所に、何故俺はいるのだろうか。

 通りを馬が歩いていく、糞をしながら。あの糞のように、俺もこの場所に落とされたのだろうか。つーか馬か、日本の都市部ではもう競馬場くらいでしか見ないよ。あー、なんか、どうなってんだ。


 俺は、途方に暮れた。

なかなか時間が取れないのです。

悲しいのです(ToT)

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