第103話 心残り
「さて、アロイス様」
もう既に自分がどこに居るのかも良く分からないが、何故か巫女さんズが集合しているので、考えるのを諦めた俺に、どこからともなく現れた桜さんがお茶を淹れてくれながら話し始めた(長いな、おい)
「アロイス様の歯も無事綺麗になったことですし、次に向かう先ですが」
「ハ?」
「おいおい、そのボケは面白くないぞ、アロイス殿」
「違うわ夏織、この男は本気で分かってないだけよ、多分これで分かるわ」
そう言うと、春香さんが顔を近づけてきて、小さく囁いた。
「これで乳首(以下自主規制)」
「ほわっ!」
そ、そんなことして欲しかったのか、流石情婦春香と呼ばれるだけはあるな。
「ち、違うわよ!あんたが呆けてるから、しゃきっとさせてやっただけよ!」
「か、過激だな、春香殿は」
「私も見習わなくては」
秋音さんの反応はともかく、冬華さん、イメージ崩れるからやめて。
「…そうだった、差し歯を直す材料を貰いに、冬華さんのところまで行ったんだった」
随分と前のように感じる、それこそ、1年くらい経っているような感覚だ。帰ってきてからの記憶が若干あやふやなんだが、何か関係あるのだろうか。
「別次元の話をさりげなく入れますね、アロイス様」
「ん?どういうこと?」
あ、もしかして夢から覚めていたのか?で、また夢に戻って来たとか。辻褄は合いそうだが、そう都合良く同じ夢に戻ってくるもんなのか。
…まあ、考えても分からんな。
「次に向かう先もいいんだけど、桜さ…桜」
「はい、何でしょう、アロイス様」
「ここはどこなの?」
「ここは、佐久夜様の別荘ですよ、アロイス様」
それ、答えになってるようでなってないから!そこで首を傾げない!ああもう、あざとい!可愛い!!
「乳繰り合うのは後にしてくれないか、ルーデル殿」
え、俺が悪いの?秋音さんや。
「相変わらず話が先に進まないわね、ここは佐久夜さんの別荘、それ以上でもそれ以下でもない、もうどこだっていいでしょ、何か問題ある?」
「いや、次に行く場所決めるんだろう?現在地が分からないと、行き方が決まらないと思うんだが」
これだから脳筋は困るんだよ、キミ。
「そういう意味でしたら、徒歩で行ける場所に行きますので、心配されなくても大丈夫ですよ、アロイス様」
この家ポータルなの?ねえ、そうなの?感覚おかしいのは俺なの?
「…まあ、それは分からんでもないな、ルーデル殿」
秋音さんに憐憫の視線をいただいてしまった。はうっ、そんな目で見つめられると辛抱たまらん。
◇◇◇
俺が秋音さんに簀巻きにされている間に、次の目的地の話が勝手に進んでいた。
「次は、やはり残りの『穢れ』を探すことになるのかしら」
「そうですね、春香様」
春香さんの問いに、桜さんが淡々と答える。
「場所は佐久夜様から大体聞いておりますので、一番近いところから行くことになろうかと思います。ですが」
「何か問題でもあるのかしら?」
「残りの穢れを集めるには日出国より出ることになりますので、その前に橘吉正様に依頼している春香様の刀を受け取ることになりましょう」
「ああ、そっか、そうだったな、マサ兄が打ってたんだったな」
夏織さんが、少し切なそうな顔をした。
「夏織、大丈夫?」
「ん、大丈夫だ、久しく忘れていたからな、少し懐かしくなっただけだ」
「そう、なら良いんだけど」
春香さんが心配そうに夏織さんを見ている。夏織さんの心には、まだ吉正さんへの想いが強くあるのだ。そんな春香さんの気持ちを汲んでか、夏織さんは努めて明るく言った。
「じゃあ、同志春香の得物を受け取って、穢れ探しの旅に出るわけだな、桜殿」
「そうなりますね、夏織様」
「私もアロイス殿の巫女とやらなんだろう、同志春香も行くしな、ついて行ってやるよ」
割り切れない思いは、勿論あるだろうに、気丈なことだ。俺は、夏織さんに一目置きなおすと共に、自分が抱いた女に、なおそこまで想われている吉正という男を、少し妬ましく思ったのだった。