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総務おじさん探訪記  作者: 中澤 悟司
総務おじさん、覇(歯)道を往く
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第102話 ここは…俺の部屋?

「さ、佐久夜さん、この部屋は?」

「懐かしいですか?アロイス様」


 懐かしいも何も、これ、俺が独身時代に住んでいたアパートの部屋じゃないか。


「え、どういうこと?」


 うっかり履いたまま入りそうになった靴を脱ぎ、俺は部屋を見て回った。独り身には無駄に広い2DKの間取り、一部屋は完全に物置部屋で、本棚3本と箪笥、そして車や自転車の部品や工具が置いてある。もう一部屋は寝室兼パソコン部屋で、万年床の布団に、オーダーメイドの座卓型パソコンデスク。ダイニングにはデカいテレビが鎮座していて、その前にはこたつだ。ああ、懐かしの俺の城だよ。


 …何故かところどころモノが新しいんだが。


「では、壺はここに置きますね」


 そう言うと、佐久夜さんは玄関に壺を置いた。傘立てなのか?それ。安アパートに如何にも高級な壺。違和感というか、胡散臭さが半端ない。


「花でも生けておきましょうか、持ってきますね」


 玄関を開けたまま、彼女は去っていった。


 …ここで、ドアを閉めたらどうなるんだろうか。閉めて~、開けたら地元でした~、みたいなことには、ならんよなぁ。どっちかっていうと、崖の上とか、砂漠のど真ん中とか、ろくでもないところに出そうな気がする。

 ま、いらんことはせんとこう。デキる男は必要ない冒険はしないのだよ、人はそれを蛮勇と呼ぶのだ。ちゃんと女性の意向を聞いてから、というのが最も重要なのだ。サプライズ?どうしてそれを買ってくるの、普段からアレが欲しいと言ってたでしょ、最愛の妻の話をしっかり聞いてなかったの?聞き流してたの?ふぅん、そうなんだー?

 サプライズ、そんなことが通用するのは、イチャコラしてる恋人同士だけと心得よ。報!連!相!はい大事なことなのでもう一度、リピートアフターミー!

 やる前にホウレンソウ!私の仕事なら投薬に注射、間違えたら患者が死ぬ!確認は確実に!


 はっ、ちょっとトリップしてしまった。反省反省。反省だけなら猿でも出来る。態度を示すだけなら政治家でも出来る。大事なのは、誠意を行動で示すこと!そこに誠意はあるんか?


 …いかんいかん、脱線が過ぎるな。やはりこの、思い出深い光景が呼び起こすのか、俺の、俺の暗黒面をっ!


「見てると面白いんですが、そろそろ花を活けてもよろしいですか?」

「あ、はい、すみません」


 ひとしきり部屋を見た後、佐久夜さんとリビングで、茶をしばくことになった。単身者用の小振りな冷蔵庫に、マイブームだったペットボトルの玄米茶が入っていた。賞味期限は、確認するだけ無駄か。きっと飲めるんだろう。


「この部屋は、一体どういった部屋ですか」

「おや、アロイス様のお部屋のはずですが、違いましたか?」

「ま、まあ確かに私の部屋ではあるかと思うんですが」


 自分の記憶も適当なので何とも言えないが、明らかにこのアパートに住んでいたときにはなかったはずのものが幾つもあった。逆に、あったはずのものが無かったりする。例えば、交換するので外した車の純正マフラーとか、サスペンションとか、ホイールとか、シートとか。まあ、要るかと聞かれれば、要らんと答えるけど。最終的にフリマで売ったんだよ、二束三文で。場所取るし重いし邪魔だったなぁ。あ、シートはね、車検通らないことがあるから置いてて、ってショップの人に言われたんだよ。車検の度に交換するの、面倒臭かったなぁ。

 …良い子はマネしちゃダメだぞ、整備不良でお巡りさんに叱られるからね。


「と言いますか、この部屋は私の部屋ですか?」

「そうですよ」


 佐久夜さん、わざと話をずらしてるような気がするんだけど。


「アロイス様と私しか入れない、という意味では、私の部屋でもありましょうか」


 きゃっ、と佐久夜さんが両手で頬を押さえた。いやいやいやいや、佐久夜さんと同棲?ちょっとどころじゃなくハードルが高そうなんですけど。そう言えば桜さんはどこに行った?


「まあ、桜とではなく私と同棲していただけるんですか?」


 え?違うの?


◇◇◇


 話を聞くと、どうやらこの部屋は佐久夜さんからの『プレゼント』らしい。巫女を揃えたことに対する褒章、ということらしいが、もう色々と突っ込むのも疲れるので、そういうものだと納得した。

 そう言えば、暫く突っ込んでな(以下検閲)


 久々の玄米茶と、これまた良く買っていたウェハースを堪能して程なく、俺たちは部屋を出た。色々見たい、確認したい、というか閉じこもりたい引きこもりたい気もせんではないが、巫女さんズと慈愛の大天使様がお待ち遊ばされていたら非常に困ったことになるので後ろ髪を引かれつつ出た。あ、俺はウルフカットじゃないぞ、念のため。かつては嫁様のバリカンカット仕様であったが、今は、そういえば夢に来てから髪切ってないな。飯も食うしトイレも行くのに、伸びるのが異常なまでに早かった髪の毛に変化が無いのは何故?あ、自分で意識してないだけで伸びてました?いつの間にか桜さんが切ってくれてたんだろうか。寝てる俺の横にいる、ハサミを持って薄ら笑いの桜さん。ひいぃ、それ何てホラーですか?とまあ、どうでも良いことを考えつつアパートの玄関ドアを開いた。


 ドアを開いたら雪国だった、とかないかなとワクテカしていたが、普通に元の部屋だった。ちょっと拍子抜けしながらも、ドアのある部屋のドア(ややこしいな)を開けると、どうしたことでしょう。


 匠リフォーム、っていうか別の家だわ、これ。

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