第101話 改めまして、ここはどこ?
1年振りでございます。
大変長らくお待たせいたしました。
※待ってた人がいるかどうかはともかく
佐久夜さん。
恐らくは俺をこの世界に連れてきた、張本人であろう。その目的は未だ分からないが、さっきの話を信じるならば、彼女の暇つぶし、若しくは他の『存在』との対戦用の駒、といったところか。
…ふざけるな、と言いたいところではある。しかし、逆の立場ならどうか。俺の立場は、言わば釣り堀に連れてこられた魚である。サーカスのサル、子供がその辺で興味本位で捕まえてきたセミ、とも言えるだろう。
魚や動物、昆虫の意思をいちいち確認するか?するわけがない。対価を払うか?そんな発想はあり得ない。それは、対等だと、交渉に値すると認められた相手にだけ通用するルールである。相手に意識があるだとか、知恵があるだとか、そんなことは関係ないのである。俺は、たまたま別の場所に連れてこられたアリに過ぎない。
となれば、俺が生き抜くには、観察者、いや、飼い主の庇護を受け続けなければならない。興味を失われたペットの末路は悲惨なものだ。責任感だけで最後までペットの面倒を見る飼い主が、どれほどいるのだろう。
そして、その責任感とやらも、結局は飼い主の曖昧な感覚に過ぎないのだ。
飼い主の関心を失ってはいけない、しかし、神経を逆撫でしてもいけない。意向に沿うにも、意向を、方針を踏まえなければどうしようもないのである。が、悠久の時を過ごしてきたという存在だ、そんなことは知り尽くしているだろう。そんな存在相手に、そもそも人間関係に難のある俺程度の者が、機微を察して動け、などと、土台無理な話である。そういうことで、俺は元々のとおり、彼女と俺の関係性を考えるのは止めた。
要は、俺の面倒を見てくれれば良いのである。
プライド?倫理?そんなもので腹は膨れない、雨風も凌げない。あ、あくまで俺の考えだからね、誇りを持って死にたいなら勝手に死ねばいい。いいじゃないか、ヒモ最高。不労所得は蜜の味。働かざるとも、喰えるものは喰うのである。
「そうですねぇ、味方かどうかは分かりませんが、この壺を買っていただければ、救われるかもしれませんよ」
いや、どこから出したんですかその壺、しかも買っても置く場所無いし。
「置き場所でしたら、ありますよ」
「…あー、メニカムさんがくれた家ですか?」
すっかり忘れていたが、俺は家持ちだった。固定資産持ちなんて、何という上流階級。
「でも流石に持っていくには遠すぎますし」
運搬中に割れたりしたら呪われそうだ。しかもネタ的なやつ。
「いえいえ、すぐですよ。今からご案内しましょう」
そう言うと、佐久夜さんは立ち上がった。えー、テレポート出来たりするんだろうか。あの砂漠の退屈な日々は一体何だったのか。
ぶちぶちと考えながら佐久夜さんの後を追った。程なく、とある部屋に入り、一枚のドアの前に辿り着いた。部屋の中にドアがある。何言ってるか分からないだろうが、ドアを開けたら、ドアがあったのだ。隠喩的表現でもなんでもない、本当のことなんだ。そう、あの怠惰製造機なタヌキロボが出すピンクのドア、若しくは怪物の会社にある子供部屋のアレ、のようなものである。
見てくれはどこにでもありそうな安アパートの金属ドアである。俺は、横に立って何も言わない佐久夜さんを一瞥すると、ドアノブをひねった。
「…鍵、掛かってますね」
「ふふっ、ちゃんと掛けてますよ」
古き良き?集落にある実家の癖で、玄関に鍵を掛けるという習慣が無かった俺は、頻繁に鍵を掛け忘れて、嫁様に折檻されたものである。ああ、懐かしき罵倒の日々。戻れるものなら戻り、たくはないな。
「鍵ってあるんですか?」
「ありますよ、これです」
佐久夜さんが帯から鍵を取り出した。あるんなら最初に言ってよ。
「いえ、どうするのかなぁ、と思いまして」
あぁ、この人もそういうタイプなのね…。
ちょっと笑っている佐久夜さんから、鍵を受け取った。若干見覚えがあるような気もするが、まあ、安アパートの鍵なんて、どれも似たようなもんだろうから、気のせいだろう。
で、
ドアを開けると、
そこには、既視感しかない光景があった。
でも、敢えて問いたい。
…ここはどこ?
違う話のネタは大量にあるんですが(おい)
ちょっと短めでも、ちまちま更新していければなあ(希望的観測)