カタストロフ(六、跋)
六、カタストロフ
「えっ……」
沈黙のあと、先に声を発したのはアランだった。
「カトリーヌ……」
「私があなたを……、殺してしまおうと思うの」
カトリーヌの手には、懐剣が握られていた。その銀の刃は既に、紅く染まっているようにも見えた。
「あなたに残された道は、斬られるか、逃げるか。どちらを選んでも、それは私との別れを意味する」
「だからって……」
不意に、それまで息を潜めていた血の臭いが、アランの鼻を責め始める。
「カトリーヌ」
「聴いて、アラン。私はあなたを捨てたりしない。身体は仕方ないけれど、首は……。夜の内に、あなたの首を掻き切って、あの林へと連れていくの。そして、あの想い出のトネリコの木の下に埋めてあげる。そうすれば、私はあの場所へ行くたびに、あなたに会える。あなたを感じられる。……後のことはうまくやるわ。大丈夫、心配しなくても。ほら、私の服を見て。暗くてわからないかもしれないけれど、血がついてるでしょ。生まれて初めての返り血。牢の見張りを騙して、殺したの。大丈夫、私だって、賢く立ち回れる、人並みには……。ね、名案でしょ。夜鳴きうぐいすの声のなか、いつでも二人で語らうことができるのよ。名案でしょ。大丈夫、林の妖精たちが、あなたのことを守ってくれるはずだから、ね。だから」
「カトリーヌ、君は恐ろしい」
「アラン……」
「冷静に考えてくれ。そんなことは」
「アラン」
「目を覚ますんだ、カトリーヌ。……お願いだ……」
腕にすがる恋人を、カトリーヌは憐れみの瞳で見つめ、そして、静かに言った。
何を今更。
一瞬の隙をついて、恋人の喉を突き刺した。
アランは死んだ。
跋
ピエロは、夜空を見上げていた。雲が晴れ、銀の月が鋭く光る。
それを囲むいくつかの星が、明るく、妖しく煌めいた。
雲が再び、夜空を被った。
愛しのアラン
私のアラン……
お読みいただき、ありがとうございました。
ああ、わざわざ分割するほどの長さでもなかったかもしれないですね……。
それはともかく、
あらすじで予告(?)した通り、参考にした文学作品を記します。
ただし、翻訳物はどの訳で読んだか、あえて記しません。私としても、たまたま手にとった訳本ですので。
戯曲
ウィリアム・シェイクスピア『ロミオとジュリエット』
オスカー・ワイルド『サロメ』
詩
中原中也『山羊の歌』より、『月』『サーカス』
以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
平成29年7月16日 檸檬絵郎
------ 追記 ------
一部、残酷な描写と倒錯的な表現を抑えめにしました。
平成30年3月1日 檸檬 絵郎(ちなみに、ユーザネームが微妙に変わってます。スペースが入ってます。)