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1.ツメトキバノモノ

 

 どくん。脈拍一つ。

 あまりの音の大きさに驚いた(おのれ)は覚醒した。


 どくんどくん。脈拍は絶えず。

 気が付いた途端にその音は己の耳を覆うように鳴り響く。


 うっすらと目を()く――――ここは、どこだ?

 あたりを伺うと、その反動で身体がふわふわと浮いた気がした。

 同時にどこかに閉じ込められているのだと知る。手足すら伸ばすこともままならないような、狭き牢に己は閉じ込められていた。少しでも己の空間というものを得ようとして手足を動かしてみるも、まるで一度死んで肉が固まってしまったか、思うように動かせない。

 そんな所に押し込められているのかと思うと、無性に外に出たくなるのも仕方ない。


「****! ******!!」


 誰かの慌てた声が聞こえた。

 まるで部屋をひとつ隔てたようにくぐもって聞こえたその声は、この狭き牢に閉じ込めた己が外に出ることを恐れているような気がした。


 まあ、それもそうだ。慌てたくなるのも無理はない。


 ツメとキバのモノたちを先頭で率いていた身として、この爪で随分と沢山の生き物を引き裂いて来た。

 自分で言うのもあれだが、実力で上り詰めて掴んだ地位は己にゆるぎない自信をくれた。認めてくれた魔王様にも、何度感謝した事か。


 それにしても、捕らわれてしまうとは我ながら情けない。

 こんな醜態晒して、最早傍においてくださった魔王様に顔向けすることは出来ない! だからせめて自らの力でこの場を切り抜け、ニンゲンどもに一矢報いる事だけが己の勤め。一人でも多くのニンゲンを、我が道連れにしてくれよう。


 嗚呼(ああ)、魔王様。

 己が心は魔王様の志と共に!

 己の身が果てようとも、魔王様に仇成すモノを引き裂き砕く!



 うむ。心はまだ死んでいない。

 そうと決まれば、じっとしている訳にはいかない。

 ぺたぺたと牢の壁に触れてみると、思っていた以上に柔らかい。


 爪に意識を集中するも、何か呪詛でもかけられているのか、我が得物である幾千の死を与えて来たツメがうまく形成できない。それでもこの柔い壁を打ち壊す事が出来るくらいには硬度を高め、意識をツメの先一点に集中する。どんなものでも貫ける、その強き想いを以てして――――。


 一息に壁を貫いた。


 刹那。


「ああ! おめでとうございます! 立派な御息女ですよ!」


 音が、張り裂けた。

 

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