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ポンコツヒロインシリーズ

思い通りにはさせません

作者: まあ

 ……まったく、頭の残念な後継者様だと思ってはいたがここまでとはな。しかし、籠絡された者が予想以上に多いな。これはあいつを褒めるべきなのか? この国の行く末を嘆くべきなのか? ただ、わかっている事は目の前の男は不適合者だと言う事だな。


 目の前には俺が演じているコンチェール侯爵家令嬢『ヴィエラ=コンチェール』の婚約者であり、第1王子が妾の子であったため、第2王子でありながらも自分が王太子だと思い込んでいる『ラヴェル=シタール』がブランブルグ男爵家令嬢『ルメス=ブランブルグ』の肩を抱き寄せて立っている。

 王子と彼女以外にも2人……いや、彼女を守るようにこの国の未来を担って行くと言われていた多くの有名貴族の子息達が立っているわけだが、1人の少女の騎士気取りのバカどもが多い様子にため息しか出てこない。


「……ラヴェル様、大勢で何かご用でしょうか?」

「決まっているだろう。ヴィエラ=コンチェール、お前との婚約を破棄する。私はこのルメスを妃に迎え入れる。ルメスに行った嫌がらせの数々、許すわけには行かない。貴様のような性悪女にはそれ相応の罰がくだると思え。もちろん、言い訳などを聞き入れるつもりはない!!」


 これから何が起きるかは察しが付いているわけだが、それでも主命もある事や俺の予想が外れる事を祈って、10年間使い続けてきた作り笑顔と裏声でこの状況について聞く。

 俺の質問に頭の中が残念な男は公爵家の令嬢であるヴィエラとの婚約を破棄し、側に寄り添っている彼女と婚約者にすると予想通りの事を高らかに宣言するわけだがあの様子からは何も調べずにこちら側の者達が流した情報を信じ込んでいると言う事だろう。

 

 ……これでようやく長かった任務から解放される。


この状況が滑稽で笑みがこぼれてしまうわけだが、俺の態度が気に入らないようで多くの敵意がこもった視線と侮辱する声が向けられるわけだがその視線はすべてを知らない愚か者達の遠吠えにしか聞こえない。


「……何を笑っている?」

「この状況が滑稽としか思えないからです。ラヴェル=シタール様……違いますね。この茶番で王太子と言う立場を追われるわけですし、これからはなんと呼んだら良いでしょうか?」

「何を言っている? 気でも触れたか?」


 俺の態度が気に入らない頭の中が空っぽな男は高圧的な目でこちらを睨み付けているわけだがただの道化の戯言でしかない。

 ただ、任務とは言え、頭の中が空っぽなこの男に付き合わされた事へ仕返しも込めて挑発するように笑って見せる。

 婚約破棄を言い渡された俺が壊れてしまったとでも考えたのか頭の空っぽな男は怪訝そうな表情をするわけだが哀れなのは俺ではない。


「気が触れているのはあなたですよ。ルメス、この方はあなたと婚約者にしたいと言っているようですがあなたにその気はありますか?」

「何を言っている。ルメスが私を裏切るわけが? ルメス、何をしているのだ?」

「ルメス、よくやった。疲れただろう」


 そろそろ、飽きてきた事もあり、ルメスに向かい声をかける。俺がルメスに声をかけた事に不快そうな表情をするバカ男だがルメスは自分の肩を抱いていた手を跳ね除けると嬉しそうな表情で俺に駆け寄り、その腕を絡める。婚約者にしようと考えていたルメスの行動は彼にとっては理解できない事であったようで呆然としている。

 その様子に笑いが込み上げてくるのだが何とか押さえつけて長らく頭の空っぽな者達に付けていた彼女を労うように頭を撫でてやる。


「いえ、愛するリオール様のためなら、このルメス、どのような事でも辛くなどありません」

「そうか」

「ルメス、どういう事だ? 説明しろ……ヴィエラ、どういうつもりだ?」

「そうですね。そろそろ、飽きてきましたので種明かしを」


 彼女は頭を撫でられた事がよほど嬉しいようで太陽のような眩しい笑顔を見せてくれるわけだが任務とは言え、婚約者である彼女を頭が空っぽな男達の相手をさせてしまった事に若干の後ろめたさを感じてしまい、視線をそらしてしまう。

 俺が視線をそらすと彼女はすぐに回り込み、その眩しい笑顔を向けてくるのだが頭が空の男はまだ自分が置かれている状況を理解できていないようでルメスに手を伸ばすのだが2人の間に割って入り、その手を遮って見せる。

 邪魔されるとなどまったく考えてもいなかったようで、鋭い視線を向けてくるわけだが自分で状況を理解しようともしない様子にため息が漏れてしまう。

 俺の態度に不満げな男を無視し、任務のために長年、着用していた女性物のかつらを外し、ドレスをはぎ取って見せる。


「初めましてと言って良いかはわかりませんが『リオール=アクターゼ』です。ルメスは俺の婚約者で任務のためにあなた方のような愚か者達の側に置かせていただいていました」

「リオール=アクターゼ? ……確か、あの生意気なアクターゼ辺境伯の嫡子だったか? お前のような者がなぜこのような場所にいる? それに侯爵家令嬢に化け、私を謀っていたとはどういう事だ!?」

「……あまり。汚い言葉を吐かないで貰おう」

「貴様、私を誰だと思っているのだ!! 衛兵、この者を捕らえろ!! なぜ、私の命令を聞かない!!」


 姿を現した俺を見て、怒声を上げる男《元王子》に向かい腰に差していた剣を抜き、切っ先を彼ののど元に向ける。

 剣を向けられて、すぐに衛兵達に捕縛の命令を飛ばすわけだが衛兵達は彼の命令に誰も動こうとはしない。その様子に苛立ちを隠す事無く怒鳴り散らす様子は酷く滑稽に見える。


「今回の件でラヴェル殿は王族から追放になったからだ」

「……何を言っている? 私はこの国の次期国王だぞ。王太子だぞ」

「残念ながら、次期国王は第1王子の『リマベル』様に決まりました」

「下賤な血を引く男が次期国王だと? ふざけた事を言うな!! そうか、貴様たちは反逆者だな。私を追い落としあの男を祭り上げる気だな。衛兵、遊んでいないでこの者達をひっとらえろ!! なぜ、動かない。私の指示を聞けないのか!!」


 自分は王太子だと喚き散らす男の姿が酷く哀れに見える。所詮は王族の血を引いているだけの人間か先ほどまで自分の妃にすると言っていたルメスにまで反逆者の烙印を押そうとするのだ。

 しかし、衛兵は1人も彼の指示を聞くような事はない。なぜならばこの者達はすでに王の勅命で俺の指示でのみ動くように言われているのだから。


「勘違いしているところ悪いが誰もお前の指示では動かない。俺とルメス、ここに居る衛兵達は全員、王の勅命で動いているのだからな」

「……父上の命令でだと?」

「そうだ。王は10年前に2人の息子のどちらに王の資質があるかを見極めるために忠義の厚い臣下に命令を下した。王子2人の側に潜み、どのように成長して行くか、国を継ぐのにふさわしい物はどちらか見極めるためにとコンチェール家、アクターゼ家、ブランブルグ家は第2王子の審査官となる」


 状況を整理できていない男に淡々とした口調で告げる。

 そこで初めて状況が理解できて来たのか王太子だった男の顔から血の気が引いて行くのが見て取れる。

 ここまで来て、状況を理解してくれたようだ。だが、この場は状況を理解しただけでは終わる事はない。


「10年女装をして、側でその様子を見せられていたわけだが」

「ま、待ってくれ」

「……もちろん、言い訳など聞き入れるつもりはありません。それにすでに報告書はすでに国王に届けられている。今更、手遅れだ。先ほど、ルメスが言った通り、リマベル様は担当の者達に王の資質を認められ、正式に王太子に任命された。自称ではなく、正式な王太子として近いうちに国民にも知らされるだろう。これまでの振る舞いにより、それ相応の罰が下されると思え。衛兵、勝手に王太子を語った不届き者とその権力にすり寄り、無実の者に冤罪を押し付けようとした者達を牢に連れて行け」


 自分が王太子だと勝手に思い込み、わがまま放題していた事やルメスに女装していた俺が嫌がらせをしていると言う誤情報の真偽判定もせず、自分の都合の良い事だけを信じようとする様子を誰よりも側にいた俺はしっかりと見てきており、彼に向かい不合格の烙印を押そうとするとみっともなく言い訳をしようとしてくる。

 その言葉を聞き入れる気はまったくない俺は衛兵に命令を出し、衛兵達はすぐに自分達の任務を全うする。連れて行かれる者達は自分だけは無罪だと声を上げるのだが俺もルメスもラヴェルの情報収集の傍ら彼らの行動も見ていた事もあり、様々な報告書を国王へと上げているため、それが口から出まかせである事を衛兵達も当然、知っている。ルメスを使い、国のためにならない者達をこの場に集めたわけだからな。


「まだ、報告書を上げなければいけないが一段落ついたな。しかし、長かったな」

「はい……リオール様」

「……どうかしたか?」


 ラヴェル達が連行された様子を眺めながら10年にもおよんだ任務を終えた事もあり、ほっとしたのかため息が漏れてしまう。

 ルメスに名を呼ばれ、何かあったのかと彼女へと視線を移すと彼女は両手を俺の首へと回し、抱き付いてくるのだ。

 突然の彼女の行動に声が上ずってしまうのだがなるべく冷静に努めて聞き返す。


「頑張った婚約者へのご褒美はないんですか? 任務とは言え、好きでもない男性達に笑顔を振りまいて疲れました。それにリオール様は会えてもほとんど女性の格好ばかりしているんですから」

「……すまなかった。機嫌を直してくれ。埋め合わせをするから」

「本当ですか。それなら……」


 任務の間中、彼女は不満をため込んでいたようで口を尖らせるわけだが任務で拘束されていたのは俺も一緒である。

 しかし、おかしな事を言って機嫌を損ねるわけにもいかないため、謝罪の言葉を言うと彼女は笑顔を見せてくれるのだが彼女の口からはこれまで婚約者らしい事を出来ていなかったためか次々と2人で行きたい場所ややりたい事が出てくる。


 ……どうやら、任務の後始末はまだまだ終わりそうもないな。


 ルメスのご機嫌取りも任務の一貫だと考えて覚悟を決めるわけだが彼女が笑顔を見せてくれているし、良しとしておこう。


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