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だから普通に過ごさせろよ  作者: 呉葉 織
第Ⅰ章:底辺クラスの『落ちこぼれ』
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動向


 カツリカツリ、と廊下に響く足音。ここは終焉の塔。クルフィレール大陸の中心より東に位置する国・ファルヴァンテの中枢は王都カルランテ。そのカルランテから北東に離れた禁忌の森フォアーゼの森の中に悠々と聳え立つ、人目に晒されることのない塔である。

 フォアーゼの森には守護聖獣は居ない。かつて、ここは堕ちた聖獣を処刑するためだけに開拓されたとされ、その行いから禁忌の森と呼ばれて居る。

 フォアーゼの森は他のどの森よりも薄暗く、魔獣や突然変異種、上位種などが棲みついており、そこに害のない生物はいない。

 塔は10階建てである。そもそも、この塔に来る人間なぞ殆どいない。終焉の塔に住んでいるのは『能力最高委員会』の8人であり、2階から1人ずつのフロアとされている。2階から第8席で、9階は第1席が住んでいる。10階は彼らの会議のための部屋と特殊室のみ。特に、日中居ないのが4,6,7階。

9階に住む1席は日々部屋にこもっておりほぼ外に出てこないという。

 バンッ! と荒々しく開けられた最上階の会議室のドア。入ってきたのは青のローブの人物であり、その様子は何やら苛立っていた。


「ほんっと、ありえない!!」

「何かありましたか、青」


 対応したのはすでに席についていた3紺のローブの人物。尋ねる声にしてはやけに呆れた声音である。青のローブは自分の席に着くや否やバンッ! とまた机を叩く。ピシリ、と何やら嫌な音がした。


「聞いて!」

「はいはい」

「学園の奴らが居た!」

「……はい?」


 紺のローブの人物はこれまた素っ頓狂な声を出す。それは、普通ならありえないことだからだ。正式に今日は森に不用意に近づくな、と通達を出したのに。それにはちゃんと理由がある。

 『能力最高委員会』の仕事である、堕ちた聖獣もしくは聖獣候補を狩りに行っていたのである。堕ちた聖獣。彼らは聖獣として住処の森を、そしてクレフィレール大国を護っている存在である。そんな彼らだが、人の邪気や怨念等と言った負の感情に当てられやすく、堕天して聖なる守護の存在から力のある凶悪な魔獣になってしまう。今回の狩りに行った獅子は比較的人間が入りやすい森を守護していたためかなりの量を当てられてしまったのだろう。守護する存在だとしても、その存在が脅威であるのならば早急に措置しなければならない。


「もう、そのせいで浄化できなかった!!」

「それはヤバいですよ……しかし、何故?」


 紺のローブの人物は疑問に思う。通達を出したのにも関わらず、何故学園の奴らが居たのか。

 『能力最高委員会』は各組織の頂点に立ついわば最高中枢機関。その命令を無視するとは中々いい度胸である。

 青のローブの人物がキレるのも仕方ないだろう。何せ、堕天し狩った聖獣を浄化できなかったのだから。

ただ狩るだけが仕事ではない。堕天した後の影響を考えて森全体を浄化し新たな守護聖獣を決めなければならない。

 それが、邪魔が入ってできなかったとなるとかなりヤバイ。何がヤバイかというと堕天した聖獣の影響は強く、早めに浄化しないと森全体に広がり最悪の場合は森ごと焼却せざるを得ない。


「黒には報告したわよ」

「あの人は何て?」

「後で自分が浄化しに行くから、気にするなって」

「……流石ですね」


 黒こと第1席はいつも部屋に篭って『能力』の研究と解析と論文とを書いている変人だが、その身に秘めし魔力は膨大だ。黒の魔力だけで国1つは軽く滅び、その『能力』は歴代最凶と言われておりその異名に恥じない『能力』は加減を待ち構えればこの世界ごと吹っ飛ばせる。

 そんな『能力』持ちの黒は『能力最高委員会』で最年少であり、誰よりも物事を冷静に見据えている。まさにそんな人物である。そんな規格外もいいところの『能力最高委員会』のトップ様の気配は今現在塔内にはない。多分、青のローブの人物の報告を受けて、森の浄化と守護聖獣の選定にでも行ったのだろう。だが、しかし。今から会議である。彼の人物が会議をすっぽかすことなんてないだろうが、下手したら遅れては来るだろう。

 そう紺のローブの人物が思って入れば、会議室のドアが開き、アイボリーのローブの人物と群青のローブの人物が入って来る。まだ来てないのは薄い水色と紫、藍。


「何や? 黒はどないしたん」

「あー、今カンヴァーチェの浄化に行ってる」

「はぁ? カンヴァーチェ? それはお前が行ったところやろ?」


 群青のローブの人物が関西弁でまくし立てる。それを聞き流す青のローブの人物とため息をつく紺のローブの人物。アイボリーのローブの人物は呆れたような声を出す。もはやいつものことと言えばいつものことだが、大抵は黒が来た瞬間ピタリと止む。その静止力がいないせいか、落ち着かない。

 だからと言って、アイボリーのローブの人物は止めようとも思わない。この関西弁の群青のローブの人物、かなり胡散臭い上にいつだって飄々としているせいかよく下に見られがちな上に誰からも舐められがちだが第2席である。

 その実力は相当なもので、彼を怒らせると『能力』が飛ぶので危険である。それもそのはず、この2席は脳筋最強集団と恐れられている『竜胆』の元トップだ。そして、言い合っている青のローブの人物は6席。

 この人物は物理系、破壊系の集まる『天文』でその実力からスペシャリストと呼ばれた人物である。現在は引退して『能力最高委員会』に属しているが。この2人の実力は誰が見ても納得できる。そして、他にも4席は治癒特化型の『睡蓮』で歴代最強と呼ばれた治癒師であり、7席は頭脳派先頭系の『白雷』の歴代最狂と言われた人物である。

 過去にその名を馳せし彼らはその実力を買われて、先代達にスカウトされた。そして、そこに属していなかった3席、5席、8席だが彼らの実力はまだ陽の下に出たことはない。だが、ここに居るということはそれ相応の実力の持ち主であることは変わりはないだろう。


「そうなのよ! てな訳で聞け!」

「おま、俺の方が上やのにな……」

「学園の奴らが居たの-!」

「……そーかそーか」

「ちゃんと聞いてあげてくださいよ、あなた2席でしょう」


 そんなやりとりをしていれば、「何-?」と楽しそうな声音が聞こえる。厄介な奴が増えた、と紺のローブの人物はため息をつきたくなった。正直言えば、もうすでに心の中ではつきまくってはいるのだが。現れたのは不在だった紫のローブの人物だ。だが、ローブが長いせいかかなり引きずっている。どうやらまた身長を縮めたらしい。


「遅かったですね」

「ん、ゴメンね? ラバル見に行ってた」

「ラバル? また何でそんなとこに?」

「あれ? 聞いてない?」


 ラバルとは隣国で、現在ファルヴァンテの境界線で冷戦が続いている国だ。軍事国家であるラバルとは度々競り合いがあり、この競り合いは現在15年も続いている。

 ラバルには『能力』が戦闘系に特化したものが多い。よって、下手に投入すれば惨事しか起きない。それだけは避けたい国は現在冷戦という形で牽制している状態だ。何かあれば、自分たちが対処することになるだろう。そういう仕事も受け持っている。


「あっちが境界線、破ったらしくてね」

「……ついにやったか」


 2席の群青色のローブの人物が苦々しげに呟く。まるで、いつかやるのを見越していたかのように。紫のローブの人物は「とりあえず、防波堤だけ置いてきた」と言い、早めの対処が必要だという。

 今日の会議はこれも追加、と群青色のローブの人物が確認したところで血生臭いに皆顔を顰める。その異臭の方を向けば、血塗れの大きなイノシシ――どこかの守護聖獣――を生け捕りしたまま持って帰ってきた薄い水色のローブの人物と、藍色のローブの人物が居た。何故生け捕りにして持ってきている!? というのが一同の意見だ。そして、黒のローブの人物はまだ来そうにない。


「聞きたいんですが、そのイノシシは……」

「堕落寸前で生け捕りにしてきた。後で浄化(Puhdistus)して、返す」


 何故、その場でしてこない……と呆れる一同。だが、ここにも絡んでいた。


「学園の雑魚が居て」

「またですか」


 もうため息をつくしかない。そんな状態の中で瞬間、空気が張り詰める。どうやら帰ってきたらしい、第1席が。この人物が出す空気は第2席とは違う独特なもので。現れた黒いローブの人物は生け捕りのイノシシの目をやった後、特に気にしないかのように席に着く。


「会議を始めるぞ」


 その言葉が合図となるかのように、全員が席に着く。放置されたイノシシを無言で浄化(Puhdistus)した第1席は一言落とす。


「2ヶ月後にラバルを墜とす」


 これが、全ての運命の分岐点であり、崩落であることを悟り、フードの下で密かに瞳を伏せる。それを、どこか他人事のように、残酷に想いながら。





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