面倒ごとの契約
Sクラス担任のアリアは俺らXクラスを嫌いまくっている。それもそのはず、底辺クラスなどエリートであるアリアは嫌っているのだから仕方のないことだとは思う。よくあることだ、強者が絶対と信じて弱者を虐げる行為は。アリアは強者、俺らは弱者。『能力』という才能が底辺だということからそういう位置づけがされている。正直言って、その辺りは興味が一切ない。まあ、下らないと思っていると言うこともあるが。
大体、何が面白くてそんな位置づけをするのか。そこからして理解できない。まあ、しようとも思っていないから構わないのだが。
とにかく自分の方が上、という思考持ちのアリアにとって俺らと言う存在は異分子でありゴミ以下。強者だからと言って、それが絶対というわけでもないのだが。まあ、それを言っても仕方ない。言ってどうこうなるわけでもないのだから。
「暁君」
「嫌ですけど」
「まだ何も言ってないわ」
ピンクブロンドの髪を後ろに払い、俺に対して笑いかける。だからなんで俺な訳、他にもいるだろうが。思いっくそため息をつきたいがそんなことをすれば確実にコレが煩くなる。突っかかられるこっちの身にもなれ、とも思う。いや、本気で。
アリアのことだから、俺がクリス……学園長に目を掛けられているのが気に食わない、という幼稚な理由だろう。俺だって目に掛けられたくて目に掛けられてるわけじゃねぇよ、むしろひっそりとしてたい。が、それはもう願望でしかない。
「うちのクラスの子と、対決してくれるかしら……?」
「お断りします」
「あら、この場じゃないのよ?進級試験の時で構わないの」
……チッ、わざわざそこでやれってか。面倒でしかねぇな。なんでわざわざ進級試験なんて出してきやがった。免除で行く予定だったのに、出る羽目になるじゃねぇか。
わざわざ『能力』をひた隠しに来ている意味がなくなる。思わず盛大な舌打ちをすればアリアとクリスの顔が引きつったのが見えた。……何、選ぶ権利くらい俺にあると思うんだけど。
舌打ちが大きかったのか、クラスの奴らも心なしか顔色が悪い。まあ、相手は俺らよりも格上だしな。そんな奴らに楯突くなんてただのバカと言えよう……正直、どうでもよすぎてその辺思ったことはないが。
「きょ、京雅? あのな、その……」
「クリスは黙ってろ。面倒になる」
「すでに面倒が始まってるけどな!? 俺にタメ口この場できいてる時点でアウトだ!」
「そうだな、だから何だ」
「……開き直りやがったよ……」
クリスに敬語使えって? 無理だな、尊敬するにあたらない。よって除外。クリスの扱いが雑だろとそうでなかろうと関係ない。そもそもの話、この話を止めるのがお前の役目だと思うんだけど?
アリアといえば顔を引きつらせたままだ。だろうな、予想通りだから何も言わない。本当なら、その場で投げ出して逃げたいところだが、そうはいかないのが現状。
「学園長に、生意気な口を叩いて居るのは本当なのね」
「……アンタに関係あんの」
ねぇだろ、余計な詮索してこっちを苛立たせようとすんな。が、その態度が気に食わなかったのかアリアはその場で眉根を寄せた。まあ、一生徒が大きな口を叩いてわけだし、しかも相手は学園のトップ。
そりゃ、前は敬語使ってたけどクリスのヘタレ具合を見てたら敬う理由なんてなくなるわけで。いくら『能力』が希少だったとしても、人となりがな。
「底辺クラスで、尚且つ『能力』が分からないあなたは生意気がすぎるわ」
「そうか」
「私のクラスの子達があなたを嫌う理由が分かるわね」
それは勝手なお前らの偏見だろう。だから何だという、たとえお前らに嫌われようが何されようがどーでもいいことに過ぎない。
生きているということだけで、俺にとっては十分なことであり現段階でこの『能力』は不必要なのだ。もしかしたら、いつかは使う日が来るのかもしれないが。そんな日が来なくてもいいと思ってる。まあ、来たところで使うかどうかは不明だ。
俺の持つ『能力』とは、そんな『能力』なのだ。だから、人目に晒したくはない。晒したところで目立つだけだし、それに……。
「とにかく、進級試験が楽しみだわ」
「勝手に話を進めないでください、アリア先生」
「あら? 学園長は反対なのかしら? 彼に肩入れしているから?」
「いいえ、そもそもSクラスとXクラスでは実力が違いすぎるでしょう」
「そうね、でもそれじゃあ私の気が済まないの」
完全なる私情だろう、それは。何考えてんだバカアリア。と、仮にも教師である彼女を内心で盛大に罵りながら、ため息をつきかける。もう放っておいてくれて構わないんだが。
が、そんなことはアリアには関係ないしどうにも俺を潰す気でいるらしい。ご苦労なことだ……いや、本当に。やる気のない奴を潰したって何にもならないだろうにな。
「進級試験の実技戦は私が登録しておいてあげるわ」
「ちょ、アリア先生!?」
クリスの言葉を聞かずして、アリアは去って行く。……勝手に決められたな。これじゃ、俺らのクラスは全員進級試験の実技戦に出ることが確定したぞ……。他人事のように言っているが、実質は他人事だ。俺も出る予定じゃなかったその実技戦に少し前に分け合って出ることになっていたのだ。半強制、俺の意見なんて総無視。随分と横暴な相手だが、仕方ない。アイツはそういう奴だからもう諦めるしかない。
「京ちゃん……」
「頑張れ」
「ひど!?」
としか言えないだろう。てか、クリス頭抱えてるくらいなら止めに言ってほしい。それこそお前の『能力』使って。その辺簡単にできんだろ? と思って視線を向ければ何故か蒼い顔をしている。何なんだよ一体……。クリスは俺を見てうー、と唸った。何いきなり。
「クリス」
「あああ、もうヤバい……」
「何」
「京、お前元々出るつもりだったよな!?」
「誰かさんの強制でな」
え!? とクラスの奴らが俺を見る。だから何。てか、俺は望んで出たいとは一切言ってないから、強制だから。いや、正式に言えば半強制だが。当日バックれたければすればいい、とは言われている。が、代わりに進級単位はやらないという脅し付きだ。中々に酷い。
「絶対お前らはSクラスと当たる」
「そうか」
「何淡々と答えてんだよ!?」
だって関係ないし。出るだけ出ればいいんだろ、そこに結果は求めてないと言うんならそれで構わないしその方がいい。俺はただ出ろ、と強制されただけだ。それ以外の何にでもない。そこで結果が求められていても何もしないがな。面倒だし、未だに『能力』申請してもない雑魚なんて殴ったら簡単に倒せる。
「暁、マジなのか?」
「ん? ああ、まあ……」
残念ながら、な。多分知らされていないところであと数名は勝手に登録されているに違いない。その現況がクリスも誰だか知らないわけがない。
元々Xクラスにいる奴らだって弱いといえども『能力』持ちだ。戦えないわけではないし、討伐にだって駆り出されている。だが、そこには才能の差という何とも理不尽な結果が生じてくる。
クラスの奴ら……四大精霊と契約している観都達も含めて彼らが呆然としている中、不意に感じた違和感に眉を上げた。何だ? 少し血生ぐさい……それは瀬奈から香ってきた。
「瀬奈」
「……あ、え?」
「お前、魔獣の血でも浴びてきたのか」
「え? ……ああ、私じゃないの」
「は?」
意味が分からない。どういうことだ。瀬奈の話を聞くには、瀬奈が向かった場所に引き裂かれた聖獣であろう大きな獅子が紅の中に塗れて倒れており、その場には誰もいなかったらしい。
どれだけ酷かったのか。その残り香が悲惨さを教えてくれた。瀬奈も近づかなかったのに、残り香が移っているというのはそういうことだ。
そもそも何故獅子が聖獣だと分かったのか。多分、瀬奈が言ったのは「カンヴァーチェ」の森だ。森には必ず守護聖獣が存在する。確か、あそこの森の守護聖獣は黄金の輝きを纏う獅子だったはずだ。その守護聖獣が誰かに意図的に殺された? ともなるとそれはかなりヤバい。
何かが確実に動き出している。それを身をもって知り、俺が巻き込まれるのはすぐだった。俺の抱える秘密とその理由が引き金となることを、知っていて目を逸らしていたことなど俺とアイツ以外は誰も知らずして――……。
近いうちに次話更新予定です。