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だから普通に過ごさせろよ  作者: 呉葉 織
第Ⅰ章:底辺クラスの『落ちこぼれ』
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グリフォア


 激しい風が教室内に充満する。机は飛び、ガラガシャン! という音を立ててぶつかり合っている。


「あーん、もう何でグリフォネアなんて来るのよぅ!」

「つべこべ言ってる暇があるならとっとと攻撃しろ!」


 澪乃は水霊ヴェシヘンキ水霊王(キング)と契約を結んでいるため、ヴェシは彼女の領域である。片手に小さな水球を作り、グリフォネアに投げつけた。オイ、何で投げつけてんだ。


「ふむ」

「オイ、お前何した?」


 と、言ってもあの水球がグリフォネアには当たってない。グリフォネアの風の防御により水球は木っ端微塵になっていたのを見たし。


「京ちゃん、えーと、何してもらおうかな」

「……何もしねぇぞ」

「してってば! グリフォネアとかどんだけ危ない奴だか分かってないのかな!?」


 いや、知ってるけど。討伐難易度SSに入るくらいには危ない奴だと思ってるけど。

 『組織オーガニサーティオ』に属さないところを『ギルド(キルタ)』と呼び数多くのギルド(キルタ)が存在する。

 『組織オーガニサーティオ』は国の中枢に近しい組織だが、ギルド(キルタ)は街の、市民に近しい組織だ。

 『組織オーガニサーティオ』に属するのが圧倒的な『能力』を持つ者に対し、ギルド(キルタ)はごくありふれた『能力』が多い。それは風霊トゥーリヘンキのような精霊、魔獣使いなど。

 そのギルド(キルタ)は能力者に討伐依頼を要請している。それを受けるも受けないも能力者個人の勝手である。

 討伐依頼にはランクがあり、最下位がF,最高位がXSSという奇妙なランクだ。そもそも、XSSなど滅多に出ることがないのだけど。

 今目の前にいるグリフォネアはSSランク、上から数えて3番目。

 最高位のXSS、SSS、SS、S、A、B、C、D、E、F。これらが討伐依頼のランクである。


「ウルディエの能力借りるにはここは狭いし……」

「……。」

「ちょっと京ちゃん!? 考えてる!?」

「もう水霊の能力でひとまずここに留めたらいいんじゃねぇか?」

「このバカデカイのを!?ムリだよ!」


 水霊の能力は使い方によっては何にだってなる。あー、澪乃みおのはバカだから、考える頭が足りてないのか。


「水を鞭にしたらいいんじゃねぇのか?」

「……………あ、そっか」


 あ、そっか、じゃねぇよ。お前がそっち(水霊)の能力者だろうが。なんで俺が助言してんだ……?


「京ちゃんも手伝ってね!」

「何で」

「私1人でできると思うの!?」


 十分できると思うけど。そもそも精霊王キングと契約してるのなら、それくらい軽いもんだろ。ため息をついて手に水を纏わせる。


「『水弾ヴェシローティ』」


 ふわり、と水の弾が数十個周りに浮かぶ。普通ならそのまま相手に向かって飛んでいくのだがわざわざ浮かせている(・・・・・・)

 前に火弾パロゥローティを使った時はそのまま飛ばさせた。あれは小さめの魔獣だったから良かったものの、今回はそれの2倍は確実にある相手。多少のダメージなど、効くわけがない。


「『水砲ベシテッキィ』」


 浮かばせていた水弾ヴェシローティを掻き集めて巨大な水の弾を創り出す。その大きさは直径30cmくらい。多分、4発は行ける。それをグリフォネアに直撃させる。

 頭、両翼、腹。水弾ヴェシローティよりも面積が広い分威力がやや劣るが速ささえ加わればこちらのものだ。バシャ、と的中したところが濡れた。

 濡れた羽では上には飛べまい。そこに澪乃の水鞭がグリフォネアに向かって飛び、雁字搦めに固定して動けなくさせる。


「はー、やぁっとだよ」

「バカ言え、コイツをどうするつもりだ?」


 そう、問題はそこである。このバカでかい魔獣をどうするべきかが問題なのである。


「……んー、とりあえず八つ裂きにして肉にでもする?」

「やめろ」


流石に魔獣の肉は美味しくはないと思うが。それを聞いていたグリフォネアは驚いて「グェグェ!?」と騒ぎ立てている。ま、そりゃそーだな、うん。


「クリスが戻るのを待つか……」

「理事長?」

「空間使いだし」


 そこからコイツの生息地に戻してもらおう。グリフォネアは討伐ランクSSだが、希少獣として有名だ。無闇に狩る必要性はない。


「……京ちゃん、アレだよね」

「何だ」

「理事長と仲いいよねー?」


 ……アレはある種の事故だ。俺の『能力』の断片を見られたから。そして、アイツはそれに興味を持ったから、ただそれだけのことだ。


「別に」

「あ、はぐらかしたー!」


 ……あー、もううるっさい。ため息をついて、澪乃の額に手を伸ばす。伸ばされた手に澪乃は首を傾げ、俺は狐の形を作り額に押し付けた。所謂、デコピンという奴だ。

 バチンッ!という小気味のいい音がした。澪乃が「いったぁぁぁい!」とか喚くが無視。


「京ちゃん!」

「煩い、黙ってろ」


 そこまで強くやってねぇし。ムスッとする澪乃を放置して縛られたグリフォネアを見た。


「グェー!」

「もうちょっと待てたら巣に返してやるよ」


 にしても妙だと言えば妙だ。普通、魔獣がこんなところに迷い込むことは少ない。なのに、何故? 

考え込んでも埒が明かないが、言うなれば何かが起こっていると想定してもおかしくはない。

そういうレベルだと思う。


「京ちゃん?」

「あ? 何だ?」

「何で教室に居たの?」


 ……魔獣を1匹倒した後の話だけどな。何て言わない。その辺りをとやかく問われたくはない。面倒だし。


「教室に居たらいけないような言い方だな」

「いつもなら保健室に居るじゃない」


 そんなことはないけど。……あー、あれか。よくはぐらかして保健室って言ってるからか。だからか、それを間に受けてんのか。


「たまたまだけど」

「……なら、運悪すぎね。グリフォネアに遭遇するなんて」


 否定できないが。グリフォネアは大人しくなったらしく、俺と澪乃を見て「グェェ?」と首を傾げている。……何だよ、おい。


「で、」

 

 澪乃に何がだ。とか思いながら奴はグリフォネアと対峙していた。まあ、被害はないだろう。急に大人しくなったグリフォネアにも疑問符がある。何なんだ、今回はやけに疑問が残るな。


「アンタはどーやってここに来たのよ?」

「グェ?」


……バカだろ、コイツ。魔獣にそんな質問しても返ってこねぇぞ。首を傾げるグリフォネアと真剣な顔の澪乃。……もはや、バカとしか思えないその行動に頭を抱えた。

 コイツ、ここまでバカだったか……あー、そういやあれだったな。座学の成績もバカみたいに悪かったな。その時、足跡がした。ああ、この気配は。


「京!」

「クリス遅い」

「え、ちょっ!?」


 荒れ果てた教室に、水の鞭で縫い付けられて大人しくしているグリフォネア。この光景を見て、混乱しない奴は居ない。


「……グリフォネア?」

「コイツ、生息地に返したいんだけど」


 未だ混乱しているクリスを無視して問いかける。そこで、澪乃がはっ、とした。



「ちょ、京ちゃん!」

「何だ」

「相手! 理事長だよ!?」

「そうだな」


 あまりにもフランク過ぎる態度に、自分の予想以上だったと澪乃はギョッ、としたがクリスは最早気にしてない。それこそ、俺がクリスに対して敬いや敬語なんかを使い始めたらひっくり返るとは思うが。


「あー、水柴、いいんだ」


 俺に対して頭が上がらないクリスの通常運転に澪乃は仰天しながらもため息をついた。

 挙げ句の果てには「……まあ、京ちゃんだし?」と変な納得の仕方をしていた。どういうことだ。


「んで、コイツ返すのか?」

「ああ」


 本来なら討伐して、貴重な素材を剥ぐところだが見れば幼体。幼体から取れる素材などごく僅かだ。希少種をそう簡単に絶滅なんてさせたくはない。


「分かった、開口(ソーアゥキ)!」


 空間の口が開く。そこに透視セールヴァナコゥイシィスでコイツの生息地に繋げる。


「ほら、帰れ」


 向こう側には沢山の仲間がいる。それが分かったのか、グリフォネアは「グェェ!」と鳴きながら空間に突っ込んだ。

 透視セールヴァナコゥイシィスを通り抜けて、向こう側に行ったのを確認したクリスは「閉口スルクミネン!」と空間の口を閉じる。


「これでひとまずは終わったなー」

「ああ」


 肩をバキバキと鳴らすクリス。澪乃はと言うと未だにキョトンとしていた。


「……理事長の『能力』、初めて見た」

「ん? だろうな」


 『能力』なんて、早々人前で晒さない。よって、澪乃は初めて見たんだろう。「順応型」の強大な『能力』の一端を。アレでも、一端に過ぎないのだ。


 ――――ガラッ! と教室のドアが開いて、生徒たちが戻ってくる。どの生徒も推奨しきった顔で戻ってきたのを見てクリスが首を傾げた。


「どうした?」

「……理事長!?」

「あー、まあ、それは置いておいてだな」


 教室の悲惨な状況には触れないのか。まあ、いいけど。


「Sクラスが妨害してきたんです!」

「そりゃ、私達が足手まといなのは分かってますけど!」


 ……何も言えない。SクラスがこのXクラスを嫌っているのなど分かりきったこと。実力社会の底辺に居る、それだけで蔑む理由ができる。ここはそういう世界なのだ、そういう汚ない世界なのだ。


「……またか……」

「アリアだろ、担任」

「まあ、そうなんだが……」


 俺、あの先生苦手なんだけどな。とか思ってたら本当におっそろしいことになった。廊下から近づく気配。しかも、それは。

 開けられたドアを見たくなくて、クリスに押し付けた。


「こんにちは、Xクラスの皆さん」


 緩いパーマをかけたピンクブラウンの長い髪に、真っ赤なルージュが目立つその女こそ……


「……アリア」


 ――――Sクラス担任の、アリア・ディエルヴァ・ハルジオン。

 

「少し、お話があるの」


 ニコリ、と笑った彼女にクラス全員が引き攣った顔をした。


久々の投稿となりました……

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