迷子の獣
3月中に更新するとか言ってできませんでした、すみません……
教室に着けば何故か教室が荒れている。何でだ。仕方なくこの現状を把握するために神経を研ぎ澄ませた結果……ああ、なんか居る。入り口から一番遠い所に何かが蠢いているのがすぐ分かった。何だあれ、また面倒ごとの類いだったらゴメンなんだけど。
足を進めて、それが居る位置まで行ってみるとそれは丸まって寝ていた。こう、くるんって。
「……マジかよ、おい……」
何でこんなとこにこんなのが居るの、いやマジで。何、嫌がらせか。偶然にしてはおかしくねぇか?いや、おかしいだろ。
「何で、こんなとこに魔獣の子供がいんだ……」
頭を抱えたくなったのは仕方ないということにしてくれ。普通、魔獣の子供は親から巣立ちするまで離れない。魔獣の子供はまだ完全な成体ではないし、力もなく弱い。親の庇護下の元でしか育たないからだ。少なくとも後半年程しないとこいつは巣立ちできないはず……なのに、何故こんなとこにいる? まさか、さっき仕留めた魔獣は子連れだったとか? いや、なら一緒についてくるはずで……何て思っているとゴソゴソと丸まっている黒が動いた。
「……。」
じぃっと俺のことを見てくるそれはよたよたと立ち上がると俺の足元に擦りついてくる。……俺は流石に魔獣の子供なんて世話できねぇぞ。とはいえ、どうするべきか……。クリス達に相談してもいいが、多分消されるのがオチだろう。魔獣は大人になれば人を襲う。たまに魔獣使いとやらもいるがそれはあくまでも適正にあった奴らだけだ。あいにく、俺にはそんな適性はないし持ち合わせていない。
「クゥン」
いや、そんな声で鳴かれても俺どうすればいいのか分かんねぇから。抱き上げようにも襲われたくはないからどうにもしようがない。掴んで外に投げ捨てるのが手っ取り早い気がする。
「……え、どうするべきなんだ?」
よく分からないが混乱し始めた。結局のところどうしたいんだろうか。この場で消す、という手もあるか。属性が闇だったら即消せるけど。
「キャンキャン!」
そんなに可愛く鳴かれてもどうにもなんないから。むしろ、どうするべきか悩むからもう吠えんな。足にじゃれついてくるコイツを足蹴にすればコロコロと転がる。丸まってる姿なんてただの黒いボールだ。
「キャンキャン!」
だから鳴くなよ、何主張してんのか分かんねぇから。そして足にじゃれつくな、何したいんだよ本当に。呆れて考えることを放棄しかけた俺はどうにもこうにもこの魔獣の子供を仕方なく一時的に保護することにした。あくまでも保護だ、飼うわけではない。クリスが来たら空間出してもらって放り込めばいいか、何て考えていた。
「にしても、人に懐くなんて聞いてねぇよ」
グリグリとコイツの頭を撫でる。手に擦り寄ってくる姿は見てて可愛いんだが、これが魔獣なんて考えたくもない。……普通のペットとして飼うことはまず無理だろうな……うん。
真っ黒い毛に埋もれた瞳がパチパチとする。毛でも入ったか? そんなに長かったら入るだろうけど。
「キャン!」
「……いや、俺お前どうしようもできないけど」
手を噛んでくる。でも痛くない。……あれか、甘噛みだな。仕方なく手にそいつを振る下げる。振ってみても意外と離れない。あー、手に穴空いてねぇかな、これ。
その時、不審な気配を感じてドアの方を見る。オイオイ、来るなよ。と思うのはいけないのか。何かが頬に向かって飛びかかってきたかと思えば後ろのガラスにぶつかる。
ガラスが飛び散り、俺に降りかかる。手に噛み付いていた魔獣の子供は居ない。……マジかよ。
「親か」
やっと来たか、これでこいつの処理に困らずに済む。あー、よかったよかった。なんて落ち着いてる場合じゃないのは知ってるけど。
黒い魔獣は子供を咥えて俺に威嚇してくる。見当違いだろ、それ。身体から放たれる黒は紛れもなく闇。お願いだから、さっさと帰ってくれねぇかな……?
「グルル……」
「何もしてねぇ、つか何で俺を威嚇すんだよ」
あー、でも見た目はアレか。保護っつーより誘拐に近かったのかもしんね。だから、あれだけ威嚇されたわけね、納得したわ。さて、どうやってこの魔獣の親子を返すかだな……
髪に振りかぶったガラスを払いながら、様子見。あっちがどう動くかでこっちもどうするか考えなきゃだしな。
姿勢を低くして完全に戦闘モードに入る親魔獣。誰か、早く来ねぇかな……
「ガァ!」
鋭い方向とともにこっちに突進してくる。仕方ない、やるしかない。手に淡い緑の光を纏わせ、薙ぎ払う。
「『風』」
風の風圧で魔獣の身体が高く舞うが、すぐに体勢を立て直して床に着地する。いっそのこと火で目眩しをした方が早いか。コイツを相手にするのは面倒くさい。しかし、相手にとってそんなことはどうでもいいらしい。
床を蹴ったかと思うとすぐさま俺に飛びかかってくる。ちっ、とことんやる気かよ。俺はその場から飛びのいて、距離をとる。下手に距離を縮めるとやられる。
こんなとこで『能力』を解放したくない。ため息をつきながら、もう一度手を薙ぐ。
「『風』」
先程より、威力は強めた。軽い突風に吹っ飛ばされた親魔獣は壁に叩きつけられてヨロヨロと立ち上がる。まだやるつもりかよ、コイツ。
子供は俺と親とを忙しなく交互に見ている。親は子供に対して「クゥン」と高い声で鳴くと俺に向かってまた突進してくる。
「……凝りねぇな、『光』」
闇と対になるそれは闇にとっての弱点なるもの。強い光が親魔獣の瞳を刺激したらしく「ギャン!」と吠えて床に転げまわる。そろそろ、終わらせないとな。あー、早くクリス来てくんねぇかな。この2匹をあの空間内に放り込みたいんだけど。それか、こっちで潰すか……
「……はぁ」
クリスがいつ来るかなんて分かるわけがない。なら、こっちで潰した方が早いな。そう思い、右手に別の色の光を宿す。そもそも、これは殆ど使わないんだけどな……加減難しいし。
「『滅素』」
2匹に向かって指を向け、鳴らす。すると、青紫の粒子が散って2匹を囲い込む。2匹は突然のことに暴れまわるが徐々に動きが鈍くなる。
『滅素』は仕組みが複雑すぎる複合物で、使う奴はそうそう居ない。代わりに威力は絶大。
『滅素』の構成式は未だ解明されていないが、使えないことはない。どういう物質なのやら。つーか、物資かどうかすらも分からないという始末。
『滅素』はその名の通り、物を滅ぼすものなのだが、この場合は消滅させている。2匹は『滅素』によって骨も塵もなく消えてしまっていた。
全てを滅するから簡単に事は終わる。それが唯一の利点というところだろう。荒れ果てた教室を見て、どうすることもできないと苦笑する。……まあ、誰かしらがどうにかするだろうし、いいか。
なんて思っていると、ドアの方から足音がする。あー、これクリスじゃねぇな。
「京!」
「……お疲れ様」
飛び込んできたのは澪乃。何でそんなに急いで駆け込んできてんだか。
「よかった! 無事!?」
「この姿を見て無事じゃないとか、目おかしいだろ」
思わず呆れた声を出した。つか、安否確認って……?
「酷いね! じゃないの!ココから避難しないと……」
「……は?」
オイオイ、まだあんのかよ。やめろよ、もう。出てくんな魔獣共。
「グリフォネアが……」
――――ガシャーン! とまたガラスの割れた音がする。いや、殆ど割れてたんだけどな。っつーことは……
「澪乃、頑張れ」
「うわぁ、このタイミングでぇ……?」
教室のガラスを蹴散らして降り立ったのは紛れもなく西のとある谷に生息するはずの魔獣……グリフォネアだった。