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だから普通に過ごさせろよ  作者: 呉葉 織
第Ⅰ章:底辺クラスの『落ちこぼれ』
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クリス


 目の前にクリスがいるにも関わらず俺は盛大なため息をついてやった。だってそうだろ? 俺、今無言だったろ? なのに強制? は、たまったもんじゃねぇ。

 多分、コイツが連れて行こうとしているのは理事長室だ。コイツ、一応この学園の理事長だったりするわけだからな。

 つか、手伝えって俺に何を手伝えっつーんだ。俺がやることなんてねぇだろ。『能力』申請をしていない俺ができることなんて限られてるし。そもそも、手伝う気なんぞ毛頭ないんだが。


「結界張り直すから手伝え」

「待て、俺はまだいいなんて言ってねぇぞ」


 だから勝手に話を進めんな、バカクリス。コイツは俺の『能力』を知らない……と、言ったら嘘になるか。

 その一端、末端ならば見せたことがある……というより事故で見られた、と言った方がが正しい。何の偶然だか知らないが、そのせいでクリスには散々『能力』申請を求められている。

 もちろん、応じるつもりはない。例え使うのが末端であったとしても、使う気にはなれない。別に俺自身と『能力』の相性が悪いとかじゃない。むしろ、類まれなくらいいい方だ。


 『能力』には二種類のタイプがある。

 一つは「順応型」と言われる後天性のタイプ。後天性と言うとおかしな気もするが、生まれてから後に『能力』を使えるようになったタイプのことを指す。

 もう一つは「適応型」と呼ばれる先天性のタイプ。これは生まれつき『能力』を有して生まれ、幼い頃から『能力』の一端を使えるような奴のことだ。

 ちなみに「順応型」は四大元素や非元素、物理的タイプのものが多いが、「適応型」はより強力な者が多い。

 例で挙げるならばクリスの『能力』だ。クリスの『能力』は「空間自在」。

 空間に干渉するのはもちろん、歪めることも呑み込むこともできる。ただし、攻撃型ではないところが珍しい。

 「適応型」の殆どは強大な攻撃型の『能力』が多い。それ故、かなりの訓練と経験量を積まなければその『能力』が暴走しだすことさえありうる。

 この学園はそのための自制機関と言ってもおかしくはないが生徒の殆どが「順応型」だ。

 「順応型」でも相性が良くなければ『能力』が暴走することだってあるが。『能力』との相性を一般的には適応と言う。適応さえ合っていればどうにかなることはなる。

 が、適応があってないにも関わらず『能力』を使用し続ければ『魔力』が失われていくことになる。

『能力』適正は使ってから分かるものであり、その場ですぐに分からないものだ。

 よって前者である「順応型」は二度『能力』を得られる可能性がある――――ごく一部だけではあるが。

 大抵は適性が会うことが多く不適正になることの方が少ない。

 一方、「適応型」は生まれつき……言い換えれば生まれたときからの付き合いであるがゆえその適性の相性はほぼバッチリと言えよう。その分、制御がしにくにのが難点である。

 

 俺が自身の『能力』と類稀なくらい相性がいいと言うのにはちゃんとした理由がある。まず、反動が少ない。

 「適応型」であるがゆえ、その反動はもとより少ない方ではあるが俺はその1/2程である。

 「適応型」でも反動を受ける奴はかなり強い反動を受ける。まあ……クリスは少ない方ではあるが。

それから制御がしやすい。

 これは多大な訓練と経験量が比例するのだが俺はそこまで経験量はない。と、言うよりも本来ならこの『能力』自体が制御しにくいものなのだが……ここは相性の問題なんだろう。

 ただし、俺がこの『能力』を人前で使うのが嫌なために使わない。もちろん、人が居ずとも使う気にはなれないが。


「いいから!」


「人の許可取らずに勝手にやろうとしてんじゃねぇよ」


 ため息をつくのは仕方ない……つか、この状況はフツーだよな、うん。そもそも、俺が居てもやることはない。絶対にない。この前もこんなこと言われた気がしたけど、あの時はどーやってバックれたっけかな。

 あー、やべ、記憶にねぇ。とりあえず、逃げる策を考える。近づいてくるもう一つの気配に気づかない……わけがない。頭の片隅でその策を考えながら、仕方ないと一言だけ呟いだ。


「『パロゥ』」


 ボッ! と空間に火が灯される。それに「うわっ!」と間の抜けた声を上げて俺の後ろで尻餅をついた奴を見てみれば案の定だ。クリスに似た容姿の……まあ、従兄弟だしそれなりには似てるんだろうが。こいつら、双子じゃね?ってくらい似てるんだよな。

 あくまでも容姿が、だ。性格は似てない、全く似てない。むしろ、こいつよりもクリスの方が10倍ヘタレだ。


「何したかったか聞いていいか、クライス」

「ぅ、京雅! 手加減しろよ! 手加減!」

「お前もそうだが、人をなんだと思ってやがる?」


 『能力』不明の「落ちこぼれ」、という不名誉(なのか分からん)な渾名あだなをいただいている俺だがただ単にそれなだけだ。

 たがしかし、コイツら2人……クリスとクライスに関しては別である。

 クライシスオーロ・ヴァルシオン。クリスの従兄弟であり、この学園の保健医だ。

 ちなみにコイツが保健医として動いていたところを俺はまともに見たことがない、とだけ言っておこう。ちなみにコイツは「適応型」……つまりは俺らと同じだ。


「何って……アレだろ? 『落ちこぼれ』?」

「一般的な見解をどーもな。なら、さっさと出て行け」


 頭が痛い、何でコイツら揃うんだよ……。つか、俺が「落ちこぼれ」なのは知ってるし言わなくて良いっつの。

 踵を返して理事長室を出ようとした時――――


「……『トゥーリ』」


 呟いた瞬間、風が吹き抜ける。髪が舞う。風によっておびき出されたのは体長130センチほどの獣。

言うなれば、豹のようにも見える。まあ、コイツを出させたのはいいが……

 どーすりゃいいんだ、コレ。忘れていたがクライスはクリスと同じく戦闘特化型じゃない。とはいえ、俺がやるのも面倒だしな……どーするかな。

 じっ、と俺を見据える獣は今にも飛びかからんばかりと待ち構えている。つーか、どっから出てきたんだよ。物陰か?なら、影を伝ってきた可能性が考えられるか……もしくは四大元素や非元素から形成されたヤツか。

 どちらにせよ、始末しないといけないことに越したことはない。


「グルルル……」


「……『パロゥ』、『ヴァロ』」


 パロゥヴァロを同時に唱え、強い光を放つ。何となくだ、こいつの体毛の色は黒いからもしかしたらピメウスかもしれない。

 ピメウスに有効的なヴァロを当ててみて反応を見る。「ギャン!」という声がしたから多分効いてはいるんだろう。


「クリス、空間開けろ」

「は?」

「コイツ、放り入れる」


 言ってからの行動は素早く。続いて指を鳴らして先程出したパロゥの出力を上げる。


「――――火弾パロゥローティ


 無数に飛び出した火の弾が獣に襲いかかる。獣はそれを避けながら部屋を駆け回る。

クリスはジッと獣を見て、どこに空間を開けるか吟味している。その時、獣がクリスに向かって飛びかかった。


「うぉわ!? 開口ソーアゥキ!!」


 予想外だったが、上手く空間を開いて獣を中に入れると「閉口スルクミネン!」と唱えて空間を閉じる。

 クリスの空間は長時間いると物体だろうと物質だろうと何だろうと溶かす修正があるらしく(昔誤って入れられた)ドロドロになる、跡形もなく。……ちなみにその時、俺は無理矢理空間に魔力をぶつけてこじ開けた。

 「適応型」は元より魔力は高めだ。まあ、それなりに無理をして後々クリスを容赦なくぶん殴ったのは別の話としよう。


「入ったかー?」

「空間内に入ったから入ってないかはお前が一番分かるだろ。入ったけどな」


 自身の『能力』故、それははっきりと分かる。消耗するならなおさらだ。クリスの空間内に入っとなれば大丈夫だろう。

 部屋を見回すと、先程追い回した獣が荒らした後がやけにくっきりと分かる。俺、そこまで追い回したっけか? いや、ヴァロが嫌で逃げ回ったあの獣が勝手にしでかしたことだ。


「クリス、学園内に魔物入ってくるって結界緩んでんじゃねぇの?」

「だよな、クライス張り直しに行くぞ」

「そこでオレもかよ……」


 従兄弟故に2人の『魔力』の質は似ている。結界のような膨大な『魔力』を使うようなのは1人でやろうにも限度がある。

『魔力』の質が近ければ、それなりに強度の強いものが張れるだろう。結界を張りに出て行き、俺しかいなくなった理事長室。何だか大変なことになった室内を放置して帰ろうか、やはり。

 そう思い、理事長室を出ようとドアに向かう。廊下に出て、今魔物討伐しているであろう生徒達はどうかなーとか1人呑気に考えながら教室に向かった。

 ……そこで、また面倒事が起こるとも知らずに。

 




受験の為、次の更新は3月を予定しております。

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