底辺クラス『Xクラス』
一部設定を再編しています。
ザワザワと騒がしい廊下。当たり前か。まあ、その見当はつくからいいけど。とは言え、この学園は変に野次馬が多いよな、俺にとっては関係ないけど。
一番上のクラスであるSクラスは俺ら底辺クラスである『Xクラス』を嫌う。当たり前の原理ではあるけど、上位強者が下位弱者を嫌うのは当然の摂理なんだと思う。所謂偏見差別みたいなものだ。くっだらないけど。
この学園では『魔力』が絶対重視だ。だから、底辺クラスは完全な下位としてみなされる。これだから、こういう社会は好きになれない。強者であろうと弱者であろうとこの狭い「学園」に所属している以上は協力するのが当然なんじゃないのか。
そんなことを思っているのは俺だけか? とか、考えることもあるが他人のことなんて考えても自分の利益には全くならないと気づいたのはつい先日の話である。
「きょーちゃん!」
「お前も、無闇矢鱈に喧嘩を買うな」
「だって、きょーちゃん危なかったし」
「いつものことだろ」
事も無げに言うコイツ、四季場・フォレクス・観都。『能力』は四大元素の一つ『風』だ。
しかも、コイツはその四大元素の高位精霊と契約している。かなりのものだとは思うけどな。確かに純粋に『魔力』は高いし、本来なら……つか、元々Sクラスにいたコイツ。
何故『底辺クラス』に居るかと言うと、幼馴染とクラスが離れるのが嫌だったとか。そんなくだらない理由でXクラスに居る「天才問題児」である。
ちなみに『底辺クラス』であるXクラスには他にも観都と同じように四大元素の高位精霊と契約している奴が3人いる。
観都とその3人は幼馴染であり、何故Sクラスから降りてきたのかが不思議で……なくもない。性格面で見てみれば何の問題もない、Xクラスの奴だ。
つか、性格面で(観都を除く)Sクラスから落とされたんじゃないのかと常々思う。何の違和感も感じなかった俺は何なんだろうな、本当。内心、ため息をつきながら教室の方に足を進める。
「今日の授業何かなー?」
「……さぁな」
「また基礎授業とか?僕嫌だなー」
「だろうな」
基礎授業とは四大元素の使用法の授業だ。元より四大元素の高位精霊と契約している観都にとってはかなり退屈な授業に違いない。
四大元素の高位精霊との契約なんて早々に出来るものではないが、『魔力』の高さなんかも比例してるからだろう。
ちなみに四大元素は『風』『水』『火』『土』。
簡単に名称を紡ぐだけで四大元素は行使できるし、複数の四大元素を組み合わせることでできるものもあるがそれは上級者向けである。
慣れれば早いのだが、それによる『魔力』の現象は並大抵のものではない。ただし、観都達は別である。
何度も言うが四大元素の高位精霊との契約でその辺りを使うのは赤子の腕を捻ることよりも容易い。
「第一、きょーちゃんだって退屈じゃないのー?」
「いや、別に」
「ふーん?」
不本意ながら、俺は『能力』を誰にもバラしていない。理由は面倒だから。いや、だって知られたところで前線に出されたりするし。何だったら、『能力』が発現していても教えないほうが妥当だろう。
それに、基礎授業は嫌いじゃない。特に可もなく不可もないし、それなりに……まあ、上級は使えないとしてもそれなりに使えたらいいと言うのが俺の考えだ。
「きょーちゃん、器用だもんねぇ」
「……。」
「どの四大元素だって、簡単に使いこなせるんだもん」
「……気のせいだろ」
「そーかなぁ?」
別に四大元素が難しい、というわけではない。確かに使いにくいところは多々あるということは否定しない。けど、それだけ。単に欠点はそれだけだ。要はあとは使いこなせたらこちらのものだ。
……それなのに、固定的観念を強いると「難しい」という観念にとらわれてしまう。そんなに難しく考えなくてもいいのにな。
「きょーちゃん?」
「サボるのか?」
「さぼんないよー? 僕優等生だから!」
ああ、そうかよ。で流しておく。まあ、元々Sクラスレベルの奴なんだからそうなんだろうな。あえて突っ込む気はないけど。クラスのドアの前で立ち止まる。隣で観都が「きょーちゃん?」と声をかけてくるが今はそれどころじゃない。この場において、逃げたい。
「……来た」
このまま、教室に入れば良かったとどれだけ後悔したか。すぐさま、廊下に警報が鳴り響く。けたたましく、耳に響く。耳が痛い、俺には関係ないに等しいが、仕方のないことだ。目の前のドアが開いて、飛び出してきたのは女。
「あー! 何で京ここに!?」
「観都も!」
「観都、出るぞ」
俺に突っかかってきたのは水柴・カーリル・澪乃。コイツは四大元素の一つ『水』の高位精霊と契約している。つまりは観都と同じだ。
観都を急かしたのは同じく四大元素の一つ『土』の高位精霊と契約している穂宮・ルーフィクス・瀬奈と『火』の高位精霊と契約している珀堂・リヴェイヤ・柊葉。
この4人は幼馴染らしく、仲がいい上に本来ならその実力はSクラス並だ。なのに何でこんな『落ちこぼれ』クラスに居るのか、甚だ不思議で仕方がない。……何してこんなとこにいるのやら。
「京、お前は出るなよ」
「そうそう!」
「まず、京は動かないと思うけどね」
……口々にどーも。そりゃ、『能力』申請なんてしてないであろう俺が前線に出たらとっととやられるに決まってる。つか、在学中は絶対に申請しないって決めてるし。『能力』は申請しないと使えない。
俺を除く在学生全員が『能力』を申請しているがそんなに必要なものなのだろうか。まあ、確かにこの世界は『能力』重視に面してはいるとは思うけど。
「誰が動くか」
『能力』申請もしてないただの「落ちこぼれ」である俺が出るわけがない。そもそも出たところで何になる、っつー話だ。
まだ警報が鳴り響く。この警報は街に『魔獣』と呼ばれる人に害を及ぼすモノが現れた時。
『魔獣』は見た目、動物型の精霊や動物に似ているが内包する『魔力量』が違う。動物でも僅かながらに『魔力』を保有する者もいるし、動物型の精霊が有する『魔力』は契約者の『魔力量』に相当する。
自分より『魔力量』が多い者とは契約は結ぶことはない。
しかし、『魔獣』と呼ばれし彼らは俺らが『能力』を発言する前から存在しており、その祖先はかつてこの大陸に存在したと言われし四大魔獣が生み出したとされている。
四大魔獣、すなわちこの大陸には森がいくつか存在するがそのうちの東西南北に存在する四つの森には『守護獣』と呼ばれた魔獣が居り、そこにかつて居たとされる魔獣を指す。また、他の大きな森でも『諸語魔獣』が幾つか居ると言われている。
『守護獣』は完全に特別な能力を持った特別な存在であり、かつ守護している森に恵みをもたらす。
『守護魔獣』は森に恵みをもたらすが、それだけだ。何の能力も持ってない、自らの意志で森を守護する魔獣だ。こういう魔獣は中々居ない。
『守護獣』なる彼らは現在居ないが、それは彼らから消えてしまったのか殺されたのか、はたまた気まぐれに契約したのかすらも不明だ。
観都達の気配が遠ざかり、避難のために教室に入る。流石に居ないか。まあ、「落ちこぼれ」クラスと言えど『能力』持ちであることには変わりないし、前線――――街に出されるのは仕方ない。
「……はぁ」
最近はよく『魔獣』が発生する。その理由はわからない。まあ、俺の場合は分かろうとも思わないが。面倒だし。ぼんやりと窓側の自分の席に座って外を眺める。あー、この距離から見たら人が小さく見える。当たり前か、ここ4階だし。
「落ちこぼれ」クラスの『Xクラス』は本棟に存在しない。別棟にわざわざある。ご丁寧なことだ。ここからは『魔獣』の影は見えない。『魔力』は感じるが、それだけ。
だから…………
「そこにいるのは分かってんだ、出てきやがれ」
「……なんでバレるんだ……」
「そんなに『魔力』を垂れ流してたら嫌でもわかるぞバカ理事長」
ドアの方を向いて声をかければ、そこから出てきたのは金髪の男。背は俺よりも高くその表情には疲れが見えないこともない。
この学園の理事長であるクリスチアーノルド・ヴァルシオ。俺は勝手に名前を省略してクリスと呼んでいる。
「言っただろう、『魔力』が垂れ流しだと分かると」
「これでも制御してんだぞ……お前はめっきりだな」
「ああ」
……で、こんな話をしてる場合じゃないことは確かだ。どうせ、何か用があるんだろう……俺に。
「で、何の用だよ」
「言わなきゃ分からないほどお前はバカじゃないだろ」
「……。」
生憎知ってるけど、聞きたくないからこう言ったんだけど。
「手伝え、京」
……ああ、やっぱり。