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だから普通に過ごさせろよ  作者: 呉葉 織
第Ⅱ章:進級試験
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その真意は、分からない

 ――俺がずっと、自身の能力を学園に申請してない理由の一つとして未だに制御が上手くいかないからという点がある。選定者であり、先天的に秘められた能力の大きさは計り知れない上に順応型である後天的に能力を得た者達がどれだけ頑張っても届かない領域に達している者が殆どだ。国を治める王も実は選定者であることなどごく一部の人間しか知り得ない話しであるしましてや、その先天的の力を持つ能力者の中で断トツに強い力を持っているのが終焉の塔のトップであり能力協定会の重鎮の一人である第一席であることなど誰が知ろうものか。確かに、終焉の塔の第一席である黒と呼ばれる人物が桁外れに膨大な能力を持っていることは誰でも知っているし彼の人物が成し得ている功績は知られている。しかし、その実力は第二席の方が上と言われている。

 何故、そんなことを俺が知っているのか。答えは簡単なことだ……この目で、その実力の恐ろしさを焼き付けているからだ。慈悲も躊躇いもない圧倒的なその能力の前に屈するしかない。そう、純粋に思うほどにあの能力は危険だ。まだ幼いあの時に、あの感情のない瞳と暴虐と呼ぶにふさわしいその能力の前で思わざるを得なかったのだ。


「……。」


 少なからず、それと同等の能力を持ってるに近しい俺はその制御が上手くはない。あのトップは涼しい顔をして使っていたが今思えばそれは最早天才の所業だろう。極一握りしかその域に達することはできない。心の奥底で渦巻く昔からある(・・)感情に舌打ちを打ちつつ校舎裏から消失に向かう。授業は当の前に始まっているが訳あって欠席している。と、いうのも件の石に精霊そのものが閉じ込められていたあの事件以来、観都達も必死に押さえてはいるがいつ四大精霊の王が暴れ出すか分からないからである。魔力感知ができたとしても彼らは今それが精密かどうかは不明なところだ。よって、能力が使えないだけの俺が調査する羽目になった。魔力感知には能力は必要ないからな。だが……


「妙な気配でしかない」


 石に精霊を込めたのは一人。精霊を石に込めるには精霊自身に石に入って貰うか、閉じ込めるかのどちらかである。ちなみに今回は後者だった。石に閉じ込めるには自分の創り出した魔力石に閉じ込めるしかないが今回は特殊すぎた。石は魔力石ではあるものの複数の魔力が帯びている。どうやら好みの魔力に惹かれた精霊が捕縛の術にかかって閉じ込められたらしい。捕縛者は一人なのに何故複数の魔力を石が帯びているのか。理由としては精霊が捕縛される前に何も知らなかった複数人が触れたか、もしくは複数人の魔力をバレない範囲で奪っていたか……後者の場合、相当魔力の扱いに長けている。だとしたら、特定するのが面倒だ。


「京ちゃん」

「来たか」


 観都と柊葉が俺と一緒に石の制作者を探す係、澪と瀬奈が石の種類と解析をする係だ。魔力石には種類があるが、今回精霊が閉じ込められた石は鉱石に自らの魔力を込めたタイプの石だったようだ。そうなると、自分の魔力から石を創り出すほどの魔力量はない。


「どう?」

「俺も魔力を知って居る人数が限られてるから、そう簡単には見つからないだろうな」


 しかも複数人。石の魔力の持ち主が判明するにも時間がかかる。全く、面倒なことをしてくれた。鉱石に込められる魔力量はそこまで多いものではない。が、分からないことはない――そこに感知阻害の術さえかけていなければ、だが。


「つか、お前ら来ない方がよかったぞ」

「それは分かるけど、京ちゃんだけに任せるのは気が引けるよ」

「今にも暴れ出しそうな精霊王の契約主の側に居るのは堪える、正直」


 殺気立った精霊の近くなど、いたくもない。そんな事も分からないのは、彼らがいかに恵まれてきてかが窺い知れる。精霊とて生き物なのだ。その感情が分かっているはずなのに。抑えてるから大丈夫だよ~、とかバカを言う観都に内心で頭を抱えた。


「ったく……、?」


 石に中に感知した、小さな違和感。それは一介の学園生徒が持つものではない強い魔力。以前、どこかで感知したことがある気がするがどこだったろうか。確信したのは、この魔力は学園の生徒のものではないということだ。ここまで強いとなると選定者レベルの、もしくはそれ以上の存在。そこに現在該当するのは組織(オーガニサーティオ)の人達かあるいは色術会の人達か。が、そんな世に出れば声もウザったしいと思うような奇特な人達が人目の多い学園に来るか……否でしかない。


「どうする?」

「誰の魔力か判定できるまでは不用意に動かない方がいいだろうな」


 まあ、この高位の魔力を感知した限りでは誰の魔力か分かっても動かない方が得策な気がするが。下手に動いて、また厄介ごとなど起こされたらたまったもんじゃない。しかし、これは悪戯ではなく意図的にやったものだと考える方がいいだろう。この手に関しては古い知り合いが得意なのだが、どうにも会う気にだけはならない。


「とにかく、暫くは動くな」

「えー」

「観都」


 何かしらの情報が手に入るまでは、動かない方が得策だ。俺は俺で、この一番高位の魔力の持ち主が誰だか判明させなければならない。そう思うと、やはり厄介ごとではある。学園内では収まりきらない、だからこその懸念でもある。


「分かったよ」

「柊、頼んだ」

「ああ」


 柊哉に観都を任せ、教室と反対側に向かう。後ろからどこ行くの? という声がしたが無視する。アイツらがついてこないように目くらましの術をかけておく。元素を上手く組み立てればこの技はそう難しくはない。


「……。」

「やっぱり、いたか」

「京、どうかしたの」


 足を向けた先は中庭、しかしそこは中庭とは似て異なる空間内。目の前の人物は俺の名を呟いたと共に展開した結界の中。純粋な力量のみで展開された結界は外界からは映らない。そういう状況に展開した目の前の人物は――藍色・・のフードを被っていた。


「調べて欲しいことがある」

「人に物を頼む態度じゃないな、それは」

「……これを、調べて欲しい」


 自分の態度が横柄なのは分かっている。だからといって、旧知のしかも互いの能力をも理解している相手に頭を下げすぎるのも嫌だ。藍色・・のローブの人物は、彼女は俺の差し出した石を一瞥すると溜息をついた。


「随分厄介ごとに首を突っ込んだね」

「そうだな」

「京はもう、面倒ごとに関わらないはずだったでしょ」


 私との約束、破ったの? そう言う相手にそうではないと言いたかった。学園に入学する前、この人物と自分の能力をバラし俺が不利な立場にならないように「面倒ごと」には首を決して突っ込まないと約束したのだ。


「俺は巻き込まれた方だ」

「そうであってもこの状況じゃその忌み嫌う能力を解放せざるを得ないよ」


 弁解は効かない上に、もっと最悪な状況になるらしい。本気で辞めて欲しいのだが。そもそも俺は巻き込まれたのに何故こうも言われなきゃならないんだ。それが顔にありありと出ていたのかまた溜息をついたその人は石から僅かに感じ取った魔力に動きを止めた。俺が感じた魔力とまた別の魔力を感じたのだろうか。


「……京、何があってこの石を持っているの?」

「昨日、精霊を閉じ込めたその石が結界を発動した」

「うん、それで?」

「閉じ込められたのは俺を含む五人――そのうち四人は四大精霊の王と契約を結んでいる」

「……全くもって、意図が読めない」


 ポツリとそう零す。石を静かに見つめる瞳は冷たいのかそれとも睨んでいるのか。意図が読めないと言った、この人は狙いは観都達ではないと言いたいのだろうか。


「何かを確認するために、無作為に誰かを狙った……そう考える方がいい」

「特定した誰かでは、なく?」

「そうだね」


 何かを確認するのに、無作為に狙う必要があるのだろうか。その何か(・・)は特定の者だけが持っているわけでないのか。


「京、気をつけて」


 これ以上、面倒ごとを起こしたくなかったら。そう言ったその人はあっけなくその石を割り――放出した魔力を何かに変換したのまでは分かったが、それ以上は分からない。


「これは私の方で調べる、それまでは何もしないように」


 そう言うと結界を解き、さっさといなくなってしまう。これ以上、か。内心で舌打ちを打ち、俺もその場から踵を還す。これ以上の面倒ごとなど、ゴメンだ。



次回の更新は未定です。お読みいただきありがとうございました。

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