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だから普通に過ごさせろよ  作者: 呉葉 織
第Ⅱ章:進級試験
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思惑と困惑


 Sクラス担任のアリア・マーセルは苛立っていた。何故、学園長とも言う人があんな底辺クラスの、ただの子共に目をかけているのか。

 アリアは優秀だ。それもそのはず、父親は『天文』の幹部で、母親は『睡蓮』に所属している治癒師だ。アリア自身は父親寄りの攻撃系の能力持ちである。

 父はかつて、『天文』のトップの補佐についていたという。現在、その『天文』のトップは行方知れずだ。数年前にフラリ、と姿を消して以来『天文』に戻ってきていない。

 また、母は『睡蓮』のトップの弟子であったという。そんな親を持つ自分は優秀でなくてはならない。そう思ったからこそ、彼女は自分を甘やかさなかった。

 アリアの持つ能力は『重圧パイノヴォイマ』だ。重力を操る能力で、『天文』向けの能力である。しかし、彼女は『天文』に入らず、学園の教師を選んだ。

 各組織(オーガニサーティオ)に入る魔力量が足りてなかったのだ。一番低い『天文』ですら魔力量が2万4000は要るがアリアの魔力量は1万7000。組織に身を置くというのは、いつ何かあった時に駆り出されてもいいように魔力の多い人間が所属している。

 聞いた話によると『能力最高委員会』のトップである黒の魔力量は10万に近いという。しかも、歴代でずば抜けて高く、その魔力量は完全に化物である。魔物を滑るという魔王ですら魔力量は5万と聞くがその2倍だ。


「暁・レヴィル・京雅……」


学園長であるクリスが目をかける少年は底辺クラスの中でも異質さを誇っている。彼は『能力』がまだ分からないというのだ。少なくとも、学園に入る手前――初等部は8歳から――には未熟で能力自体は扱えないもののその種類くらいは判明している。なのに、彼は高等部2年にもなって能力が分からないという。

 ごくたまに能力『なし』の人間が存在するが、彼らは『能力最高委員会』の庇護下の元で暮らしていると聞く。彼もそうなのだろうか。しかし、四大元素は扱える。

 能力『なし』の人間は四大元素も操れないらしいから、きっと違うのだろう。まだ適性が合ってないのか、それともその能力を知られたくないから意図的に隠しているのか。どちらにせよ、あの少年の存在というのは意異質なのだ。

 そもそも、能力が分からないというのにどうやって学園に入ったというのか。そこからして疑問なのだ。だから、彼の正体を突き止めるべく進級試験の実技試験をふっかけた。進級試験の実技は教師に向かって能力を当てるわけではない。他クラス対抗戦、そんなところだ。

 よって、落ちこぼれ(・・・・・)組であるXクラスはその実力が試験基準に届かないとして実技試験を免除されていた。……が、今年はどうだろうか?

 Xクラスには彼を除くと異質な存在が後4人も存在している。元はアリアのクラスに入る予定であった生徒であり、彼らは四大元素の王と契約している。

 四大元素自体は固定の能力ではないため、誰でも使えるのだがその王と契約しているとなると話が違うのだ。王、とつくからには持っている力が大きい。

 しかし、彼らはその能力をすでに操れるようになっているらしく、なのに底辺クラスに行ってしまったというよく分からない子達だ。

 アリアの元でならば、最高の教育が受けられるというのに。底辺クラスに、最高ランクの子達がいるなどただの宝の持ち腐れでしかない。


「ああっ、もう本当にむかつくわ!」


 自分を見事なくらいに舐めきっているその態度も、アリアのことを見透かしているようなその発言も。全て全てがむかついてならない。苛立たし気に吐かれた溜息を誰にも聞かれなくて心底よかったと思った。苛だ立ちすぎて思考がおかしくなりそうだ。

 たった1人の生徒が、自分をかき乱す。得体の知れない恐怖がアリアを無意識に襲っている。そう思うとますます苛立ちがまして仕方なかった。

 通り過ぎたとある教室の前の壁に大穴が空くほど、彼女は能力を制御し切れていなかったのだった。


*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*


 カチャン、と勝手にドアが開く。幾多の書類と手書きの円陣が書かれて、その文字が何なのか分からないくらいに黒くなっている紙を床にばらまいている部屋の主は黒だった。

 黒いローブを目深に被って、机に向かってなにやら書き記している。彼が行っているのは、かつて主として使われていたものの時代と共に廃れ消え去った彼が主として使う能力の1つの解析書である。とはいえ、最早何が書かれているかなど黒にしか分からなくなってしまっている。


「……黒さん、片付けしてくださいって言いましたよね?」

「……。」

「黒さーん?」

「この語の意味は氷属性か……なら……」

「く、ろ、さ、ん!」


 耳に届く大きな声。フードの下で顔を盛大にしかめているであろう黒は小さな舌打ちと共に振り返る。そこにいたのは何の特徴も無い男。


「舌打ち聞こえてましたから」

「そうか」

「で、その怖い顔やめてくれませんかね? 研究の邪魔をしたのは謝りますから」

「そうか、なら出て行け」

「……報告に来たのに、追い返すって酷くないですかね?」


 呆れた様子の男はこの状況に慣れきっているらしい。黒がないも言わないのをいいことに、勝手に報告を始めてしまうくらいには。


「ラバルなんですけど」

「……。」

「あちらさん、殺り合う気満々みたいですよ」

「そうか」

「……いったん、研究中止してくれませんかね?」


 話が進まないためにそう持ちかけると盛大にため息をつかれた。まるで、邪魔をするなと言うかのように。しかし、これもいつものことであると状況慣れしている男は気にせず続ける。


「あちらさんの、特に第一王女様が戦闘態勢ばっちりみたいですよー。スゴいですよね-」

「……。」

「黒さんに目をつけてるみたいですよ? さっすがご皇女様お目が高いですね」

「物好きだな」

「……あなたに誰も言われたくはないでしょうよ」


 そんな呆れた声を無視して研究に没頭しようとする黒に男はもう1つの報告を告げる。その報告に、黒が手を止めた。


「それから、『ストアラ』の森の守護聖獣の気配が現在完全に消えてます」

「……トアの?」


 少し前に、邪気を駆除するついでに見つけたまだ幼い森の守護聖獣は現在、黒の支配下にある。黒と「契約」した神虎たる守護聖獣は森から出られないはずだ。


「ええ、少なくとも俺の『魔力感知』の範囲にはいませんでした」

「森全域を感知できるお前が感知できなかったということはいないも同然か……現在の居場所は」

「学園、ですね」


 その場所に、黒はため息をついた。何故そんなところに。まだ幼く好奇心旺盛だからといって森からかなり離れている学園にまで足を運ばせたのいうのか。完全に教育し直しなのかもしれない。


「ああ、けれどなにやら歪な契約を強制的に結ばされているみたいです」

「……契約?」


 自分の「契約」の上から無理矢理結んだというのか。それは不可能なはずだ。何故なら、強い魔力の上からの書き換えはそれ以上の魔力を必要とするからである。

 現状、大陸トップの魔力量を誇る黒に勝てる者など存在しない。何かあったとしか。

 「契約」に使用した首輪が外れたのが一番推測しやすいが、あれはそんな簡単に外れないはずだ。あの神虎は何をしたのか、全くもって想像ができない。


「連れ戻しますか? ……まあ、するのは黒さんなんですけど」

「お前が行ったら確実に瞬殺だもんな」

「ええ、そうですよ。何せ、俺は非力ですから」


 胸を張っていうことではない。この世界で自分を守る術を持たないのは致命的である。が、この男は黒の庇護下に運良く入れた。その点で言えば彼は幸運なのかもしれない。彼にこき使われるという点を除けば、ではあるが。


「どうしますか?」

「……放っておけ」


 このくらいのことでどうにかなるくらいならば、また新しい守護聖獣候補を見つければいい。そんな考えが分かったのか、男はそうですか、としか言わなかった。

 これで話は仕舞いだ、とばかりに黒はまた研究に戻ってしまう。男は部屋の惨状にため息をつきながら部屋を後にした。

 片付けてくださいね! というその声は研究に没頭してしまっているであろう黒に届いてはいないが。


次回の更新は未定です。

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