Prologue
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読んでいる方々にはご迷惑をおかけいたします。
ザワリ、と暗き森が風によって蠢めく。空は混沌とした黒色で辺りを見回すのは難しいくらいに暗い。
森故光はなく、ただただそこに蠢めく者たちが何かを警戒するかのようにひっそりと息を殺していた。雲に隠れた月が顔を出し、辺り一面に柔らかい光が降り注ぐ。
クルフィレール大陸に幾つか存在する森のうち、南に存在する「ストアラ」の森の中枢部に一匹の薄い碧を纏い、黄金の毛を輝かせ、月を見上げる虎のような動物が居る。
中枢部入り口からの足音にピクリ、と耳を震わして反応したその虎はそちらをじっと見つめた。
「……。」
現れた濃い色のローブの人物。虎はその人物に警戒心なく近寄り、すり寄った。その人物は虎の頭を撫で、ローブの内側からとある物を出す。それを見て虎は動じず、ローブの人物を見上げた。
ローブの人物が持つそれは濃紺のリボンに鈴のついた首輪のようなもの。リン、と音がした。虎はピクリ、と耳を動かして頭を突き出してきた。ローブの人物は無言でその首輪を虎に付け、頭を撫でる。甘えるように擦り寄る虎は尾を揺らす。
「トア」
ローブの人物がその名を呼べばピタリ、と尾を振るのをやめた虎はクルリと踵を返して森の奥へとリン、と鈴を鳴らして消えていった。ザワリ、と風が吹きローブがはためく。ローブの人物は中枢部から出るため虎の消えた方向とは反対方に向かって歩き出した。森の中枢部は神聖なる場所と言われ、ここではどんな『能力』も通用しない。中枢部さえ出てしまえば、使えないことはない。中枢部の入り口から足を踏み出し、前に進む。
瞬間、禍々しい程の夥しい気配がローブの人物の背後に集い、襲いかかる。
「――――……。」
足を前に出し、微かに振り返る。深く被ったローブのフードから覗く、口は動いてない。
ザシュ、と鋭い音がしたかと思えばボトボトボト、と落ちる残骸。切り刻まれたそれは、「魔物」と呼ばれる者たち。その身体から溢れた赤黒い液体が地を濡らし、穢した。
「『Puhdistus』」
滑らかな発音と共に穢れた地に降り注ぐ淡き水色の光。それは穢れを浄化する『Sielu』と呼ばれるつづりで『能力』者ならば誰でも使える基礎的なもの。
『Sielu』は『能力』者ならば簡単に使えなければならないものなのだ。浄化し終わった地は、まだ淡く輝いている。
それを一瞥して、低く冷たい声で、誰に聞こえることなく言葉が落ちた。
「……邪魔は、させない」
ローブの人物は月を見上げて、その場から去った。
――――これは、とある計画の序章に過ぎないお話。