White Shaman
◆ White Shaman ◆
朧に夢を見る――遠い遠い夢を
誰かが泣いている 小さい子供が泣いている 辺りは赤々と――
懐かしい香りと 絶望的なまでの孤独
小さな女の子が泣いている 辺り一面には真紅の肉塊――
薄っすらと・・・目が開いた
見慣れないベットの上で私は目を覚ました 遠くで佳純の声が聞こえて
すぐ傍で梢の寝息が聞こえた ガバっと身体を起こす 外は薄暗い
時間は夜の7時過ぎだった 勢いよく起きてしまったのでベットに寄りかかっていた梢が起きてしまった
「うな・・・おはようございます晶さん 私はもう少しうたた寝を・・・・・」
などと言ってベットに潜り込んでしまった 私はそのまま部屋の周りを見渡して
ソファーに腰掛けた っ・・・・左手が麻痺していた感覚が完全にボケている 痛みだけは感じ取れた
まいったな・・・・これじゃロクに仕事に出れない どうしたものか
「あら 起きたの晶 まだ寝てていいわよ」
そう言いながら佳純が部屋に来た こちらは明日からの仕事をどうするのか思案中だと言うのに
「ん・・・ありがと それと ごめん」
私は あの後気を失ったらしく 今目覚めるまでの記憶が無い 全くもって失態である
変な獣に襲われて 梢を庇って怪我をした訳なのだが その後に貧血で倒れてしまったらしい
その獣は猟銃で処理され 私達はこうして無事なのだ 約一名を除いて
「派手にやられたわね 一応手当てはしておいたから しばらくは動かさないでね」
心配はしているようだが佳純は やけにご機嫌のようだった
「うん 動かしたくても感覚麻痺してるし 痛いから動かさないようにする」
うんうんと頷く佳純の手には 三人分の紅茶がのったトレーを持っていた
「あっ勝手に服着替えさせてもらったわよ 服どうする? 一応洗うようにはさせるけど」
そう言われて気が付いた 佳純の部屋着だろうか 私はこのまま寝れそうなラフな格好をしていた
「・・・・それはいいんだけど・・さ」
とある異変に気が付いた 予想はできたが気まずいので一応告げておくことにした
「なに? あっその服なら汚しても良いわよ まだ完全に血は止まってないでしょうし」
紅茶を優雅に飲みながら 佳純はそんな事を言っていたが そうではなくて・・・
「あの・・・さ 良かったらブラ貸してくれないかな・・・」
ブラも血で塗れていたのだろう そんなものを着けっぱなすわけにはいかない
ソレは分かるのだが なにぶん人様の家である 落ち着かない事この上ない。
「あのねぇ アンタのサイズのブラがウチにあると思って?」
・・・・なにやら 地雷を踏んでしまったか 悪気は一ミクロンも無いのだが
「あ・・・その ごめん 我慢する」
私は自分が倒れてしまったという事と ココまで運んで看病してもらったという事に
かなり恐縮している 加えてちゃんと着替えまでさせられているのだ 文句の付け所が無い
「あははは・・・・ヒィ・・・・おっおなか・・・いた・・・痛い・・ あははは・・・・」
佳純がお腹抱えて笑っている・・・なんか悔しい 私は無駄に気を使って勝手に赤面していた
「はい どうぞ」なんて言って私のブラを投げかけてきた 血は・・・付いていない
「かっ佳純っ!! なんで汚れてないブラまで外すワケよ――」
やられた 完全にやられた 佳純は計算ずくでやっていたらしい それで笑い者にされていた
「ははは・・・だって寝るのにブラしてちゃキツいでしょ だから外してあげたのよ」
なんて 胡散臭い理由を並べている 相変わらずいたずら好きなところは昔のままである
「はぁ楽しかった。さてと晶 悪いのだけどしばらくはココに住んでね」
・・・・・・・? なにか恐ろしいことを口走っている なにか血の気が引くような事を
「お仕事だったら 私から連絡しておいたから あー一応交通事故って事にしてあるわ
そんな腕じゃお仕事できないでしょ それに一人暮らしなんだから片手じゃ大変でしょうし
私も今はこの別荘の方に住んでるから・・・と 使用人達はしばらくは屋敷だけにしておくから
こっちには必要な時だけ呼ぶわ それなら晶も気兼ね無いでしょ?」
佳純は淡々と それでもマシンガンのようにそう言い切った 前途多難である。
「嫌だとか駄目だとか そんな事を言っても変わらないでしょ アンタの決定は・・・・
今回は甘えておくよ でも必要最低限の荷物取りに行かせてよ まだ7時過ぎだし
行って帰ってきても9時までには戻れるし ソレぐらいは良いでしょ?」
私は完全に観念した もとよりコノ腕では仕事はできない
加えて たまには佳純の我が侭に付き合うのも悪くは無いと思った 一度言い出したら聞かないしね。
「晶さんは お泊りですか・・・・・・ 私も泊まっちゃいましょうかね」
梢が起きて早々にそう言った いや 言いながら紅茶と洋菓子をつまんでいた
そんなこんなで 私達は何年ぶりかに3人で同じ屋根の下で眠る事になった訳だが
私が荷物を取りに行こうとすると 使用人の方達がやってきて 車で送迎されてしまう始末
その横で 子供のように「卒業旅行以来じゃないですかね」なんて楽しそうに梢が言っていた
あくまでいつもどおりに明るく振舞っていた梢が ポツリと下を向いたまま 小声で一度だけ
「ごめんなさい 私を庇ったせいで怪我・・・させてしまって・・・」
と 本当に申し訳なさそうに 唇をかんでいた
私は何も言わずに ただ笑顔で梢の頭を撫でていた。
その夜は遅くまで 思い出話をしていたり トランプに興じていたりと さながら旅行に来た感じだった。
しばらくして二人は仲良く お風呂に行ったので 私は職場に一応電話を入れておこうと携帯を取った
ん・・・「不在着信:一件 櫻井 美咲」とあった 留守番電話が録音されているらしいので
先に職場に電話をする事にした どうしようもなく気まずい
「あっお疲れ様です 神埼です」
とりあえず 普段どうりの電話対応をされる前に そう言った
「あっ神崎さんお疲れ様です ちょっと待ってください代行に代わりますね」
バイトの女の子だった まだ私の「事故」の事は知らないのだろう すぐに代行に繋いでくれた
「おー神崎 事故ったって 大丈夫か? 左腕やったって聞いてるけど全治二ヶ月とは
また 派手にやったな こっちは有給も消化しておくから12月には帰ってきてくれよ」
なにやら全治二ヶ月の怪我らしい 代行は心配こそしていたが普段どおりに話してくれた
「はい すみません しばらくお休みいただきます」
ボロが出ては困るので それだけ言って電話を切った 少し後ろめたい気はするが
年内有給が二ヶ月近く溜まっていたので 自分自身それで割り切った
「ふぅー いいお湯でした 大きなお風呂って良いですねー」
なんて言いながら梢が帰ってきた 佳純は自分の部屋に戻ったらしい
始めは一人一部屋用意すると言っていたのだが 梢が
「晶さんと同じ部屋で良いですよ せっかくのお泊りなんですから別々の部屋というのは味気ないですよ」
なんて事を言って 私と梢は相部屋となった 私としてもこんな大きな部屋で
一人一部屋と言うのは 気を使うというよりも落ち着かなかったので快く了承した。