OFF THE LOCK
◆ OFF THE LOCK ◆
同じ街に住んでいるのだが 少々辺鄙なところにあるために移動手段はバスである
郊外の山の麓に いただけない大きな屋敷 この辺り一体の大地主の娘
果ては「浅倉財閥」とか言う聞きなれない称号をお持ちの御家庭で 平たく言えば お金持ち。
それが我が腐れ縁の友人 浅倉 佳純
「はぁ・・・いつ来ても仰々しい家ねここは・・・」
優雅な庭園を横目に抜け豪奢な創りの玄関門に辿り着く
悪態をつく私の傍には 終始笑顔の梢の姿がある なにやら監視カメラに向かってお辞儀なんてしている
ほどなくして 家政婦さんがやってた
「お嬢様は、今は御山別荘におられますので どうぞそちらへ」
そう 一言 言い終わるとペコリとお辞儀をして屋敷へ戻っていった
御山と言うのは この屋敷の奥にある 無名の丘 山よりは丘と言うぐらいのものである
その丘の上に 浅倉財閥の別荘があるのだが
佳純曰く
「別荘のほうが眺めもいいし落ち着くのよ ちょっと狭いのがアレなんだけどね」
とかなんとか・・・・言ってたその「別荘」という物が目の前に立ち塞がった
「梢・・・コレってさ 狭いって感覚ある?」
「そうですね~ ウチの聖堂ぐらいなら軽く四つは収納できますね~」
いや 答えになっていない むしろ質問と質問を問う相手を間違えているようだった
重いため息をついて 呼び鈴を鳴らす事にした このままでは埒があかない
「はい 浅倉です どちら様でしょうか」
「あっスミマセン 神崎といいます 佳純・・・・さん 居られますか?」
「お嬢様は今席を外されておりますので お迎えにあがりますのでお待ち下さい。」
そう言って しばらくしてから家政婦さんが ひょっこりと現れ 客室に案内された
いかにも高そうな洋菓子とお茶を 置いて
「もうしばらくしましたら、お嬢様が来られますのでお待ち下さい。」
・・・・実に落ち着かない そんな私を尻目に 幸せいっぱい胸いっぱいで紅茶をすする 梢嬢
アレの図太さも相当なものだ なんて感心しているところに
「おまたせー ごめんね待たせちゃてさ もぅお父様がお見合いとか 五月蝿くてさ」
「やっ こんちわ 久々だね佳純 私はともかくソコの子は お菓子とお茶で幸せ満喫してるよ?」
なんて梢を茶化してみたがやっぱり 梢は動じない
「美味しいものは美味しく頂くものですからね・・・ あっ佳純さん こんにちわ。」
友達の挨拶の前に とりあえず食の感想を告げる梢嬢 流石である。
「まったく晶も梢も相変わらずねぇ おかげでこっちも楽だけどね」
そう アレの性格は「お嬢様」なんて柄じゃないが 間違いなくどっかの「お嬢様」なのである
体を動かすことが大好きで とにかく 人間離れした運動神経を持つゲテモノで
なにかと元気の有り余る人物 容姿端麗 典型的な「口を閉じていれば お嬢様」なのだ
「でさ 今日はどうするの? 出かけるのも良いけど 雲行き怪しいわよ?」
そう佳純が言って 窓の外を眺めた 確かに薄暗く曇ってきている
「台風が近いので お天気の安定が悪いのですよ」
梢がこう言うとかなりの説得力がある 多分彼女はお天気姉さんよりも 正確に天気を言い当てる
「そうね じゃ久々にココでゆっくりとさせてもらおっかな」
私は別に遠慮無しと言うわけではないのだが 昔よくココで3人で遊んでいたので
また久々にここでゆっくりとしたいと ただそう思って提案してみた。
「おっけー じゃ少し待ってて、使用人達を屋敷の方に戻すから」
なにやら 凄い事を言ってる気がする とは言ってもココに居る人たちの数は せいぜい5~6人である
佳純としても気兼ねなく遊びたいのだろう こうも周りに人が居ては気が重い
こちらとしても佳純の配慮は願ったりであるが ぞろぞろと別荘を出る人達を見て何やら罪悪感を感じた。
何をすると言う訳ではなかったが 女三人集まればなんとやら である。
時間は お昼 佳純の「久々に梢の手料理が食べたいわね」なんて一言から 梢は笑顔で
「はい よろこんで ではお台所をお借りしますね あっあと食材も。」
などと言っていた しかし梢嬢「借りる」と言うのは「返す」という事なのだ
台所はもちろんそうだが 食材を返すつもりなんだろうか この子は・・・・
なんて事を思いながら 久々に3人で梢の手料理を食べる事になった。
食事を終えて のんびりとお茶会をしていたところ 梢がポンと手を叩き
「そろそろ アレ開けに行きませんか? まだ雨は来ませんから今のうちに」
「「?」」と 私と佳純が一致した 二人とも考え込んだが いまひとつ思い出せなかった
「まったく お二人とも忘れっぽいですよね 小学校の時に私達3人で隠した宝箱ですよ」
そんな事を梢は言った 言ったのだが私はどうも記憶が曖昧だった
「あ~ そうね そろそろ開けても良いんじゃないかしら 私だって今の今まで忘れていたわ」
佳純は覚えているらしかったので 私だけが忘れている事は黙殺する事にした
昔よく遊んだ佳純の家の別荘の裏庭 ソコにある大きな桜の木の下にソレは埋めたのだと
梢は自慢気に「記憶力は人一倍良いのですよ私」なんて 無い胸を張っていた。
私達はさながら 土木作業員並みに各自スコップを片手に桜の木の下を掘り返した
当時自分達ではあまり深くは埋められないからと 悩んでいたところに
佳純が使用人さん達を酷使してそれなりの深さに埋めたらしいソレは まさに「宝箱」のようだった
中には ガラクタの山が有象無象に詰まっている これじゃどれが誰の持ち物だったのか分からないぐらいに
2人は1つ1つ手にとって わいわいと話していた 少し曇りガラスのかかっている記憶の中で
私にも見覚えのある物がいくつかあり 正直ホっとしていた
小学生の頃に描いた絵であったり 集めていたビー玉やおはじきなんて物もあった
梢がピタリと止まって 呟いていた
「あっ・・・・こんなところにあったんだ・・・」
記憶力の良いらしい梢も自分が何をこの箱に入れたのかまでは覚えていなかったらしい
ソレは銀の十字架だった 教会の子供である梢にとってそれは珍しくは無いものだと思った
そう思った瞬間に思い出した アレは梢のお母さんの形見だ。
不慮の事故で亡くなってしまったらしく 形見は十字架だけであった それが悲しくて
とてもとても悲しくて 幼い梢は「いちばんたいせつだけど いちばんみたくないです」と
そう言ってこの箱に入れたのだ 私は梢の頭をポンポンと叩いて微笑んだ
少しなみだ目の梢は「ありがとうございます でも子ども扱いは失礼なんですよ」などと強がっていた
「形見かぁ・・・私はあまり実感ないのよね コレ」
なんて言いながら 佳純はくるくるとペンダントを廻している
いかにも高そうな銀色のペンダントの真ん中には 嘘のように蒼い石が付いている
どこか物悲しそうに佳純が言った「私は・・・顔すら覚えてないから ね」
そう 私達3人の共通点は揃って早くに母親を亡くしている事だった
梢の母は不慮の事故で 佳純の母は病死だったらしい 私の母は・・・・
―――――知らない
分からない・・・・ただ知っているのは母親が居ない それだけ
なんだろう 何か凄くひっかかる ナゼ私は知らないのだろう ワカラナイ。
「あっコレ晶のじゃないの?」
呼びかけられて はっと呆けていた自分に気が付いた 差し出されたものは―――
美しい彫刻の施された銀の懐中時計だった 懐かしい感じはある でも自分の物とは思えない
「えっそんな高そうな物私持ってた? 佳純のじゃないの?」
我ながら的を射た返答だと思った そもそも家は極々平凡な一般家庭である
佳純や梢のように そんな小さい頃から高価な物など持った事は無い・・・・ハズなんだが
彼女達は「コレは晶の物だよ」と言って譲らない まぁ真偽は後にしてココは貰っておこう
後になって どちらかが思い出せば本当の持ち主も分かることだろう そうすれば返せば良い
そして一通りの物を取り出した最後に 一枚の写真があった
裏には汚い三人分の字で「たいせつなたからもの」と そんな事が書いてある
私達はお互いに泣きそうな顔で 笑った また三人でココに居ること ソレだけが幸せと思えた
それから止め処なく 思い出話に夢中になった 本当に夢中で忘れられない話を