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White Shaman  作者: 神崎 かつみ
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「おはよぅ・・・・」

そう鏡に言って 私は休日の朝を迎えた

いつもよりも早くに 目覚ましのFMラジオが鳴り響き

私はのんびりと休日の朝を楽しんでいる。

仕事柄「定休」と言うものが無く 週に一度有るのか無いのかと言う休みである。

住宅地と言うには場違いで 田舎と言うには失礼な場所にある我が家は

とは言っても賃貸のマンションなのであるが 周りには畑や田んぼが残っている

のんびりとしていて良いのだが 夏は蝉やら蛙が五月蝿い

加えて2LDKという広さの家に一人暮らしである 理由は「気に入ったから」

別段 お金持ちでも稼ぎが良いわけでもない ただ 気に入っているのだ。


服は普通の娘より少ないほうだと思う 殆どが仕事に行く為のスーツなので

普段着はあまり買っても着る機会が無いという事で いつから購入を控えている。

白い四人がけのテーブルには 灰皿と無造作に時計や携帯電話が乱立している

物が少ないという事と 家に居る時間が少ないという事で コノ部屋にはあまり生活感は無い 

珈琲をドリップし 私は髪に櫛をとおす 珈琲の良い香りが部屋を満たす

外は深夜から降り続いた雨が止み 眩しい朝焼けが見え隠れしている

「うん 良い休日ね」

一人で珈琲を片手に呟く 実に気分がいい朝だった。

時計の針は午前5時を差そうとしている 私の休日の起床時間である。

少し寝足りない気がして考え込んだ そうか・・・寝たのは3時過ぎだったんだ

昨日は「厄日」だったので 色々と思い出したくなかったので

そこで思考を止め 家を出る準備に取り掛かった。

白のノンスリーブシャツに黒のロングスカート 私はパンダか・・・・

服のセンスはそんなに良くはないと 自覚しているので気にせずに自宅をあとにする。

目的地まで徒歩30分少々 自転車に乗ればいいのだが あまり自転車は好きではない

転ぶと痛い 別に常に転ぶという訳ではないが 歩くのが好きなのだ。


いつからだろうか 休日は決まって朝一番のミサに足を運ぶ

訪れたのは住宅地より少し離れた 小さな丘の教会である  

元々実家が現在の自宅と近いのもあるのだが

多分かなり 小さい頃からココに足を運んでいると思う

それと言っておくが私はクリスチャンではない 無神論者である。

それでも 何をする訳でもなく休日には足を運んでいる

自分でも意味不明であるが コレはコレで好き好んでやっているから謎である。

とりわけ理由を付けるとすれば 2つほど該当する事柄があるのだが――――

朝のミサそれも平日ともなると 人も少なくて良い  

私は三・四十人座れるであろう聖堂のいつも一番後ろの席で

ぼんやりと十字架に掛けられた人物を眺めている。

正確には その人物の彫刻が施された大きな十字架なのだが

コレといって ありがたみもなにも無いのが本音である 

白い壁と色とりどりのステンドグラス 静寂と神秘的な 少し非日常的な空間

私はこの空間でステンドグラス越しに見る朝日がとても好きだった

何年間とこの教会に足を運んでいる1つ目の理由でもあった。

1時間ほどのミサが終わりを告げる頃 私は少しうたた寝をしてしまっていた

唐突に――― 優しく それでいてどことなく不機嫌そうに声がかけられた

「晶さん・・・・ココは寝るところではありませんよ?」

意識がぼんやりと戻ってきた・・・・

「お休みの度に来られるのは良い事ですが 寝てしまわれるのはどうかと思いますよ」

朧に眼鏡の悪魔が意識を突付いてくる 気持ちよくうたた寝をしているというのに無粋な輩である

しかしまぁ その言葉は正論であり反論の余地は無いので頭の上の声に返答する

「おはよぅ・・・今日はいい天気だね 梢」

修道女は腰に手を当てて プンプンと擬音が聞こえてきそうな感じがした

コレが理由その2なのである ソレは修道服が良く似合う「女の子」と言う形容詞がピッタリである。

彼女はココのシスターで幼馴染の (さかき) (こずえ)

常に誰に対しても敬語で話す人で かなりの童顔でもある。

昔は親しみを込めて「サキちゃん」と呼んでいたのだが 本人がなにやら照れくさいらしく

それならと お互い気兼ねなく名前で呼び合いましょうと言う彼女の提案で 

お互い名前で呼び合うようになった。ちなみに 私のフルネームは神崎(かんざき) (あきら)

この男とも女とも取れる名前は あまり好きではない。

「今日はどうしました? いつもにも増してお疲れのようですが・・・・」

はじまった・・・・彼女は昔っから本当に心配性なのだ

数少ない朝一番のミサの巡礼者たちが 聖堂を後にしていく中

「ちゃんとお食事されてますか? 睡眠はちゃんととっていますか?

 またお酒を飲みすぎたりしていませんか? 煙草も体に良くありませんよ・・・・」

そう言って私に淡々と お説教をしてくれる 実にありがたい神の子である。

こうなると 色々と心配されるので話を切ることにした。

「うん 大丈夫 それよりお茶にしよう」

私はココに来ると決まってミサが終わってから 梢とお茶をする

梢もたまに来る幼馴染とのお茶会は好きならしく 笑顔でいつも答えてくれる。

「今日は良い紅茶を頂きましたので そちらを煎れますね」

なんて事を言って パタパタと奥に歩いていった

ありがたいシスター様の お小言を回避するのはお手の物である

誰も居なくなった聖堂で もう一度ステンドグラスを眺めて 大きく息を吸った

さてと いつものように梢の部屋にお邪魔することにしよう。

教会の裏手にある 梢の住む白い一戸建ての家へと足を運んだ

梢はこの教会の神父の娘である 正式なクリスチャンなのだが

父親の「親は子を束縛してはいけない 子は常に自由に」なんて家訓の為に

教会の行事なども強制ではないらしく あくまで「教会のお手伝いさん」的な位置にいる。

裏を返せば自由奔放に生きているのだ 職は家庭教師兼クリスチャン すごい取り合わせである。

ほどなくして梢の部屋にお邪魔する いつも思うのだが 殺風景だ 実に無駄な物がない

唯一「無駄」に見えるのは 骨董品とも言える時代遅れのタイプライターだけが異彩を放つ

女性らしい部屋ではあるのだが 女性らしい小物などがない

加えて漫画本の一冊も無い ただあるのは小説の山である

梢は無類の小説好きで 多種多様なジャンルの物を読んでいたりする

しかし・・・テレビすらないのはどうかと思う

彼女が楽しそうに紅茶を注ぐ 何も無いのは仕方がないとして 禁煙と言うのはいただけない

不意に――――彼女はメガネをクイっと上げて こちらを凝視した

「ココは禁煙ですっ 以前にも言いましたがダメなものは駄目です。」

・・・・・・長い付き合いと言うもので 見透かされてしまっていたようだ

「ん~いいよ 我慢するから」

「我慢をするよりも いっそ止めてしまいなさい。」

相変わらず「体に悪い事」に対しては手厳しい そう思いながら紅茶を口に運ぶ

まだ梢は 小姑のように「タバコと言うのはですねぇ・・・」なんて 小言を言っていた

仕方がないので 切り札を投入することにした 私は鞄の中からごそごそと紙切れを取り出す

「はいコレ 更新されてたからプリントアウトしておいたよ」

とたんに 彼女はその紙切れを じっと見つめたまま黙り込んだ

「あっ・・・いつもすみません お手数かけます・・・」

そう言切る前に 彼女はその紙切れをグっと掴んでいるわけなんだけど

こちらとしては 体を労わられ精神をいたぶられる梢の「お説教タイム」にキレイにカウンターを

入れた形になり どうしようもなく しおらしい姿の彼女に 勝者は私だと言わんがばかりであった

我ながら 私はこんな時人生最良の笑顔なのだろうと思う。

ちなみに ネット上で公開されている小説で 梢の大好きな作家の新作らしい 

彼女の家にはパソコンが無い為にいつも私がプリントアウトをして手渡している

最終兵器として・・・・そう 常に切り札は必要である 梢相手に渡り合うのならなおさらである。

それから 2.3時間バカ話やら仕事の話やら 飽きずに ただ二人で話していた

休日の朝はいつも こんな感じである。

そんないつものバカ話に 急にピタリと真顔で真っ直ぐに見つめてくる 彼女があった

話題は昨日の例の 意味不明な「新手のナンパ」についてだった

その話題を 空笑いをしながら話したとたんに 彼女は氷ついてしまった

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

なにか・・・凄く重苦しい沈黙 ソレに気づいた私もまた沈黙を保ってしまう


不意に彼女の口が先に開いた

「その方は・・・・・・目が悪いor目が見えない そのどちらかですね。」


いや・・・ちょっと待て 重苦しいまでの沈黙を演出してまで語った言葉がそれなのか


「もしくは・・・きっとその方はお仕事でお疲れになって 白昼夢でも見ていたとか」

もういい どうせ私は「姫君」なんて柄じゃないし 極々一般的な小市民である

それは十二分に理解しているのだが こうも楽しそうに語る彼女には悔しいものを感じてしまう

「はいはい 分かってますよ 解っておりますとも」

私は なんとも言えない敗北感を感じながら相槌をうっていた

「あ~でも ちゃんと見えてたと思うよ 私から見ても瞳の色まで視えてたし」

―――そう 赤・・・・・とてもとても朱い瞳―――――

・・・・・何かの見間違いだろうか・・・・そもそも瞳の色なんて私は見ていたのだろうか・・・・・・

少し自分の記憶が不確かに思えて それっきりその話は幕を閉じた。

「あっもう10時ですね そろそろ出かける準備をしないと」

梢は少し慌てた様に 外出の準備に取り掛かった

修道服を手際よく脱いで あらかじめ用意していた私服にそそくさと着替え始めた

「あいかわらず ぺったんこね」

「・・・・・・・何か言いましたか 晶さん?」

「いえ なにも。」

一瞬殺意が見え隠れをしていたが そのへんは御愛嬌。

「で どこいくのよ?」

着替えている彼女に聞いてみる事にした 彼女が私服に着替えて出かけるなんて稀である

淡い色恋沙汰でもあれば 面白おかしく突っつけるのだが・・・・

「あのですね。今日は3人で久々に出かける約束をしたでしょう?」

あら 違った。

「ほら 晶さんもそんなに寛いでないで 出ますよ」

そう言われて 私は大きな「ド忘れ」に気がついた

そう 今日は久々に私達3人で遊びに行く約束をしていたのである

「了解 じゃ佳純ん家へ 行きますか」

そう言って 殺風景な女の子の部屋を後にして 外へと歩き出した

教会のステンドグラスを外からぼんやりと眺めて 次のミサの巡礼者の方達を見送る

少し肌寒いほどの 少し早い秋風に吹かれて さてと時計は朝の10時半を回ったところ

もう一人の友人 浅倉(あさくら) 佳純(かすみ)の家へ行くとしよう。

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