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White Shaman  作者: 神崎 かつみ
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The middle of the night

◆ The middle of the night ◆

缶コーヒーと煙草で 気分を和らげる事15分少々

頭をポリポリと掻きながら 左腕の感覚を確かめた。 

多少の違和感が残っている 正座でもして足を痺れさせた後のような

なんとも表現のしにくい状態であった あとは帰宅するだけである

時間はこの日が始まってから2時間ほどが過ぎていた。

髪をかき上げ 長らく座っていたベンチから腰を上げる

辺りは当然のように静まり返り 人の気配は皆無である

秋の始まりを告げるような 蟲の鳴き声だけが聞こえる静かな夜

不意に視界外に動くモノが見えた 深夜2時過ぎ とうの昔に終電の終わった時間

だが確かにソレは駅の出入り口付近より 確実にこちらに進んでいる

自分は街燈の下のベンチの前に居る ソレは暗明かりの駅から進んでくる

酔っ払いか 駅の関係者か はたまた人外魔境か・・・そんな事はありえない

そう考えているところに ソレが不意に語りかける

――「こんばんわ姫君」

実に自然に その言葉に違和感は無く 悪意も感じられない・・・・

「はぁ?・・・・ナニソレ?? 最近の流行のナンパかなにか?」

数秒の間のあと 停止しかけた思考回路が動き出し そんな言葉が出た

正常には頭は回っていなかったのだろう ただ何か言葉を返すのが精一杯だった

だってそうだろう 目の前には9月の始めだというのに真っ黒なロングコートを着た

清楚な顔立ちの――目を疑うような「銀色」の髪の男が微笑んでいる。

何がなんだか分からない 一瞬頭が いや 目がおかしくなったのか

それとも自分はまだ夢の中なのか そんな ぐちゃぐちゃの困惑状態

呆然と「姫君」と言う言葉よりも何よりも容姿を疑った。

――ありえない 夜と同化した様な出で立ち 嘘のように月明かりに煌く銀の髪

街燈も何も無いところに 月のスポットライトがただ ソレを照らし出す

静寂の月明かりを背に 深夜の駅前の小さな広場 日頃見慣れた場所に見慣れないモノ

瞳を閉じれば夢のように消えてしまいそうな者なのに 圧倒的な存在感を持つ者 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

沈黙 長くなく決して短くも無い沈黙 互いに第一声より続く言葉を発しない

否 言葉など要らなかった 正確には息を呑むとはこの事だろう

ソレほどまでに目の前の「銀の男」は彼女を飲み込んでいた


不意に男が にこやかに声も無く微笑んだ 寒気が走った いや鳥肌が立った

「また いずれか・・・」

男はペコリと お辞儀をしたあとにまた 暗闇の彼方へと帰っていった

彼女は別段声を投げかけることも無く ただ呆然とソレを見送った。

意味が分からない それが彼女の本音 肩をふるふると震わせ

「ったく・・・ なんなのよ――――っ!!」

立ち上がり 誰も居なくなった 闇に向かって咆える ガーっと咆え立てる

別に照れている訳ではないし 見惚れていた訳でもない

――ただ 彼女自身が理解していた 時間も夜の帳も彼女自身さえも完全に呑まれていた

狐につままれた様な そんな出来事から いい加減に家に帰ろうとした時

何も無かったはずのベンチの脇に 黒いこうもり傘が一本・・・・

「ったく・・・なんか忘れてってるし いずれかって そもそもなによ」

と悪態をつきながら 歩き出す やっとのことで家路につく。

空を見上げれば・・・・さっきまでの赤茶色の月は無く ただ闇だけがあった

夜の小さな広場は 別段と変わりなく ただ静寂の闇の中 虫の音だけが響く

頬に冷たい感触 雨――唐突に降り始めた雨は 夕立のように勢いを増してゆく

「あ~そう言えば美咲言ってたなぁ・・・・雨だって。」

「美咲」と言うのは同僚の櫻井の事である プライベートでは他人行儀はナシ

それが お互いの暗黙の了解である とは言っても独り言な訳であるが。

「あークソっ 今日はホントに厄日ね」

もうヤケクソである 降りしきる雨の中 何度も長い髪をかき上げる帰路。

・・・・・・あ 傘あったな・・・なんて今更に気づいたが 引き返す気力は無かった

そして 彼女の「厄日」は静かに眠りについた。

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