Every day
はじめまして。
神崎 かつみと申します。
拙く読みずらい文面ではありますが どうぞお付き合いください。
◆ Every day ◆
音が聞こえる
耳障りなほどに 音が聞こえる
意識は朦朧としている 「ソレ」の頭の歯車が噛み合ってない
ある種「爆音」じみたソレはFMラジオである。
ソレが朝の彼女の日常 低血圧の為に無駄に早くに起きる。
目覚まし代わりのラジオを十分後に合わせ直して まどろむ。
ふぅと一息ついて まだ噛み合わない頭と体を起動する。
決まって朝一番に彼女は日課のように鏡の前で 鏡の中の自分に
「おはよぅ・・・・」
おかしな癖である この家には彼女以外の誰も居ない
だからといって 誰にも「おはよう」と言わない朝は嫌ならしい
不思議と寝癖のつかない 長い黒髪を軽くかき上げる
一日の始まりと 彼女の日常 何の変哲もない朝。
――女の朝は時間がかかる――― そんな極自然な一般常識。
彼女は「ソレ」が無いらしい 二度目のラジオが部屋鳴り響き
玄関を出るまで二十分足らず 顔を洗い 髪を整え 飾り程度に化粧を済ます
洒落っ気の無い スーツに袖を通し 缶珈琲を片手に家を出る。
日課であり日常である。外はこの上なく晴天 まだ暑さの残る9月の始め。
未だ歯車の噛み合わない頭で最寄の駅に向かう 至って平穏な日課
足を止め 煙草に火をつけ「ソレ」を咥えたまま ふと考え込む
寝ているときに自分の髪で首でも絞まっていたのだろうか・・・・
「・・・・なんだろう もの凄く寝覚めが悪いな」
ポツリと呟く――きっと夢見が悪かったのだろう――
そんな事を考え 空を仰ぎ また 足が進む。
容姿端麗 頭脳明晰 加えて運動神経も悪くない彼女だが
いかんせん色恋沙汰には縁がない。
黙っていれば「いい女」と形容されるものの 性格は至って男勝り
そこいらの男よりも「かっこいい」と知人たちは口をそろえて語る
本人には自覚はなく「なぜ男よりも女の子に好かれるのよウチは・・・」
などと常々愚痴をこぼす始末である。
ほどなくして 不意に足が止まる 目の前に黒い塊が鎮座している
「チッ・・・」っと いかにも不服で不満な舌打ち 嫌なタイミングで歯車が噛み合ったらしい。
「まったく・・・今日は厄日か。」
目の前の「黒い塊」は普段見慣れたモノとは違い 見えていてはいけないモノが視えている
周りはドス黒く変色した血痕が残っている―――黒い猫の屍骸である。
車にでも撥ねられてしまったのだろうか 最近の猫は注意力散漫である。
別段気分が悪くなると言うほどの事ではない タブンそれは「人」の肉塊であっても
彼女の反応は変わらないだろう 何かがズレている。何かが欠落している
だが 破綻しているワケではなく『ズレ』ている。 彼女は別段鳥頭という訳ではないが
その塊を3歩ほど過ぎて何も無かったかのように「朝食は何を採ろうか」などと考えている辺り
前向きだというか図太い。彼女の思考回路は「日常」(へいわ)に侵食されている。
駅に着く ホームで待つ事1分弱 あまり「待つ」のは好きではないらしく
深く考えては居ないくせに 決まって電車の来る時間帯2.3分前でしかホームに居ない
「慣れ」だろうか「習慣」なのだろうか 彼女は3分以上ここで電車を待つことが無い
電車に乗り込み 何を考えるというわけではなく 今一度うたた寝を再開させる。
ちょうど一度目のラジオが鳴り もう一度鳴り響く前と同じ状態である。
その日は 別段いつもと変化の無い朝 一日の半分以上の時間を仕事に費やすスタート。
そんないつもと同じ朝だった ただ1つ いや二つ
目覚めがいつも以上に悪かった事と 黒い肉塊を拝むハメになった事意外は。
「おはようございます。」
その一言で 何かが始まる ザワついた職場
彼女の仕事は至ってシンプル とあるレストランの副店長と言うポストに就いている。
この日もいつもと変わらず 出勤時間の三十分前には職場に到着していた
時間は八時半 「早番」と呼ばれる夕方までの勤務の人間が出勤して30分ほど経った所だ
「あっ神崎さん おはようございます。」
それが彼女の名前だ。ありきたりで別段珍しくもなんとも無い名前である。
ローテンションのまま彼女は のんきな朝の挨拶を交わす
「おはよ櫻井 今日も寝不足気味なの? 夜遊びはほどほどにね」
どことなく知的なメガネの良く似合う櫻井と言う女性に 挨拶を投げかける
「今日の予約状況は? まぁ出勤する人間の数のほうが気になるけどね」
タイムカードを手に取り そんな事を尋ねていると
「今日は・・・ボチボチですね」
などと言う溜息交じりの返答。
「どっちがよ? ま どっちでもいいけどね。」
社交事例なのか あまり興味が無いのか 適当な言葉で濁す神崎に
「・・・・・・・・・・どうしたんですか? 機嫌悪かったりします?」
櫻井は なにか踏んではいけないものを 踏みそうになる感覚で遠慮がちに
それでも なにか会話を切るのが気まずそうに そんな事を口にする。
「・・今日は 厄日みたいね うん 別にそれだけのこと」
ひどく軽く あまりよろしくない事を 平然と言った。
この二人の関係は 「上司と部下」である前に7年ほどの腐れ縁がある
昔の同僚であり 蓋を開けてみれば何の縁か2年ほど前にバッタリと再会し
職を探していた櫻井に対して系列店を紹介したところ 1年ほどで人事異動
気がつけば「同僚」から「上司と部下」と なし崩しの状況になっている。
「えっとアノ日ですか? ちょっと早いですよね?」
「ちーがーう。朝っぱらから気の滅入るような事言わないでよ
ってか なんでウチの日付知ってんのよ アンタは・・・」
なにやら意味有り気な事を呟く 櫻井に対して 話を切り返す
「あぁ櫻井 今日あがってから飲みに行こっか?」
「いいですよ ・・・・って神崎さん明日休みっしょ?」
目を細めて 腕を組んで いかにも疑いの眼差しで。
そんな会話のやり取りも お手の物で
「よくわかったね 有能な部下を持つと嬉しいわ」
などとケタケタと擬音が良く似合う そんな渇いた笑顔である。
そこへ櫻井が懸命に追撃を試みてみる
「休み前しか誘わないっしょ アンタは・・・・こっちが休み前とか絶対来ないくせに。」
そんな言葉を投げかけるも 有能な上司様は いたくご満悦気味である
呆れたといった感じだが いつもの事 なのだろう 上司様の仰せの通りに~
なんてジェスチャー混じりの返答に
勝ち誇った子供のような笑みを浮かべながら聞いている上司様に
「あ~でも 今夜から朝方にかけて雨降りますよ~」
と 呟きながら「深酒はナシでお願いしますね」 なんて言葉が聞こえてくる
主導権を常に勝ち取っていく 有能な上司と
主導権を常にノシを付けて 差し出す有能な部下の構図である。
「おっ楽しそうだな 俺も行こうか?」
そこへ長身で男臭い中肉の 男が話の輪に入ってくる
二人は 思考時間が限りなくゼロに近い状態で即答
「奢りなら 多少は考えても良いよ」
そう 男の次の言葉よりも早くに二人は答えた。
彼女達にはあまり男と酒を酌み交わすという趣向は無いらしい。
「えっ ホントに黒田さん奢ってくれるんですか?悪いですねぇ」
なんて事を目を輝かせて 櫻井は似合わない素振りで 善からぬ思考をフル回転させながら
この男が今日の財布 と言わんがばかりの変貌振りである
まったく 自分の財布が傷まないという話は根っから好きなヤツである。
「えっ・・・あぁうん まっまぁ給料日後ならって事でっ」
そう言ったのが早かったか 立ち去る動作が速かったか そんなタイミングで
そそくさと その場から離脱していく 惨敗兵が1人。
彼女達二人に「酒の席での支払いを任せられる」というのは
あからさまに 破産宣告をしろと言うのに同意らしい。
過去にソレが原因で 1月ほどまともな食事を取れなかった 犠牲者が居るとかなんとか。
そんな 他愛も無い朝のひと時を終えて この日も「日常で日課」な仕事が始まる。
程よく酒気に当てられ 帰途につく
その日の売り上げがどうとか バイト連中がどうだとか そんな話をしていた。
いつもと変わらない夜 家路の電車に乗り込み ほろ酔いで眠りに落ちる。
朧に夢を見る――忘れている遠い過去の夢――
寒気がした・・・・・・ ビクンっと体を震わせ目が醒める
少し飲みすぎただろうかと 寝過ごしてはいないだろうかと
少しの不安と 少しの酒気 大きな眠気 そのどれもが笑い飛ばせるような「日常」
日常を大切だとか 失いたくないとか それこそ そんなどうでもいい事を
真剣に考えたことも無い。ただこの夜は 酷く自分が不安定に思えた。
気持ちが悪い うっすらと脂汗まがいの汗 そのどれもが「いつも」と違って感じられた。
早く帰って 1分でも早く シャワーを浴びて寝よう
頭の中の思考回路はただソレだけを望んでいた あとは躯を動かすだけである。
駅を出る 時間は既に「次の日」の始まったばかりの時間
ふぅ・・ ため息なのか深呼吸なのか どちらとも取れない吐息の後 妙なことに気づいた
左腕全体が「痺れ」ている あぁ変な体制でうたた寝してしまったんだなと そう思い返す
とたんに 胃を喉から引きずり出すような いやきっと今引きずり出されている そんな感覚
目の前が暗転する・・・何度となく 引きずり出される胃――
ほどなくして 視界がぼんやりと見えてくる 周りに人は居ない
よかった こんな失態を他人に晒すことが無くて そう思い自分の吐瀉物を眺める
・・・・・・・・・――不快である 未だ息はハァハァと上がっていて 瞳は涙ぐんでいる
苦しくて眩暈すら起こしていたというのに 眺めた先には何も無い。
そもそも酒を摂取したからといって 吐くようなマネはしたことが無い。
「吐けば楽になる」なんて一体何人に言ってきた言葉だっただろう
自分がそうなった今 コレだけ苦しい思いをして ソコには何も無いなんて・・・
「・・・ったく ホント今日は厄日なワケね」
肩で息を吸いながら 潤んだ瞳で空を眺めて呟いた ソコには赤茶色の月。
苛立ちと不快 ほろ酔い気分も 綺麗さっぱりと抜けてしまっていた。
この度は私の稚拙な文章にお付き合い頂きありがとうございます。
この物語は書き始めたばかりで まだまだ「さわり」程度ですが
ご興味をお持ち頂けたなら幸いです。
尚文面に「、」が無いのは私の癖であり仕様です。
多々読みづらい場面はあると思いますので ご批判・ご感想頂ければ幸いです。