選択はいつも2つだ
2018年6月21日午前十一時
「は~、学校抜け出してきたけどやることねーなー」
学校を抜け出してきた光は、他に行くあてもなく、制服姿でブラブラと公園を歩いていた。
家に帰ってもよかったが、おばさんに迷惑かけたくなかったので、
怪しまれぬよう、学校が終わる時間帯まで暇を潰しているのだ。
おばさんというのは、渡辺結衣、母の友達である。
なぜ母の友達が光の家にいるのか、それは光が8歳の時に、両親がおばさんに預けたからだ。だけど、あくまでそれはおばさんから聞いた話。実際は捨てられたんじゃないかと光は思っていた。確信はないが、そんな気がするのだ。
だからこそ、今まで育ててもらった分、これ以上迷惑をかけたくなかった。
光は公園に設置してある向かい合わせのベンチに座ると、暇を潰すため鞄から携帯を取り・・・
「あれ、鞄・・・クソ、学校か」
鞄が無いことに気づいた光は、取りに戻ろうか悩んだが、
あんなことがあった以上、行く気もしなかった。
仕方なく他に暇が潰れそうな所に移動しようと考えたが、
今着ているのは制服だったため、一発で警察に補導されるのは目に見えていた。
最悪だよ。本当。
光は頭を上げ、真っ青な空を見ながらなにかをするわけでもなく、
ボーっとしていると、ドサ、 隣に人が座るのを感じた。
マジかよ、隣に誰か座ったよ。
つか、そもそも人が座ってるベンチに座るかね普通、
しかも、目の前にもう一個ベンチあるじゃねーかよめんどくせー。
ここは、光が移動すればよかったのだが、なぜか意地になってしまい、このポーズから動こうとしなかった。
だが、上を向いている格好のため、少し首が痛くなってきていた。
クソ、お願いだから早くどっか行けよ
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
そんな光の願いも通じないまま、時間だけが過ぎていった。
次第に首の痛みも限界になり、イライラ感も頂点に達していた。
「っち」
我慢できなくなったのか、光は隣に座ってる人に対し、舌打ち混じりに、イライラアピールをしながら、頭を下げた。
「ご、ごめんなさい」
どうやら、そのアピールが通じたのか、謝ってきた。
しかも、その声質はどうやら女の子のようだ。
しまった。怖がらせたかな。光は頭を掻きながら思った。
男には特に厳しい光だが、女の子は苦手なのだ。
「あのーなんだ、別にそこまで怒ってませんから」
そう言いながら隣の人の様子を見ると、「え・・・」驚きのあまり、顔が引きつってしまった。
なぜなら、そこにいたのは、先程教室であったクラスの委員長だったからだ。
なぜ?光の頭の中ではそれだけが浮かんでいた。そんな光を無視して、彼女が喋りだした。
「あの・・・お邪魔だったでしょうか?」
彼女はスカートの裾を両手でつかみながら、上目遣いで聞いてきた。
「い、いや、別に」
光は顔を背けてしまった。
上目遣いの姿にドキっとしてしまったのを隠したかったからだ。だが、そんな光の姿を見て、彼女はまだ怒ってるのではないか思い。もう一度謝ってきた。
「お邪魔でしたよね、ごめんんさい」
「いやいや、俺こそごめん、なんか・・・うん」
「いえ、私が悪いんですごめんなさい」
二人の間に気まずい雰囲気が流れる。光はこういった状況が嫌いなため、この場から立ち去ろうと、「俺、行くわ」と言い席を立つ。
すると彼女はどうしたことか、光の右手をつかんできたのだ。
「え?」
急に右手をつかまれたものだから戸惑う光。彼女の右手はとても柔らかかった。
「あの、なんだ・・・手、離してくれないかな」
頬を染めながら光が言うと、彼女は慌てて右手を離した。
少し名残惜しかったが、ここで俺が言わないといつまでも手をつかんでいたかもしれない。それに、周りの人達の目線も気になるし仕方ないことだ。そんなことを光は思うのであった。
しかし、なぜ彼女が右手を掴んできたのかわからなかったので、
「あの・・・なんか俺に用でもあるのか?」
取り敢えず質問することにした。
すると、彼女は何かを思いついたのか、自分が持っていた鞄を光に突き付けてきた。
光は、なにがしたいのか本当にわからなかった。
「この鞄がどうかしたのか?」
光がそう言っても、彼女は鞄を突き付けたまま黙っている。もう一度同じ質問をしようと思ったが、どうせまた黙ったままだろうと思い。仕方なく、その鞄を受け取ることにした。
「それで、この鞄がどうかしたのか、特になにもない・・・あ!」
その鞄をよく見ると、光が鞄に付けている親父から貰ったお守りが付いていたのだ。
そうか、これを渡すために・・・
光は感謝の意を込めて、
「ありがとうな」
と言うと、彼女の耳が、目で見てわかるように、真っ赤に染まる。
そんな自分の姿を隠すためなのか、彼女は、両手を顔の前でブンブン振りながら、必死に誤魔化すのであった。
「い、いえ、私は、あ、当たり前のことをしたまでです。それに委員長ですから、教室での忘れ物とかは、私が責任を持ってその人に届けるのが使命なんです。いえ、宿命なんです。だから、桜川君は別に気にすることはありません!!」
途中から意味がわからなかったが、慌てて言う彼女の姿を見て、失礼ながらも光は、笑ってしまった。
「な、なぜ笑うんですか!!」
「いえ、まー、なんであんた見たいなのが委員長になれたのか不思議なもんで、ついつい」