表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

プロローグ

 2018年○月△日サンフランシスコのとある高級住宅外 

 

 腕時計の針が、深夜二時を指している頃、鼻歌でメロディーを刻みながら、全身黒のスーツを着た男が、大きな袋を肩に担ぎ、高級住宅が並ぶ二階建ての家から出てきた。

 

 今日は、機嫌がとてもいい。先ほどまで降っていた雨はやんでいて、めんどくさい仕事はスムーズに終わってくれた。とても気持ちがいい最高だ。

だが、この異な臭のせいで全てが台無しだった。原因はこの袋である。袋の中に入っているとはいえ、さすがに、この異様な臭まではどうしようもできなかった。

この仕事をしている以上、仕方のないことなのだが、やはり、

この臭いには慣れない。


 苦笑混じりにそんなことを考えながら、男は、駐車場に停めてある車のトランクを開け、その異様な臭がする大きな袋を、中に入れた。

 

 トランクを閉め運転席に座ると、男は、右内側ポケットから、携帯電話を取り出し、誰かに電話を掛け始めた。

ワンコール、ツーコール、スリーコールめで、相手が電話に出た。


 「仕事は終わった。金は前に指定した場所に置いておけ」


 そう言うと、相手の言葉を待たずに、すぐ電話を切った。

それから、何かをするわけでもなく、ただ、携帯電話を見つめていること5分、

今度はスーツを着た男の方に電話が掛かってきた。すぐに通話ボタンを押し、

電話に出ると「一一四六」


 それだけ言って電話が切れた。


 もしも、彼ではない誰かが電話に出たら、訳がわからないと思うだろう。

しかし、男は満足した笑みを見せ、次の目的の場所に向かうため車を走り出させた。


 一時間ぐらいたったのだろうか、目的の場所に着いた時にはすでに、深夜三時を回っていた。


「さて、この大きな可燃物をポイポイしましょうかね」


 車から降り、トランクを開け、袋を取り出すと、近くにある大きな穴の中に、

そのまま放りこんだ。ちゃんと処分できているか確かめる為、中を覗いて見ると、とてつもない熱さが顔全体を焼くかの様に包んだ。


「あっつ!!!、こりゃー確かめなくても大丈夫だな」


 額の汗を拭きながら男は、車に乗り込むと、そのまま来た道を引き返すのであった。



 

2018年6月21日午前八時 東京都大田区のとある高校 

  

  

 学校は嫌いだ。他者を虐め、自分の優越感に浸る馬鹿な連中がコミュニティを作る為に集まるだけの施設だからだ。

けれど、それだけではないこともわかっている。

わかっているからこそ、俺はここが嫌いだ。


 桜川光は、自分の教室にあるラグガキだらけの机を睨みながら、右手を強く握りしめていた。

 

 そんな光の様子をクスクスと面白おかしく見ているクラスメイト達に、

光はすぐにでも犯人を見つけ出して、おもいっきり殴りたい気分だった。


 ここで面倒を起こせば、色々とめんどくさいことになることはわかっているが、ここで黙っているほど大人しい人間ではなかった。 

 

 「なにがおかしんだよ」光はそう言うと、机を力強く蹴飛ばした。


 女子の悲鳴がクラス中に響いた。


 「なんか俺に文句があるんだったら、直接言いに来いよ」


 静まる教室。なんて張り合いのないことだろう。


 「なんだよ、誰も直接俺に文句も言えないのかよ。ああ?」


 目をそらす者、自分は関係ないですよって白を切る者、

だが、そんな連中に紛れて一人、じっと見つめてくる男がいた。


 「おい、お前」


 光はその男を見つけると、声をかけながら駆け寄り、目の前に立った。男は少し戸惑った顔をしたが、ゴクリと唾を飲むと、光を見ながら、小さな声で言った。


 「・・人、人殺し」

 「あ?」

 「あ?じゃないだろ、こ、この人殺し」

 

 光はその言葉の意味を十分理解していたが、あえてとぼけることにした。


 「人殺しね・・・覚えがないな」

 「知っているんだぞ、君が人を殺したのを。」

 「証拠でもあるのか?」

 「しょ、証拠は・・・」

 「ほら、ないじゃないか」

 「でも」

 「でも、なんだよ」

 「・・・・」男は黙り込んでしまった。 


 光はこれ以上話しても仕方がないと思い、男に背を向け教室から出ようとした時だ。

 

 彼の右腕を力強く掴む手があった。なんだと思い、光は右腕をつかんでいる人を睨みつけた。そこにいたのは、眼鏡をかけたポニーテール姿の女の子だった。名前は覚えていない。

 

 しかし、彼女がクラスの委員長をしていることは知っていた。そんな彼女がどうして右腕をつかんでいるのか、光にはわからなかった。


 「委員長が俺になんか用ですか?」

 

 光は腕を掴まれていることに腹を立てているのであろうか、少し声が低くなっていた。


 「その・・・えっと・・・」


 そのせいなのだろうか、右腕を掴んでいる彼女の手が少し強くなった気がした。


 「言いたいことがあるならはっきり言ってもらわないと困るんですが」


 さらに声が低くなる。


 「も、もうすぐ・・・授業が始まるから・・・」


 光は肩をすくめた。


 「だからなんですか?」

 「だからちゃんと授業受けてください」

 「無理です」

 「どうして・・・ですか」


 彼女は光の目を恐る恐る見て言った。


 「特に理由なんてないですよ」

 「だったら!?」

 「はぁ・・・・」


 光は溜め息をつきながら、掴まれている右腕を、左手でほどくと、

一言彼女に対してではなく、クラスにいる全員を睨みつけながら言った。


 「俺が本当に人殺しなら今頃お前ら全員殺してるよ」


 そう言い残し、光は教室から立ち去った。


 

 

  同時刻、ここ日本で、ある一人の黒いスーツを着た男が、羽田空港から出てきた。

 

 「ここが日本か・・・平和ボケの臭がプンプンするな」

 

 男は辺りを見回し、すぐ近くのタクシー乗り場を見つけると、

そこに向かって歩きだした。


 タクシーの運転手は男が近づいて来るのに気づくと、

車の後部座席のドアをすぐ開け、乗ってくるのを待っていたが、

なぜか女子席のドアを開けて乗ってきた。


 「あの・・・お客様、できれば後ろの方に乗って頂きたいのですが」


 タクシーの運転手がそう呼びかけても、返事がない。

けれど、そのお客の顔を見てみると外国人だとわかったため、

日本語がわからないだけなのかと思い、

もう一度同じ言葉を少しニュアンスを変えて言ってみた。


 「デキレバ、ウシロノセキニイッ・・・」

 「すみません私、日本語あまりわかりません、それにあまり喋れません」


 運転手は唖然としてしまった。まさか、ここまでハッキリわからないと日本語で言われてしまうなんて思ってもみなかったからだ。


 そんな運転手を横目に男は、淡々と日本語を喋り始めた。


 「東京都大田区にある、Sky Hotelまでお願いしてもいいかな?」


男はそう言い終え、運転手を見ると、口を開け馬鹿丸出しの顔がそこにはあった。


「どうしたんですかそんな顔して」    

「いえ、なにも」


 日本語喋れてるじゃんっとツッコミたかったが、

昔、外国人を乗せ、揉めたことがあったことを思い出し、

二度と同じ目に会いたくないためここは黙って頷くことにした。


 会話が終わると、タクシーは目的の場所に向かって走り出した。  


 走り出してから十分くらい過ぎたのだろうか、

日本の景色は本当に建物だらけなんだなと外の景色を楽しみながら思っていると、運転手が急に、


「それにしてもなんですか、お客さんはどこから来たんですか?」


 なんてことを聞いてきた。


 先程の丁寧口調はどこにいったのやらと思いながらも、男は運転手の問いに答えた。


 「サンフランシスコから来ました」

 「へー、じゃ、なにしに日本に来たんだい?」

 「知人に会いに」

 「その知人はどこの国の人なんだい?」

 「日本人ですが」

 「そっかー、日本人か」

 「はい」

 「どうやって知り合ったの?」

 「色々と」


 どうしてここまで話さなきゃいけないのかと思ったが、

人とまともに話すのが久々だったため、案外不愉快ではなかった。

 

 それから、日本で行きたい場所はどこだい?

奥さんとかはいるのかい?とかの色々な質問をされたのだが、

運転手も会話に飽きたのだろうか、自分が聞きたいことを言い終えると、

そのまま、黙ってしまった。


 運転手が黙ってしまったため、また、外の景色でも楽しもうかと思い窓をみると、まるでそれを待っていたかのように、右内側ポケットに入れてある携帯電話が鳴りだした。


 「もしもし」

 「あー、あれかね、ジョンソン君の携帯かい?」

 「違います」


 ピッ


 通話を切った

 

 「電話どうしたんだい?」

 運転手が聞いてきた。

 「間違い電話でした」

 律儀に男が答えると。

 「私もたまにあるんだよね」 

 そう言って運転手は笑った。

 

 それにしても間違い電話は初めてだな。 

 

 男は顎に手を添えると、眉をひそめた。


 嫌な予感がするな。直感的にそう思った。

  

 そもそも、この携帯電話の番号は、仕事場の人間か、その関係者以外知らないはず。さすがに、ボタン一つの押し間違えでかかってくるとは思えなかった。できれば、この嫌な予感、当たらないでくれと思ったが、男は着信履歴を見ると、嫌な予感は確信へと変わってしまった。


 まさか非通知でかけてくるとはな 

 

 男は溜め息をついた。

 

 なぜなら、非通知は、男が仕事場で使う死のメッセージ、殺人予告、これが自分にかかってくるということは・・・最悪だった。


 「まさか今度は俺が狙われるとは、皮肉だな」


 男は窓の外を見ると、今度は景色を楽しむのではなく、警戒するために、覗き込むのであった。



  

  

 

  

 


 

  




  

  




  


  



 

 


  


 

 

 


 

よかったら見てください

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ