ひとりにされた日
六歳の息子は
私に怒られると、目に涙をいっぱい溜めて
なんで、なんで、わかってくれないの!
と、私に全身全霊で迫ってくる
悔しい、悔しい、悔しい!
伝わらないことをメソメソ泣くのではなく
拳をばたつかせて、悔しがるのだ
地球なんか大嫌い!
オレは悪いから全部、嫌いなんだよ!
宇宙もみんな壊れちゃえばいい!
悔しさを何とかしてこちらにわからせようと
して、見事な支離滅裂
全部が嫌い、と言えば済みそうなところを
具体的に言ってくるから、何故か笑ってしまって
いや、笑いごとではないけれど
みんな消えちゃえばいい、に私は反応して
そんなこと絶対に言っちゃいかんと叱った
言葉には力があるから、本当にみんな消えちゃったら
どうするの、と
息子はあっ、いう顔になって、私を見た
いいよ、オレひとりでも
そう、じゃあ、ひとりになれば
私は部屋を出て、ドアに鍵を閉めた
ひとりになってみればいい
一瞬でもわかるだろう
ひとりにされたこわさが
誰もいないガランとした部屋のさみしさが
遠い日
ただいま、と言っても返事のなかった部屋
冷蔵庫の腹の虫の音が低く響いて
時計だけが呼吸をしていた
暗い部屋がこわかったのじゃない
自分の音しかしない部屋がこわかった
今日あったことを胸に抱きしめて帰ってきても
誰に見せることも、聞かせることもできなくて
床にバサリと落とすしかなった
みんな消えちゃえばいい、と
親に叫んだ翌日だった
ごめんなさい、ごめんなさい
何度言っても何も返ってこない部屋
母が帰ってくるまで、体をまるめて
うずくまって泣いていた
おかあさん、おかあさん
開けてよ、開けてよ
泣きながらドアを叩く息子の声が聞こえると
鍵を開けた
ごめんなさい
わかればよろしい
笑顔で息子を強く抱きしめた
あの時の
私のごめんなさいはどこへ行ったのか
わかればよろしい、と許された記憶はない
母が帰ってきてくれたことが
うれしくてたまらなかったことは
おぼえていて
あれから二度と
みんな消えちゃえばいい、とは
言わなかった
こわくて、言えなくなったのは
おぼえていて