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故意語彙錯誤

 どういう訳か、車に轢かれたとは思えない程の怪我、傍から見ればくろすけに見える程にぐちゃぐちゃだった筈なのに、車に轢かれた人類とは思えない程、僕の身体からは掠り傷一つ無くなっていた。

 しかも僕は立ち上がり、歩けるまでになった。

 本当なんだ、とある政党名と同じ意味合いで立ち上がったんだ、政的な意味で。そして、この足で女の子を自宅(実質一人暮らし)に招き入れてしまった。僕の目の前に居るのは、確かに選択肢系女子ではないんだよ。明らかに違う回答をしても、案外正解でカンチガイ好感度アップ的女子じゃないんだよ。触れるんだよ。

「なに? 首を失くしたデュラハンみたいな顔して」

「……」

 「デュラハンが主体なら顔色が判らないって、ツッコミなさいよ」と、片手間に言いながら、僕のパソコンを起動する乙臣。

 確か壁紙にはモノクロな町の風景を使っていた筈だから、大丈夫だろう。にしても女の子が僕の部屋に居るなんて、今なら頬を思い切り抓られても痛くないと言っても過言ではない、あくまで例えだが。

「ねぇ、このスクリーンセイバーは何かしら」

 そういえば、スクリーンセイバーって何にしてたっけ。

「このホームベースみたいな顔、蹴られたいの?」

 ほーむベース? あぁ、そっか、僕の窓か、もとい僕のパソコンのスクリーンセイバーの事か。

「アナタってこういった趣味なの?」

 あー。否定しないとなー。でも事実なんだよなー。

「中古品でも買い取ったのかしら、なら納得なのだけれど」

 そうそう。それそれ。

「ねえ、ねぇってば」

「へー……」

「上の空をそこまで忠実に且つオーバーに表現しなくても良いじゃない、身体の皮を一枚ずつ剥ぎ取るわよ」

「いや、人間の体は一枚以上一枚以下だろう」

「アナタの場合は違うかも知れないじゃない」

 中古で買い取ったパソコンが、無個性な僕の机に置かれている。その手前の椅子に、無個性な僕が座る。

「まぁ……確かにそうだが、その度に痛みが伴うだ……」

「あ、あーぁ」

「僕が喋っているのに何で、自己発案して自己完結させているんだ! って」

 僕が座るのに乗じて、後ろに回りこんでいた乙臣が、無機質な声を上げる。それに重なるように僕の頭部からシャリっと音が鳴り、より無機質な声を上げる。

「カミノケガカッテニキレルナンテ」

「ハサミを持ってる奴の台詞じゃねえ!」

 だが、肝心の切れた、いや、切られた髪の毛が見当たらない。何処にもだ。

 そして乙臣も見当たらない。その代わりに、モーター音が聞こえる。

「オットット」

 今度こそやられた。少年時代に聞いたことの有る音。髪の毛が刈られる音。

「髪が、髪がぁぁぁあ!」

「括弧絶句括弧閉じ」

「自分で括弧言うなよ……髪の毛返せよ……」

「え、えぇ。返したくない気持ちは募り積もる位よ、でも、返ってるのよ。髪が」

 恐る恐る刈られた部分に触れてみた。確かに乙臣の言う通り髪の毛は有り、刈られた髪の毛は丸々元の通りだった。

 何だこの治癒能力、吸血鬼? 九尾? 判らん。いや、と言うか髪の毛まで治癒されても困る。

「これはやっぱり、一度皮を剥いでみる、を、するべき」

「するべきじゃない」

 「じゃあ」と、検索エンジンを開き、あのワードを軽やかに打ち込む。

 そう、【Cider’s】だ。

「それ、知ってるのか?」

「何それ、ボックスに直で打ち込んでいるんだから知っているに決まっているでしょ。その分かりきった上で言う上等文句が一々ウザったいのよ。その人が誰か、誰なのか分かるより先に、もしくは前後に、それも数秒よ? なのに、分かりきっているのに、訊いてくるなんて、正気の沙汰じゃないのよ。鉈で掻っ捌いてやろうかしら」

「すいませんでした」

「反論もせずに、そんな軽々しく謝るなんて、アナタそれでも男なの?」

 矛盾だ。

「で、乙臣。何故僕とそのサイトが、じゃあで繋がるんだ? 僕は都市伝説じゃない。単なる人だぞ? 唯一の個性といえば少し後ろ向きな事位だ」

「それじゃあ主人公にはなれないクマ」

「?」

「思わず使っていたのなら気にしなくていいのよ」

 乙臣の止まっていた手は、また動き出し、サイトトップのログインページに行き着いた。そこで乙臣の手は再び止まる。

「アナタも一応作っておいたら良いんじゃないかしら、うん、それが良いわね、作っておきなさい、アカウント」

「そうだね、お母さん!」

「お母さんだなんて、アナタ恥ずかしくないの?」

「乙臣が振ってきたんだろうが!」

「サァ」

 そして作ってみた。アカウント作成は、メールアドレスに希望の名前を入力するだけで完了した。約2分後に、パスワードなる物が送られてきた。それを自分で打ち込み、人生初のログインを果たす。

 そこにはまだ少ないが、確かに都市伝説を扱っているスレッドのようなものが、一応連立していた。


銘柄

>後ろ向き殺され隊 Co2=6

>夏は潮干狩り、冬は寂し狩り Co2=61

>机にも車にもレンジにも負けないスレ(コピペ) Co2=3

>お試しさんプログラム Co2=23

>空論語 Co2=9

>管理人へのバリゾーゴン Co2=??9

>チャットルーム Co2=231


 タイトルはバラエティに富んだ内容だが、大丈夫なんだよな、このサイト。

 試しに一つ、スレッドを覗いてみるか。


銘柄>後ろ向き殺され隊 Co2=7

CN:不労所得希望

Co2:マリーさんスレ。(丸投げ)

CN:電信コート

Co2:つまんねぇスレ立てんなよ!

CN:友達の友達が腐痛

Co2:そっちのマリーさんではないな

CN:電信コート

Co2:マジレスカコワルイ

CN:友達の友達が腐痛

Co2:は?

CN:狭山茶にお団子

Co2:よいぞよいぞー、もっとやれ。

CN:祭囃子流行語

Co2:マリーさんについて調べてみた。

 と、言える大人に何てなりたくない。


「やっぱり僕には関係なんてなかったようだ」

 そのままパソコンを閉めようとした僕の右隣で、今まで僕が惰性で操作していたマウスを横取りした乙臣は、右腕で机に寄りかかりながらチャットルームへ矢印を運ぶ。

「ここがこのサイトで唯一の有力な情報源よ」

「正直面倒くさいのだが」

「あら、随分正直なのね」

 華麗にスルーされた事はスルーして、一度テストの意味を込めてコメントをしてみた。


CN:ジョン・ドウ

Co2:ts


「……ジョン・ドウは、無い」

「僕のセンスを否定するなよ! 無いって断言するなよ!」

「センス? アナタの場合、欠点をセンスって言うの?」

 その時、僕たちの仲裁に入るように、ポーンと更新音が鳴る。


CN:雨のちドロップ

Co2:権さん居ますか?


「あ」

「どうした? 乙臣」

「ちょっと待ってて」

 乙臣は、僕の部屋から出て行く。


CN:雨のちドロップ

Co2:権さん居ますか?

CN:権利者

Co2:私ですか?

CN:プライベートルーム

Co2:雨のちドロップと名無しの権兵衛が、プライベートルームへ入室いたしました。

CN:権利者

Co2:え、何この疎外感。

CN:権利者

Co2:こっちに手を振ってるから振り返したら、後ろの人に対してで恥ずかしいみたいなこの状況。


 しばらくすると、乙臣がそそくさと僕の方へ歩いてきた。そして僕は、胸倉を掴まれ引き寄せられた。僕は両手のひらを、自分の肩辺りに持っていき、拒むように手前に開く。

「ねぇ、お願い事があるのだけれど」

「お、お金ですか?」

 「違う」と、回るほうの椅子に押し倒され、勢いそのまま背中を壁に強打、乙臣は強打した壁に右手を付き、顔を近寄せる。

 言うなる壁ドンである。

「今から私の友達に危害を加えた仇を、アナタが討ちに行くのだけれど、異論は無いわよね」

「無い訳ないじゃないですかぁ」

 我ながらイラつく返しだとは思うが、反省はしていない。

「じゃあ特別に、思春期真っ只中の学生なら、全ての穴という穴から手が出る程、知りたい事受けあいな、私のスリーサイズ教えてあげるから」

 上はどう見ても七十だ「あぁあぁ、何を思考したか分かっちゃった、アナタのその目。で、知りたいの? それとも死にたいの?」

「し、知りたい……」

「死にたい?」

「知りたい!」

「それは私事に協力するという事で良いのよね」

「あぁ、それで仇討ちとは何をするんだ? くさやとか牛乳とかと、一緒に発酵させた雑巾を投げつけるのか?」

「それも良いけど時間と手間が掛かり過ぎるから却下よ。それよりも手っ取り早いアレがあるじゃない」

「あぁそうか、発酵させずとも、レンジに掛けれ」「土下座よ、土下座」

「じゃあ、早く向かいましょ、事情聴取へ」

「いや、待て」

 土下座……何か忘れているような……。

「……スリーサイズを、教えてもらっていない」

「あらあら、そんな事をまだ覚えていたなんて」

「連絡先も教えてもらってない!」

「教えるなんて言ってないし、今更教える気なんて更々無いのだけれど」

「況してや良い事も教えてもらってないッ!」

「……ニィ」

 な、何だ何なんだ、そのしてやったりな、したり顔は。

 まるで、僕が土下座する事を忘れて、鮮鮮と笑顔を振りまいているみたいじゃあないか。

 ……………………………………………………。

「アラ? 土下座をして首を鉈で掻っ捌かれる準備が整ったのかしら」

「合わせ技になってしまったぁーっ」

 僕の海馬先生は収納術が巧みで、当の僕にすら分かりにくい場所に収納してくれてしまうようだ。

「さあ、私の友達に事情聴取に行くか、じぶんで掻っ捌くか決めなさい。決めさせてあげるから」

 乙臣が口を開く度、状況が悪化していく。詐欺師か乙臣は。

「乙臣は自分の手を汚さないのか」

「嫌だ汚らわしい。反吐が滲み出る」

「そんなに嫌なのかっ!? 何だか僕は悔しいよ……」

「悔しいなら見返しなさい」

「首謀者に言われた……」

「じゃあ、行きましょう。事情聴取に」

「いや、待て。その前に一つ教えてくれ。乙臣は、ハサミやらバリカンやら、何処から出して来るんだ?」

「バックや衣服の中よ」

 良かった、頭の中に収納してなくて、なんて言ったら幾ら毒を盛られるか分かったものではないので、言うのは止めておくが、些か収納されている物が気になる。

「ところでさ、他に何が収納されているんだい?」

「そうね、例えば、おとうさんに貰ったガス銃、とか」

 おもむろに懐から取り出された銃は所々錆が生じ、見るからに年季が入っていた。

「で、それは何時生産されたんだ?」

「二十五年前位かしら」

「ガッツリ規制前じゃないか……」

「まぁ、これは全然関係無いのだけれど、炭酸ガスの入浴剤って何故か持ってしまうわよね」

「うわぁ、危ねぇ……」

 量によっては黒色のブレスレットに別荘をプレゼントされてしまう。

「で、全てひっくるめて総重量は幾らなんだ?」

「女の子に重さを訊くなんて、失敬極まりないわね」

「あぁこれは失敬、では気を取り直して訊くぞ、林檎幾つ分なんだ?」

「全く配慮になっていないけれど、まぁいい。このまま私が衣服や、その他諸々と一緒に林檎へと変換されたなら、林檎〇九〇四一個かしら」

「万単位に達する事があるのか!?」

 全く、その整理整頓術を僕の海馬先生にも顰に倣って欲しい、いや、よく見て習って欲しいものだ。

「じゃあ。早く行かなきゃ、事情聴取」

「いや、待て」

「待たない」


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