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庇いの代償

 妹と足並みを揃えて、駅まで見送りし、今までの一人行動に少し感傷に浸っていると、いつの間にか駅前近くになる。

 会話の墓場と言われている、しりとりに手を出してしまった。が、それも終わってしまった。残るは、共感出来るからこそ盛り上がる昔話しか残っていない。

「そうだ、昔話をしよう」

「それは会話?」

「僕の今からしようとしている昔話は、筆談ではないし、手話でも点字でもない事は確かだ」

「回想と言う手があるよ」

「ドッジボールではなく、キャッチボールをしよう」

「でも電車の時間がもう直ぐそこに来てるから回想にしよう、その間に私、帰るから」

 僕の特技にメタル斬りは無いが、その代わり僕はメタルライダーだ。

「こんな序盤で、メタ発言するな! 地が固まらなくなるだろう」

「メタ発言はするけど、メタ認知はしないのが私なのだよ」

「その発言は、既にメタ認知してる奴の発言だろ!」

「あーぁ、もう回想を始めている時間もないのだよ。帰るね、にぃちゃん」

「何だよ、もう帰るのか」

 言い終えた時には頷は目の前に居なかった、さっさと行ってしまったようだ。おかげで僕はキャッチボールでもなく、ドッジボールでもなく、砲丸投げをする羽目になってしまった。

 やはり回想が始まる兆しは無い。

 まぁ会話が続かないから仕方なく出した昔話だったから良いんだけれどね、別に。

 さて、頷を見送った事だしコンビニに行こう。

 買うとしたら、今はカビの入っていない水と、今は異物混入していない堅い芋。あと目的のミルクコーヒーかな。

「…………ん、……あ、あれ、あれれ、冷たッ」

 雨が降ってきてしまった。これ以上無意味に濡れるのは癪だし、僕に水が滴ったところで、見て呉れは悪化の一途を辿るだけなので、丁度そこに在る本屋で、一先ず雨宿りだ。

「あー、んー、どーす、かなー」

「あ……そ、の」

 聴覚で感じる、僕以外の声。

 その声は俗に言う、ひそひそ話に用いられるような、そんな声だった。

「あの、そ、の、、私」

 その子は傘を持っていた。濡れた前髪を撫でる様に引っ張りながら俯いていた。肩辺りまでのその髪は、雨で濡れているのにもかかわらず、所々寝癖と思しき癖が付いてる。ついでにずぶ濡れだった。ついでにするにはあまりにも失礼な位に、バケツを頭の上でひっくり返して全身で受け止めたと言われても、信じてしまう程にずぶ濡れだった。

「もしかして、ナナちゃんのお兄さんなのかな? あ、ナナちゃんは、七詩頷ちゃんの事なんですけど、、えと、私は砕並九です。ナナちゃんとはチャットで知り合った仲で、今日初めてお互いの顔を合わせたんですけど、えっと、お兄さんの事を、チャットで失礼にも聞いた事があってですね、でもお兄さんとの思い出が殆ど無いそうで、だからお兄さんってどんな人なんだろうとずっと思ってたんですけど、たった今妹さんと喋っているところを見てしまいまして、もしかしたらと思って声をおかけしてしまいました、えっえーと、えーと、、何て言うか」

 この文字数、早速受け止めきれない。一人のキーパーに対してのボールが多すぎる。

 ここは一先ず情報を整理しよう。

 この人が砕並さんで、頷とはチャットの付き合いをしていて、今日初めてオフで会った。僕の事は頷から話を聞いて知っていて、その頷と話していたので試しに話しかけた。頷にとって僕と会うのはついでで、砕並さんはとても可愛い。

 よし理解した。

「ところで、砕並さん。チャットって何を利用しているんですか? やっぱり呟ききったーですかね」

「……サンダース?」

「その鳥揚げられちゃってるじゃないですか!」

「あぁ、いや、、これです」

 砕並さんが、ポケットから取り出した携帯。その画面中のサイトロゴには『Cider’s』と表記されていた。たぶんこれは、サイダースと発するのだろうけど、だとしても何故にして炭酸水?

「あの砕並さん、そのサイトは、具体的に……チャットルームで良いんですかね」

「ううん、あ、違います、、多分ですけど、確か都市伝説を専門に扱っていたはずです、、それで都市伝説情報を得る為に、チャットする所があって、そこで私はナナちゃんと知り合ったんです、ぅ」

「都市伝説ですか……」

「あの、もう少しお兄さんと話したいので、そこの喫茶店で雨宿りしませんでしょうか、ぁ……」

 この雨の中で、会話の間は雨音で埋まっているが、それの無い喫茶店――周りの空間が、落ち着いた雰囲気で埋め立てられていくことだろう。

 「そうだな、なら早いほうがいい」「喫茶店へ行こうぜ……雨宿りに…………濡れちまうからよ……」なんて、これっぽっちも言おうとしてはいけない。

 時には断る勇気も必要だ。笑顔を作り、手振りで断る。

「え、じゃあ、あのぉ……えとっ、風邪拗らせてもあれなので、傘、差してって下さい」

 勿論言ったのは僕じゃない。そもそも傘が無くて、雨宿りを余儀無くされたんだから、僕の筈がない。

「それは嬉しいですが……」

「良いんです、気にしないで下さい、もう一本持ってますし、、気にしたら負けって感じで諦めて下さい」

 傘を無理やり押し付けられる。

 放課後校舎裏でバレンタインチョコを無理やり胸に押し付けて、走って逃げる少女を思わせる。が、砕並は逃げずに押し付けっぱなしだ。傘を。

「私なんかの傘、請け負ってくれますか?」

「請け負うなんて大袈裟な、そこまで言うなら貸してもらいます」

「本当ですか! それは良かったです、はい」

 笑顔だ。ぎこちないけれど。何となく卑屈な感じもしたけれど。

「じゃあ、さよなら、お兄さん」

「あぁ、また今度会いましょう」

 足早に去ってしまった。さっきから空振っているような気がする。

「ふきゃ! 何で?」

 対向から来た車が、丁度砕並さんの付近で大量に泥水を撥ねる。

 友達に会って、離れれば雨が降り、僕に別れを告げれば泥水を被り。

 砕並は、その苗字に倣うように苛まれていた。それはまるで災難を自分から全て被りにいっているみたいに――他人を災難から庇っているみたいに。

「んあ、なんか雨強くなってきたかな?」

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