黎明の部屋~戦国ノ間~
体全体に風を感じる。
だんだんと地上の灯りが見え始め、なぜか自分が吸い寄せられる感覚に陥る。
いや、吸い寄せられているんじゃない、落ちているんだ。舞い降りているような感じだ。
なんで落ちているんだろう・・・?
確かに【黎明の部屋】と書かれた白いドアを開けて中に入ったはずなのに。
俺はなぜか静かに音も立てず、衝撃もなしに着地した。どうやら落ちてる時に見えたもりのなからしい。
「ヒヒーーーン!!!」
ふと隣を見ると、栗色の美しい毛をした若い馬が鳴いていた。
「なぜこんなところに馬がいるんだ?」
その馬はこちらの方を見つめまるで、”乗れ“とでも言うかのように尻尾を犬のように振っている。
理由は後ろから聞こえてくる叫び声と、大量に現れた武装をした人をみれば明らかだった。時折聞こえる、「死ね」、「消えろ」、「殺すぞ」、「ギャー!」という声でここが何処かの戦場だということがわかった。なぜ武装をした人がいるのか分からなかったが、本能的にマズイと思った俺は馬に乗り走り出していた。
栗色の毛をした馬は、赤松と思われる木々の間を華麗に通り抜けその速度を落とさずに駆け抜けていく。そのまま進むと今度は左の方から鈍い銃声が鳴り響く。前方をよく見ると、地面に深く突き刺さった幾つもの弓や、銃口が壊れた火縄銃、火薬の燃えかす、さらには鎧を纏った首無しの武士が無造作に倒れていく姿が見える。剣や刀からは幾つもの火花と血が飛び交いここがとんでもなく危ない場所だと嫌でも再確認させられる。
「ホントになんなんだよ、ここ?」
飛び交う弾や弓を器用に交わしながら俺は走っていく。様々な障害物を避け、ジグサグにどんどん戦場から遠ざかるように進むと、目の前に大きな大木が倒れている。馬は、そいつを飛び越えるように地面を蹴った。
飛んでいる瞬間。本のわずかの一秒ともいえない短い時間。俺は突然ものすごい寒気に襲われた。背中を舐め回すような、そんな感覚。ふと後ろを振り返るとその寒気に襲われた正体を見つけた。
黒い大きな影のようなその物体は月明かりに照らされ不気味に笑う。しかもそれは俺を追ってくる。俺は逃げるため、この状況から脱出するため手綱をしっかりと掴んだ。
すると、前方から淡い微かな白い光が見え始めだんだんとその明るさを増していく。余りの眩しさに急に馬が止まり、俺はなす術もなくスピードにまけて前に飛んでいく。
ごぼっ、という地面に突き刺さるような鈍い音をたてて俺は着地した。そんな俺の周りを囲むかのように白い光が分散して近づいてくる。白い光は俺を守るように動き、黒い影を追い払うように動く。最終的に黒い影は消え、後には俺と馬、白い光が取り残されていた。
「あなたは挑戦者ですか?」
頭の中に突然透き通る綺麗な女性の声がきこえてきた。その発信源を探るように辺りをキョロキョロと見渡すと、
「私はここです。」
と、まるで自分を主張するかのように白い光がチカチカと輝きはじめた。
最初は意味が分からなかったが、考えても無駄だと思い直し、その方向に視線を向けた。
「私はこの部屋の【鍵】です。あなたを待っていました。」
「どうしてここに・・・?」
「その説明は後です。まずは私についてきて下さい。その馬は連れていけません。」
そういうと、なにもない空間から一つの階段が現れた。白い光に導かれ階段を登ろうとすると、走っているときについただろう葉っぱが俺と階段をすき抜け地面に落ちた。不思議に思った俺は一度戻り、近くに落ちていた枝を拾いまた階段を登った。またしても俺と階段をすき抜け地面に落ちた。
「あなたはこの部屋、いいえ、この世界からなにも持っていくことは出来ません。持っていける物は最初から身につけていた物、もしくは持っていた物のみです。持ち出そうとした場合はこのようにあなたの体をすり抜けていきます。」
何か決まりがあるのだろうとおもってとりあえず納得した俺は白い光を追って階段を登った。月明かりに照らされ、高く鳴く馬はどこか寂しげな表情を浮かべていた。