幽霊社員(四百文字お題小説)
沢木先生のお題に基づくお話です。
「幽霊社員」をお借りしました。
まさに空に誰かが大きな針で穴を開けたのではないかと思うような突然の豪雨に見舞われ、俺はずぶ濡れになって帰社した。
すでに時刻は午後八時を過ぎている。
俺は出先から直帰するつもりだったのに、会社の机に自宅の鍵を忘れたのを同僚の女の子に教えられたのだ。
その子はとても気がつくと評判の子だ。
お世辞にも美人ではなくぽっちゃりと言うには無理がある体型。
でも愛嬌はあり、男女共に後輩には慕われていた。
滴を滴らせながら階段を駆け上がり、所属する課のあるフロアに着いた。
「やっぱり来てしまったのですね」
何故かその子が俺の机の前で待っていた。意外だったので驚いてしまった。
「貴方の心残りはこれですね。さあ、もう逝くべき所に逝ってください」
彼女は俺が忘れた家の鍵を掲げ、微笑んだ。
その時、今日何があったのか思い出した。
会社に戻る途中でホームから落ちて、入って来た電車に轢かれたんだ……。
俺は彼女の笑顔に癒され、微笑み返した。
お読みいただきありがとうございました。